ロミジュリの七夕





 期末テストの試験週間に入った。

黄瀬はその日を今か今かと待っていた。

理由はひとつ。とデートできるから。

部活ができないのは、何とも落ち着かないが、とデートできるのが嬉しい。

結局、痛し痒しである。

いや、試験がある分、今の方が痛いはずではあるのだが、そんなものは、試験が終わった後に感じればいい。

しかし、結果が悪いとに怒られ、次のデートを断られる可能性があるので、あまりひどくない程度で踏ん張りたい。

中々複雑だ。


駅前で待ち合わせをしていると笹飾りが目に入った。

(あー...)

ふと思い出した。

今日は七夕だ。

いつもはロミジュリとか言っているが、七夕っぽい気がする。

何せ、自分は毎日でもに会いたいのに会えないのだから。

「黄瀬くん」

そんなことを思っていると声をかけられた。

見下ろすと、走ってきたらしく頬を上気させたがいる。

「お疲れっス」

「なんで都外の黄瀬くんの方が早いんだろう」

「ん?なんでっスかね」

今日の掃除当番を代わってもらったから、とは言えない。

「ちゃんと試験勉強してる?」

「してるっス!」

それでも心もとないから、という取ってつけた理由により、本日は勉強デートなのだ。

取ってつけた、と思っているのは黄瀬本人だけで、はそれなりに彼の学業を心配している。

部活とバイト、そしてデートとか。忙しすぎる。何より、移動距離が長い。


黄瀬が器用な性格とはいえ、疲れも出るだろうし。今の季節なんて特に疲れるだろうに。

(せめてわたしが教えることができたら...)

その気になれば教科書全部記憶することができるは、試験勉強とは無縁で、試験勉強をしながら唸っている同級生を見ては首を傾げて生きてきた。

今できるのは、一緒に教科書を開いてその場にいることと、計算間違いなど、目の前で確認できることを指摘するくらいだ。

「どうしたんスか?」

じっと自分を見上げているを見て黄瀬が首を傾げる。

彼の髪がパサリと揺れた。

「ううん。よし、勉強しよう!」

ぐっと両手を握りしめてが言うと黄瀬が苦笑した。

「その前に、ちゃんとデートしよ」

そう言って彼女の手を取り、歩き出す。

「あ、今日は七夕かぁ」

ふと視界に入った大きな笹飾りを見てがつぶやく。

「そうっスよー。織姫と彦星がデートするんスから、オレたちだって楽しくデートするっスよ」

「そういえば、緑間くんって誕生日が今日?」

の言葉に黄瀬はぴたりと足を止めた。

目いっぱいつきたいため息をのんで、「そうっス」と頷く。

「メールか何かした?」

「...した」

「そっか。わたしもしよっと」

そう言ってが携帯を取り出した。チャリッと音がしたのは黄瀬の誕生日にもらったリングが何かに当たった音だ。

が、黄瀬が彼女の手ごと携帯をぎゅっと掴む。

「えーと?」

「ちょっと待って。オレ、今大人になってるから、もうちょっと待って」

黄瀬が眉間にしわを寄せながら言う。

「う、うん...」

は首を傾げながら頷いた。

女友達と仲良くするのは良い。むしろ、そうやってコミュニティを広げていけばいい。

誠凛のチームメイトと何かイベントをするのは良い。というか、同じ学校だし、部活も一緒なら仕方ない。

だが、緑間...

ちゃんにとっても友達だし、オレが桃っちにおめでとうメールをするようなもの...)

自分の心の狭さにダメージを受けながらそんな事を思って黄瀬は何とか落ち着き、

「いいっスよ。どうぞ」

と手を放した。

は苦笑して携帯を操作して、そしてすぐに鞄にしまった。

「あれ?もう終わった?」

黄瀬が首を傾げる。

「だって、『誕生日おめでとう』て打つだけじゃない」

は肩を竦めていう。

「あ、そうか...」

「いこ」

そう言ってが黄瀬の手を取って歩き出す。

何だろう、かっこ悪い。

黄瀬が少し沈んでいると手をきゅっと握られた。

「どこ行く?」

「そうっスね」

「てか、勉強もできなきゃいけないし、うち来る?」

「今日、誰もいないんスか?」

黄瀬の声が弾むが、

「お母さんは、会社に休みを取れってうるさく言われて家にいるよ」

と返されて、少しだけがっかりした。

(そのほうがいいか)

「じゃあ、ちゃんち」

「待ってね、お母さんに連絡入れる。ご飯まだならお母さんのも材料買って帰らなきゃ」

「了解っス」

自宅に電話をしているの隣で空を見上げる。

ぽつぽつと星が瞬き始めていた。

「1年に1回って拷問っスね」

彦星に同情しながら黄瀬は呟いた。

「黄瀬くん?」

「ああ、何スか」

「お母さん『お腹空いた―』って」

が笑いながらいう。

「じゃあ、超特急で帰らなきゃっスね」

「うん」

急きょ行先をの家に変えた2人は、歩き出す。

「今日の夕飯は何っスか?」

「そうだなー。おさかな」

「えー、肉がいいっス!」

「普段魚食べてないでしょ」

の指摘に黄瀬はぐっとつまり、「オレのため?」と伺うように言う。

「そうですよー」

の言葉ににへらと笑った。

「お腹空いたっス」

「たくさんご飯炊かなきゃ」

が言うと黄瀬は満足そうに笑った。









桜風
13.7.10


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