そうだ、プールに行こう 2





 !」

体育館から桃井が駆けてきた。

一緒に片づけをしている後輩たちが驚いて桃井を見た。

彼女が桐皇学園高校男子バスケ部のマネージャーで、情報収集をさせたら右に出るものはないといわれている人物だということを知っている。

警戒する後輩をよそに「なに?」と返した。

後輩たちの視線が少し鋭くに向く。

は後輩たちから離れて桃井の元へと向かった。

「あのね、テツ君いいって!」

「よかったねー。何時に待ち合わせとかも決めたの?」

少し声を抑えて話をする。

「うん。楽しみ!」

満面の笑みで言う桃井を見て心底良かったねーと思ったは、「じゃあ、わたしは片づけがあるから」とその場を離れようとしたら腕を掴まれた。

「あのー。さつきさん?」

「明日も部活、この時間の終わるんでしょ?」

「だいたいは、ね」

嫌な予感しかしない。

「明日、部活終わってから水着買いに行こう」

「え、持ってるじゃん。わたしも持ってるので行く予定だし」

「ダメ!水着にだって流行があるの!!」

「...相手がその流行をしらなきゃ意味ないでしょ」

呆れたようにが言うと

「きーちゃんは絶対そういうの詳しい」

と桃井が断言する。

「黄瀬くん?そりゃ、詳しいでしょうけど。なんで、ここで黄瀬くん?」

が今年の流行を取り入れた新しい水着を着たら、きっと喜ぶんだろうなー」

「べべ、別に。流行とかそう言うの...」

「きーちゃん、きっと喜ぶんだろうなー...」

「水着なんてオーソドックスなのが1着あれば足りるでしょ」

「じゃあ、は新調しなくていいから。私の買い物に付き合って!!」

そう言って手を合わせて拝み始める。

「やめてよ」

「お願い!おばさんには、私からちゃんとお願いするから」

基本的に恋する女の子の味方のスタンスをとっているの母親は桃井の話を聞いただけで了承するだろう。


「ねえ、なんで桃っちが一緒なんスか?」

下校デートを狙っていた黄瀬は少し不満そうに言う。

「まあまあ。気にしないで。ほら、手でもつないで」

結局、桃井に押し切られたは、桃井と共に帰宅することになった。

もちろん、黄瀬と一緒に帰ろうと約束をしているから3人で帰っているという奇妙な構図である。

「黄瀬くんは、この後は?」

「バイト。練習が本格的にできないって聞いて事務所がね」

苦笑していう。

「そっか」

「でも、ご飯食べる時間はあるっスよ」

と黄瀬はいたずらっぽく笑った。

「そう?さつきは?」

「私はおばさんと話したら帰るよ」

「そうっすか?」

「食べてけばいいのに」

「家でもう支度されてると思うから」

肩を竦めて彼女が言う。

「そか」

一般的には家に親がいれば親が用意してくれるらしい。


「ただいまー」と玄関のドアを開けると「おっかえりー」との母親が玄関先に出てきて目を丸くした。

「あら、あら??修羅場?」

何処か弾んだ声音で彼女が言う。

「オレはちゃん一筋っス!」

「きーちゃんはそんなんじゃないですよ」

むっとしたように返す黄瀬に対して桃井は苦笑して流す。

「まあ、いいわ。あがって。さん、今日は麻婆茄子が食べたいと思ってるの」

食材を購入してきたらしい母親がそう訴え「はいはい」と適当にが返事をする。

「ちょっと着替えてくる。冷蔵庫に麦茶入ってるから、悪いけど」

そう言ったの言葉を遮るように「全部飲んだー」と彼女の母親が言う。

「んじゃ、オレがアイスカフェオレをみんなのぶん作るっスよ」

と黄瀬がいい、「わーい」との母親が喜んだ。

「ごめんね」

「大丈夫っスよ」

黄瀬たちをリビングに置いては自室で着替え、リビングに向かう。

「オレも行くっス!」

リビングに足を踏み入れた途端に黄瀬に言われては面食らう。

「な、なに?」

「ダメよ、きーちゃん」

「そうよ、涼太くん。さんの水着姿は、当日のお・た・の・し・み」

ぱちんとウィンクをしていう自分の母親を半眼で眺めつつ

「えーと。買い物の話?」

が情報を整理しようとした。

「うん。今おばさんが良いよって」

「むしろ、あたしも行くからー」

ひらひらと手を振りながらいう自信の母親に「はあ?!」とは声を上げた。

「えー!お義母さんズルいっス!」

「黄瀬くん、ちょっと黙ってようか。え、だって仕事は?」

心からの叫びを口にした黄瀬を落ち着かせてが問う。

「ん?いっつもあたしに休めって言ってんのよ。だから休んでやるのよ」

「だって、明日の明日でしょ?当日に休み取っても大丈夫なの?」

「だってー。何日前には申請しなきゃダメっていう規程はないもん」

「『もん』って...」

「お義母さん、ズルい」

黄瀬はしょんぼりしながら繰り返す。

「というわけで、さつきちゃん。女3人楽しくお買いものしましょう。夕飯は、おばさんがご馳走するから、お母様にはそう言っておきなさい」

「え、でも。悪いですよ」

遠慮する桃井を笑い飛ばして、結局の母親は頷かせた。

その間もずっと黄瀬は「ズルい」を繰り返していたが、誰もその言葉を拾おうとはしなかった。









桜風
13.8.11


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