合コン





  大学に入ってからも学校が違うため、と黄瀬は毎日会うことはできない。

だからというわけではないが、毎日電話をして話をする。

それこそ、黄瀬が忙しいこともあり、時間的には短いが、やはり毎日声が聴けるのと聴けないのとでは全然違うのだ。

話をしているとふとが沈黙する。

ちゃん?」

不思議に思って声をかけると

「あのね」

と何やら言いにくそうな話の切り出し方をしてきた。

「どうしたんスか?」

「あのね、えと。今度ね...」

「うん、ゆっくりでいいっスよ」

「うん。今度ね、大学の友達とご飯行くかもしれないの」

(今までもあったし、特に約束はしてないし...)

元々約束がある日に入ったというなら言いにくいだろうが、今のところそんな予定はなかった。

そして、ふと思いついた。

「それでね、男の子たちも来るの」

「...合コンっスか?」

黄瀬の言葉に息をのんだ気配があった。

そんなにきつく言ったかな、と黄瀬は心配する。

「うん。そう...なんか、人数足りないって。わたし、彼氏いるって話して断ったけど、人数合わせだから別にいいって言われて...」

あまり友達づきあいをしないのもどうかと思う。

黄瀬は普通に友達づきあいはするし、そういうのって悪くない、どちらかといえばいいことだと思っている。

ただ、黄瀬は合コンに誘われたことはない。

いや、誘われたことはあった。だが、事務所NGだと嘘を吐いて断っている。

どうでもいい女に割く時間があればに会うか電話をするかしたい。

自分のことはともかく。

は人付き合いが苦手な方で、だから黄瀬は自分の予定と友人との予定が被ったらそっちを優先するように一度は促すようにしている。

そうでもしなければはものすごく狭いコミュニティで過ごしそうだから。

しかし、今回のことはどうしたものか...

(本当は嫌なんスけどね...)

受話器から離れてため息をつき、いろいろ飲んで

「わかったっスよ」

と承諾した。

「え?」

ちゃん、信じてるから。仕方ないっスよ。友達づきあいってことで」

言った後にものすごい後悔。

もやもやとする腹の中をごまかすように話題を変えた。



「バッカだなー」

一緒に練習しないかと声をかけられて黄瀬はそちらに参加した。

ちょうどが合コンに行く日のことだ。

休憩中にの話をしてすぐにそう言ったのは青峰だった。

「な、なんで!?」

「そうよー、きーちゃん」

今日はも一緒に来ると思ってそこに来ていた桃井も同意する。

が来ないと聞いて非常に残念がった。その憂さを晴らすように彼女は畳み掛けた。

「だって『信じてる』て言葉は口に出すこと、すなわち信じていないってことって言う人もいるわよ」

「え、ええ??で、でも。ちゃんは幹事の人に彼氏がいるって言ったって。彼氏がいるって」

「なんで「彼氏がいる」と2回も言うんですか」

不快そうに黒子が言った。

「え、大事なこと」

黄瀬が言う。

「でも、ちんがそういってたとしても。相手は気にしないって言ったらもうアウトでしょ」

紫原の言葉に黄瀬は青くなる。

は意外と押しに弱いしな」

緑間が余計なことをいう。

「ええ?!」

ちんって小さいからお持ち帰りにちょうどいいサイズだもんね」

「ああ。ちっせーもんな」

本人がいたら確実に「平均だ!」と反論しそうなことを紫原と青峰は言う。

「てか、なんできーちゃんいいって言ったの?ほんとはやだったんでしょ?」

「だって、そういったらなんかかっこ悪いじゃないっスか」

「は?」

眉間にしわを寄せて緑間が問い返す。

「嫉妬なんてかっこ悪いじゃないっスか」

拗ねたように黄瀬がつぶやいた。

その言葉を聞いたキセキの世代(桃井を含む)はため息を吐いた。

「何なんスか!」

「涼太。今更君にかっこつけてどうする」

「お前、これまでも相当かっこ悪いところ見られてるじゃねーか」

心底呆れたように青峰が言った。

「黄瀬君は、さんの中でそんなにかっこいい部類に入っていないと思います」

「酷っ!」

黒子のトドメに黄瀬は声を上げた。

「さあ、休憩はお終いにしよう。練習を続けるぞ」

赤司に言われてそれぞれコートに戻っていく。

「きーちゃん?」

「何スか?」

「探しにいかないの?」

桃井が問うと彼は苦笑した。

「ここで練習放ったらかしてちゃん探し出しても、余計かっこ悪いだけっスから。中途半端が一番かっこ悪いっスよ」

そういって黄瀬はニコリと笑って練習に戻った。

「はぁ...手のかかる」

呟いた桃井は自分の持っている情報網を駆使して、のいる店を探してみることにした。



(つまんない...)

