| 誕生日をお祝いするというのは、初めてではないが、初めてのことだった。 6月に入り、少しずつ焦りが生まれてくる。 といっても、部活中はいつも通りであり、誰も彼女のことを心配することはなかった。 (どうしよう) 悩んでいても時間は足踏みしてくれることはなく、寝て起きれば黄瀬の誕生日にまた1日近づいているのだ。 もちろん、それに抵抗しようとして徹夜をしても同じことではあるが... 「さん、最近どうしたの?」 朝食をとっている母が姿勢を正して聞いてきた。 「は?」 「お料理が、心ここにあらずだわ」 真顔で指摘された。 母が言うのだ、間違いないだろう。作れない分、食べるときにはものすごく味わってくれているのだ。 「あ、うん。ちょっとね」 「涼太くん?涼太くんね?!」 うきうきと弾んだ声で言われた。 「まあ、うん...」 「大丈夫、喧嘩をしても『ごめんね、大好き!』で仲直りできるから!これ、確実!!」 サムアップでそう言う。 「あ、うん。はい、まあ...」 母の勢いに押されてそう適当に返した。 全く問題が解決できていない。 黄瀬の誕生日を1週間後に控えたその日の晩に、黄瀬から電話がかかってきた。 「久しぶりっスね」 インターハイの地区予選が始まっているので、お互い部活が忙しいということもあり、連絡を控えていた。 黄瀬は毎晩電話をしてもいいだろうかとベッドの上でごろごろしながら悩んでいたのだが、今日は口実もあるし、と意を決して電話をしたのだった。 「うん、久しぶり。調子はどう?」 「まあまあっス。でも、ちゃん絶ちしてるから元気はないっス」 しょんぼりしたように黄瀬が言う。 は嬉しくて笑った。 「もー、笑い事じゃないんスよ!」 「メンタルも鍛えて」 「うん。ね、来週の今日、時間取れる?」 黄瀬が問う。 「え、あ。うん」 「来週の今日、何の日か..忘れて...」 「ないよ。黄瀬くんの誕生日」 の言葉にほっとした。 「じゃあ、オレの誕生日お祝いしてほしいっス」 「そのつもりなんだけどね、えと」 もう降参することにした。 「誕生日プレゼント、何がいいか分かんなくて」 「あ、ホント?よかった」 「『よかった』...?」 携帯を耳に当てながらは首を傾げた。 「一緒に行ってほしいところがあるんス。それで、誕生日プレゼント。どう?」 「そんなことでいいの?だって、買い物ならいつでも付き合えるし」 が言うと 「その日に、一緒に行ってもらいたいんス。あ、でも。部活の後だからちゃん、帰るのちょっと遅くなる..けど。大丈夫っスか?もちろん、オレが責任を持って家に送るっス」 と黄瀬が返す。 「時間は大丈夫だと思う。お母さんもそんなに気にしないだろうし。でも、黄瀬くんこそ疲れるだろうし、わたしがそっち行こうか?」 が言うと「ダメ!」と即却下された。 「え、ダメ...」 そんなに強く言われるなんて思っていなくては一瞬絶句した。 「あ、いや。ごめん、言い方きつかったっスね。そうじゃなくて。こっちにちゃんが来たら一人で帰せないし、来る間も何かあるかもって心配になるから。オレの我儘っス」 黄瀬が言う。 「うん、わかった。じゃあ、えと、待ち合わせとか」 「また連絡するっス。今日は、もう遅いし」 そう言われては時計を見た。 言われてみれば、黄瀬が電話してくる時間にしては遅めだった。 「わかった。ありがとう」 「こちらこそ。じゃあ、またね」 「うん、おやすみ」 挨拶を交わして通話を切った。 黄瀬の誕生日、は黄瀬に言われた通りの時間と場所に向かった。 結構な人ごみで、黄瀬を探していると「ちゃん」と腕を引かれた。 「あ、黄瀬くん。良く見つけれたね」 苦笑してが言うと 「ちゃんを見つけるのなんてオレにとっては息をするのと同じくらい当たり前っス!」 