そうだ、プールに行こう 1





 体育館の入口から桃井は中を覗いていた。

きょろきょろとしていると

「覗きですか、お嬢さん」

と声をかけられて振り返る。

「覗きってその言い方失礼じゃない?」

ぷんすかと頬を膨らませて桃井が抗議した相手は、友人の

「どうしたの。ウチの体育館に何の用?偵察にしては、ちょっと早いよね」

首を傾げて言うに、「うん...」とあいまいに頷く。

「どうしたの?」

「あのね!」

ちゃん!!」

「お、おも...」

ぎゅーっと抱きしめられては言う。

「きーちゃん?!」

「あ、桃っち。お久しぶりっス。どうしたんスか?」

「え、と。うん。きーちゃん、が遠い目してる」

指摘を受けて黄瀬は自分が抱きしめている相手の顔を覗きこんだ。

「あ、どうしたんスか?熱中症?!ちょ、カントクさーん!!」

焦点の合っていないの表情を見て黄瀬が慌て、リコに助けを求める。

〜」

笑顔でリコが彼女の名を呼ぶ。

「はーい」

心得たは、「日陰に行こうか2人とも」と言って体育館から離れた。

「水分、大丈夫っスか?オレ、ポカリ買ってこようか?」

心配そうに声をかけてくる黄瀬に苦笑して、

「大丈夫。さっきのは黄瀬くんが突然やってきてびっくりしただけ」

が返した。

「えー、いつも会いたいって話してるじゃないっスか」

「あー、えと。うん。そだね」

「もしもーし。私、お邪魔ならまた体育館に行くけど?」

ラブい雰囲気になりそうな友人たちに半眼になりながら桃井が声をかけた。

「あ、ごめん」

「そういえば、桃っち。偵察っスか?」

「ううん。え、と...そうだ、きーちゃんはなんで?」

誤魔化すように桃井が言う。

ちゃんに会いに来たにきまってるっスよ」

胸を張って言う黄瀬を「練習は?」とが見上げる。

「基礎練習だけで帰されたっス」

辛そうに笑って彼が言う。

インターハイでまたしても膝を負傷してしまったのだ。

二度とあんな悔しい思いは嫌だと思って、体を作っては来たが、まだ足りなかったようだ。

「足、大丈夫?」

が心配していうと

「うん」

とさみしげに笑う。

「けがって癖になるから気を付けたほうがいいよ、きーちゃん。あと、治すときにはきちんと治す。いい?」

「はーい」

桃井の言葉に黄瀬は嬉しそうに笑った。

「なに?」

「何でもないっスよ。んで、桃っちは?」

「え、と...」

「なに?」

言いよどむ桃井には首を傾げた。

「あ、わかった!デートのお誘いっスね!!」

黄瀬が得意満面にそう言う。

「え?!」

「あ、そうなの。黒子くん呼んで来ようか?全体練習、もうちょっとで終わるから、それが終わってから」

「ちちち、違うのよ!!」

ズザザと後ずさりながら桃井が両手を前に突き出して交差しぶんぶんと振る。

「ん?」

「違うんスか?」

「ち、ちがう。違うわよ!」

「そうなんだ?」

は首を傾げてそう言い、

「なーんだ」

と黄瀬は苦笑した。

「そうだ。オレ、黒子っち誘ってプール行こうかな。ちゃんのところの休養日、いつ?あるでしょ?インターハイ終わったばっかりだし」

黄瀬が言う。

「直近だと...」

スケジュールを思い出してが言うと

「んじゃ、その日黒子っち空いてたらプールに行こうっと。ちゃんもどうっスか?」

「わたし?プール?え、とパ「行く!」

パスしようとしたら、桃井がそれを遮って了承した。

「桃っちも行けるんスか?」

「その日、練習は午前までだし。大丈夫。大丈夫だから」

鼻息荒く彼女が言うのをは呆然と眺め「あ、」とやっと黄瀬の意図を察した。

「んじゃ、黒子っちに声をかけるとしますか」

黄瀬がそう言った丁度に、笛が鳴った。

「あ、全体練習終わったよ。片づけ」

「終わったら一緒に帰ろうね」

黄瀬がそう声をかけるとは、嬉しそうに頷いて体育館に駆けていく。

「余計なお世話かと思ったんスけどー」

そう言って桃井を見下ろすと「テツ君とプール。テツ君とプール。テツ君と...」と桃井がぶつぶつと赤くなりながらつぶやいている姿が目に入った。

「あー、聞いてないんスね」

黄瀬は苦笑してそう言い、体育館にゆったりと足を向けた。

「きーちゃん待って!」

そう言って桃井が彼の後を慌ててついていく。

「くーろこっち」

体育館入口から声をかけられた黒子は「何ですか?」と黄瀬に向かっていった。









桜風
13.8.4


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