そうだ、プールに行こう 3





 部活が終わった時間に黄瀬からメールが入っていた。

そろそろ諦めたらしく「楽しみにしてるっス」と書いてる。

「楽しみにされても...」

自分の水着は新調する気はなかった。

だが、母親がついてくるとなると話は別だ。

押しの強さはどこからきているのかと思うくらい押しが強い。

恋する娘が可愛くて、面白くて仕方ない彼女はこれをダシにまた楽しむに決まっている。

「はぁ...」

さん?」

「ああ、黒子くん」

「どうしたんですか?気分が悪いんですか?」

「気分が悪いではなく、気分が乗らない、かな?」

苦笑してが返す。

「気分が乗らない、ですか」

どういうことだろうと考える黒子に、「今日ね、これからお母さんとさつきとお買いもの」という。

「桃井さんと、さんのお母さんとですか。珍しい組み合わせ..ですよね」

「だよね。珍しいよね。そして、2人に共通するのは、押しの強さ」

「あー。お疲れ様です」

ぺこりとお辞儀された。

「うん、まあ。そういえば、今度黄瀬くんとプール行くんでしょ?」

「はい。さんと桃井さんも一緒だと聞いてます」

「そうだね」

「桃井さんがいるのに、青峰君はいないんですかね」

黒子の問いには一瞬だけ固まった。

「...青峰くんは危険だからじゃない?」

「危険、ですか?」

黒子は首を傾げた。

「うん、巨乳好きだから」

「...ああ」

遠い目をして言ったに黒子も遠い目をして返す。


突然携帯が鳴り始めた。

「あ、ごめん。お母さんから。痺れを切らしたみたい」

「すみません、呼び止めた形になって...」

そう言った黒子は「頑張ってください」とを応援し、その場を離れる。

「うん、ありがとう」

遠ざかる黒子の背中を見送りながらは正門付近に駐車している自宅の車を探すことにした。


「でも、今はもう水着とか売ってないんじゃないの?」

「さあ?行ってみればいいわよ」

の言葉を軽く流しての母親が言う。

途中、桃井を拾って目的地に車を向かわせた。


夏休み前の時期に比べれば確かに種類は少なくなっているが、それでもこの世の中から水着が無くなることはないらしい。

(季節的なもののはずなのに...)

そんなことを思いながら周囲を見渡す。

そして、気づいた。

どう考えても母親と桃井が手にしている水着のサイズは桃井のサイズではない。

「ねえ、それ」

が声をかけるが、2人はそれに気づかないのか無視をしているのか、きゃっきゃと盛り上がっている。

「こっち可愛くないですか?」

「でも、さんならこの色の方が似合うと思うのよね」

「確かに。でも、デザインは何かちょっと違う気がしますね」

「そうねぇ...」

本人そっちのけで盛り上がっている。

「あのー、さつきさん。ビキニはやめて」

「大丈夫よ。セパレート巻けるし」

「こういうのは、私服を着てるって感じがするからあんまり、ねぇ...」

タンクトップにデニムパンツという雰囲気のそれを手に取っての母親は首を振る。

「そうですよね。きーちゃんがっかりしますよね」

「なんで黄瀬くん基準なの!」

赤くなって抗議する

「だって、きーちゃんと約束しちゃったじゃない」

と桃井がしれっと言い、

「そうよねー。鼻血吹かせるくらいのもの選びたいわよねぇ」

の母親が言う。

(自分の水着姿を見て鼻血を吹く彼氏ってのは何か嫌だ...)

「というか、気合を入れなきゃいけないのはさつきの方でしょ?」

が声をかけると桃井が真っ赤になる。

「え、な、何...?!」

「ねえ、お母さん」

「抜かりないわよ。骨抜きにすればいいんでしょ?任せなさい」

胸を張って言う母親にはそっとため息を吐いた。

(黒子くんが骨抜きってなんか想像つかないなぁ...)


結局、も水着を新調することとなった。

桃井は自分の買い物に大いに満足し、そして、一緒に選んだの母親も満足した。

さんともそもそもあまり出かけることないから楽しかったわ―。ありがとね、さつきちゃん」

「いいえ!私もすごく楽しかったです!!」

夕食を済ませ、桃井を自宅に送り届けに行く車の中でそんな会話をする。

桃井の自宅の前で車を止め、彼女が降車したところで、ばったりと青峰に会った。

「おー、とおばちゃん。どうしたんだよ」

「さつきちゃんとお買い物に行ったの」

満足げにの母親がいい、

「夜もロードワークですかー?」

とからかうようにが言う。

「うるせーよ」

半眼になって返す青峰には笑う。

そんな青峰を目を細めて見守っていた桃井が、「じゃあ、。またね」と声をかける。

「あ、うん。またね」

「またお買い物行きましょうねー。大輝君も、荷物持ちしてくれるならご飯奢ってあげるからねー」

からかうようにの母親が言うと

「食べ放題じゃない焼肉じゃねーと、働かねーぞ」

と、青峰がニヤッと笑った。

「大ちゃん!」

と慌てる桃井に対して

「そんなもんでいいの?お安い御用よ」

の母親が返す。

「んじゃ、考えてやってもいいぜ」

「よーし、わっかい男の子連れて歩いてる写真を旦那に送るぞっと」

楽しげに言う母親に「お母さん」と呆れながらが抗議の声を上げた。

「じゃーねー」

あははと笑っての母親は車を発進させた。









桜風
13.8.18


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