みんなは楽しそうにしている。だが、自分は心からつまらないと思っている。

ご飯だってさほどおいしくない。

こういうお店でご飯を食べるのは大学に入ってからはそれなりにある。

しかし、その場合気の置けない友人たちとばかりで、こんな初めて会った人とはない。

おいしくなくても、楽しければ気にならない。

だが、今回は

「ねえ、ちゃん。その帽子かわいいね」

と馴れ馴れしく声をかけてくる不快な状態に置かれている。

先ほど店に着いたばかりのところで桃井からメールが入っていることに気付いた。

彼女は今日、黄瀬が参加しているという合同練習会場にいるというのだ。

知っていたら確実にそっちに行っていた。だって、楽しいから。

「ねえ、どこで買ったの?センスいいね」

知らない、初対面の男に「ちゃん」と呼ばれるのもすごく不快だ。いつも黄瀬に呼ばれるときはすごく優しい響きで、呼ばれると嬉しくなるというのに。

ちゃん?」

「彼氏にもらいました」

ムキになって返す。

彼氏がいても人数合わせで来てくれたらいいといったのは幹事だ。

だから、もうそれをばらしてやることにした。

一瞬部屋の中がシーンとなる。

(帰ろう...)

「え?彼氏いるの??」

「そうです」

「じゃあ、なんでここにきてるの?あ、彼氏に不満があるんだ?」

「はあ?!」

思わず声を上げた。

ものすごくむかついた。

黄瀬は本当はがここに来るのを嫌がっていた。

それは気づいた。

それでもいいと言ってくれたのは、人付き合いが苦手な自分のためだ。

だから、頑張ってみようと思ったのに...

(もう義理は果たした)

はそう判断してバッグに手を伸ばした。

「え、ちょっと」

「人数合わせはもういいでしょ」

ここで幹事との関係にひびが入っても全然かまわない。

「ちょっと待ってって。遊びたかったんでしょ?彼氏、つまんないんでしょ?」

先ほどからにちょっかいをかけてきていた男が彼女の腕をつかむ。

「痛い。離して」

キッと睨むがその視線は受け流された。

「オレ、この子お持ち帰りな。おもしれー」

「そりゃ困るっスね」

は驚いて声の主を見上げた。

たがわず彼の顔の位置に視線が行く。

その部屋にいた女子たちはにわかに浮足立った。

「この子、オレの彼女なんで気安く触らないでくれないっスか」

冷やかに彼が言うと男は思わず腕を放した。

「行こう、ちゃん」

「黄瀬くん、なんで...」

の言葉にニコリとほほ笑んだ黄瀬は彼女の帽子とバッグを持って彼女の手を引いて部屋を出て行った。


「あの、黄瀬くん」

に帽子をかぶせて黄瀬は彼女の手を引いたまま店を出ててくてくと歩く。

「ごめんね、ちゃん」

「え...な、なんで?」

が問うと

「オレがへんな見栄張ったから」

と少しだけ情けない表情をして黄瀬が言う。

「あの時、ダメって言ったらちゃんさっきみたいないやな思いしなくて済んだでしょ?オレが、かっこつけて理解のある彼氏面していいって言ったから。ちゃん、オレが思ったことわかってたから、さっきも我慢してたんでしょ?」

だからごめんね、と彼が言う。

「全然!全然「ごめん」じゃないよ!」

ぶんぶんと首を振ってが言う。

「だって、助けてくれたもん。あのね、助けてくれたとき。黄瀬くん、王子様かと思った」

黄瀬を王子様というなら自分は何になるのだろうか...

少しそのたとえが陳腐な気がして、気恥ずかしくなっていると

「そうっスか。オレ、ちゃんとちゃんの王子様になれてるっスか?」

と黄瀬は目を細めて優しく微笑む。

その笑顔にあてられては思わずうつむいた。

そしてふと気づく。

「あれ?」

(そういえば、どうしてあの店に来たんだろう...)

この界隈には結構がある。学生が利用する店は安価なところに絞られるが、それにしても多い。

単なる勘でドンピシャはまず考えられない。

「桃っちが調べてくれたんスよ。あの子の情報網、ほんと怖いっスね。いつかどこかの大国からエージェントのスカウトが来るっスよ」

苦笑して黄瀬が言う。

(お礼言わなきゃ...)

「今から、みんなでご飯にしないかって話になってるんスよ。だから、オレがお迎えに上がりました、お姫様」

少し芝居がかって黄瀬が言う。

「ほんと?!」

の声が弾む。

「本当。だから桃っちが全力でちゃんを見つけてくれたんスよ」

「すごい!楽しみ!!」

嬉しくて黄瀬を見上げると黄瀬が、自分のほっぺを指した。

「ちょ!黄瀬くん!!」

外では自重するようにこれまで何度も言っている。

「お姫様を救出したんスから、少しはご褒美がほしいっスよ」

少し拗ねたように黄瀬が言う。

はぐっと詰まって、黄瀬を引っ張っていく。物陰に入って背伸びをして黄瀬の要望通り頬にキスをした。

「ありがたき幸せ」

そういって黄瀬はにキスをした。

「こら!」

「ははっ!あんまり遅いと桃っちに怒られるっスね」

そういって黄瀬は上機嫌にの手を取って歩き出した。

「黄瀬くん」

「何スか?」

「名前呼んで」

「ん?ちゃん」

「へへ」

よくわからないが、彼女が嬉しそうなので黄瀬も笑う。

「よくわかんないスすけど、オレはこれからもずっとずっとちゃんの名前呼ぶから安心してほしいっスよ」

黄瀬の言葉に彼女は少し目を見開き、そして幸せそうに微笑んだ。









桜風