彼女はかく語りき 結





 この間、ちゃんのお母さんとご飯を食べた。

その時に聞いた話は、すごく衝撃的で、なんでオレに話してくれたんだろうって不思議だった。

ちゃんは知ってる話だったのかな?

インターホンの音が耳に入り、オレは立ち上がって、急いで応じる。

今日は、ちゃんが、桃っちと旅行に行った時のお土産を持ってきてくれるという話だったのだ。

「今開けるっスよ」

そういってエントランスホールのロックを解除して彼女の到着を待った。

ホントはエントランスのロックも彼女は解除できる。

でも、一応は礼儀というか、そういうことでインターホンを押したいというのだ。

オレは全然かまわないから彼女がしたいように、って思ってる。

部屋の鍵が開いて「黄瀬くん」と彼女が声をかけてきた。

「いらっしゃいっス」

久しぶりの彼女に、玄関先でキスをして、迎え入れた。


「桃っちとの旅行はどうだったスか?」

「楽しかったよ」

満面の笑みで彼女が言う。

なんか、ちょっと面白くない...

「黄瀬くんも、今度一緒に行こうね」

たまに、彼女に心を読まれているのかと思う時がある。

「そうっスね」

頷くと彼女は嬉しそうに笑った。

「はい、これお土産」

そういって渡されたのは、チーズとワイン。

「あ、美味しそうっスね」

「うん、味見したけど結構おいしかったよ。さつきも買い込んでた」

「桃っち、パワフルっスね」

その時の光景が目に浮かぶ。

張り切る桃っちをちゃんが呆れて眺めてるんだ。

でも、心底呆れているんじゃなくて、ちょっと楽しそうに。

「ナンパ、大丈夫だったスか?」

聞くと彼女は困ったように笑う。

「もう、黄瀬くんはそればっかり。大丈夫だって」

ちゃんたちにその気がなくても、力づくで来られたら抵抗できないでしょ?」

「まあ、うん」

小さな彼女がさらに小さくなる。

旅行に行くが、ツアーじゃないと聞いた時には本当に心配した。

一緒に行くべきかと悩んで青峰っちにも相談したけど、青峰っちには、「ガキじゃねーし」と一蹴された。

でも、青峰っちが桃っちのことをすごく心配してたのは知ってる。

だって、桃っちがいない間、結構オレに連絡してきてたから。

ちゃんからなんか連絡来てないかとか。

何でこんな素直じゃないのかね?


旅行の土産話を、彼女の持ってきたワインを開けてグラスを傾けながら聞いた。

目を輝かせて楽しそうに話をする彼女を見てるのはすごく楽しくて、幸せな時間だった。

「そういえば。オレもナンパされたんスよ?」

そういうと、彼女は少し驚いて、そして、ちょっぴり拗ねた目をした。

可愛い...!

「お義母さんに」

「へ?」

「駅でたまたま会って。夕飯ごちそうになったっス」

「そうなんだ?」

「なんて店だったかなー?結構..こう...歴史がありそうな店で」

表現に気を使う。

「ああ、あそこに行ったんだ?大将さん、元気だった?」

そういってちゃんが笑う。

「元気だった。大将さんもちゃんのこと覚えてたっスよ」

「そうなんだ?モツ食べた?調子が悪い時に食べたら、胃もたれ起こすんだけど、美味しいよね」

弾んだ声で彼女が言う。

「絵面はちょっとグロかったっスけどね」

笑って言うと彼女も笑う。

「お義母さんに昔話してもらったス」

そういうとちゃんが一瞬驚いたように目を見開いて、そして笑った。

「お母さん、黄瀬くんのことを相当気に入ってるんだね」

「そう..なんスかね?」

「そうなんスよ」

ちゃんが笑って返す。

「お義母さんのこと、嫌いになった?」

伺うように彼女が言う。

「ううん。お義父さんとお義母さんの馴れ初めには驚いたっスけどね」

「お母さん、よく言ってる。胃袋をつかまれるのは男だけじゃない!って」

確かに。ちゃんのお母さんは胃袋をつかまれてしまったんだよな。

「オレは、胃袋だけじゃなくって。全部ちゃんに捕まれてるっスよ」

そういうと彼女は目を丸くして、そして笑う。

「わたしも!」









桜風
13.4.6


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