と胸を張って言われた。 たまに人込みに紛れてしまうと見つからないから、と手を繋がれていたのは何だったのだろうかと思いもしない。 「それで、どこに行くの?」 もちろん、今も手を繋いでいる。 「こっちっスよ」 黄瀬がいい、は手を引かれるままについて行った。 着いた先は、アクセサリーショップ。 「また撮影の?」 「違うっスよ」 そう言いながら店内に足を進める。 店員が黄瀬と仲良さそうに話を始める。 そして、に視線を向けて「この子?」と黄瀬に問うた。 「そうっス」 若干胸を張って黄瀬が言う。リアクションに困ったは、ひとまず会釈をした。 「よし、じゃあ用意してくるから待ってね」 そう言って店員が店の奥に向かう。 「何?」 「まだ秘密っス」 嬉しそうに目を細めて黄瀬が言う。 間もなく、店員が戻ってきた。 「はい、これ」 「ありがとうっス」 そう言って支払いもせずに店を出て行った。 場所を変えて黄瀬と向かい合う。 黄瀬が予約していた店だった。 「あの、黄瀬くん」 「あのね、オレがほしいプレゼントってこれなんス」 そう言って先ほどのアクセサリーショップで店員から受け取ったそれをテーブルの上に置いた。 「ん?」 よくわからない。 それを開けると、リングが2個。 「え、あの。あれ??」 「本当は、身に着けてってお願いしたんスけど。たぶん、学校はダメっていうかもしれないから、こうしてね」 そう言って細い紐を取り出した。 それをリングに通して、そして「携帯貸して」と手を伸ばす。 「うん」 言われるままに黄瀬に携帯を渡した。 「ほら」 ストラップとなったそれに「あ、」とが声を漏らす。 「これなら、お揃いが持って歩ける。このままつけてくれるっスか?」 「うん。でも、あの。えっと」 「オレはちゃんと『お揃い』がほしかったんスよ。あそこの店って、オーダーメイドできるから、オレが何となくイメージを話して作ってもらったんス。オーダーメイドだから本当に世界にこれだけ。唯一のお揃いなんスよ」 黄瀬が満足そうに言う。 「ダメっスか?」 伺うように黄瀬が言う。 「でも、わたし、やっぱりプレゼント用意できなかったことには変わりないっていうか...」 気に病むに黄瀬が苦笑した。 「オレは、もうもらったんス。ずっとずっとちゃんだけとのお揃いがほしかったんスから。少しは、独占欲出させてほしいっス」 拗ねたように黄瀬が言う。 「ホントにこれでよかったの?」 「何度でもそういうっスよ」 「じゃあ、わかった。黄瀬くんが良いっていうなら」 そう言っては納得した。 「あ、でも。1個、いいっスか?」 「ん?」 「名前で、呼んでほしいっス」 「な、名前?」 今更という感じはあるが、逆に、お互いが今までと同じならなんとなく変わった関係がこれまでと同じようで少しさみしい。 「え、と。じゃあ、いくよ」 の言葉に黄瀬はコクリと頷いた。 「り、涼太..くん」 「あ、ちょっとたんま」 ゴツンとテーブルに頭をぶつけて黄瀬が言う。 「え?」 「ごめん、ちゃん。やっぱり、今までの方がいいかも」 「う、うん。ごめん」 しょんぼりと返したに黄瀬が慌てる。 「あ、いや。そういうんじゃなくて。オレが、持たないっていうか...嬉しくて、死にそうで」 真っ赤になって黄瀬が言う。 ここまで赤くなった黄瀬は見たことがない。 「そ、そう?」 「うん、ありがとう。凄く、嬉しい誕生日っス」 にへらと笑った黄瀬には微笑む。 「よかった」 「うん、ありがとう」 黄瀬はもう一度お礼の言葉を重ねた。 |
桜風
13.6.18
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