ホイップクリーム





 夏休みもあと1週間で終わるという日に青峰から電話がかかってきた。

「宿題は済んだ?」

「お前、開口一番それかよ」

心から不満があるらしい青峰が返す。

「だって、もう夏休み終わるでしょ?さつきから聞いたけど、去年は今吉さんがお世話してくれてたんだって?今年は誰もお世話してくれないよ?」

心配そうに返すにため息をつき、

「んじゃ、が面倒見ろよ」

と返した。

「見ろよ。ですかー?」

「おう。オレと会いたいだろう」

「...はいはい」

はため息とともにそう答えた。

「いつ?」

が返すと

「31」

と青峰が返す。

宿題するにしてはギリギリだ。

しかし、そこまで追い込まれなければやる気が出ないのだろう。

そう思っていた。



さん、何かいいことあったんですか?」

不意に声をかけてきたのは黒子だった。

「ん?うーん??そんなことないよ」

「そうですか?ああ、そうか。今日は青峰君の誕生日ですね。何かプレゼントするんですか」

黒子が何気なく話題の一つとして口にしたそれ。

「へ?」

「...え?」

の口から盛れた声で黒子は一瞬だけ「まさか」と思ったが、しっかり者のがまさか彼氏の誕生日を忘れているなんて、と思って指摘はしなかった。

(そうだった...)

黒子が傍からいなくなった途端、は頭を抱えた。

中2の時、夏休みの最終日に寝不足で部活に出た。理由は、青峰の誕生日を祝いたいという桃井のリクエストで、ケーキの作り方を教えるため。

一晩かかって、何とかホットケーキミックスを使用してのそれを作り上げるところまでこぎつけた。

「うーあー...」

唸りながらが水場のあたりでウロウロしていると「?」とリコが声をかけてくる。

「どうしたの?」

「あ、いえ。なんでも...」

ちなみに、選手たちは外周ランニングに出た。

「何でもないなら、そんな熊みたいにウロウロしないでしょ」

「クマですか?」

「うん、クマ」

「...忘れてたんです」

しょんぼりとが言う。

「何を?」

「青峰くんの誕生日」

「...へ、へぇ」

何だか笑ってしまいそうになってリコはわざとらしく咳ばらいをした。

「いつなの?」

「今日です」

「...これまた本人が忙しい時に」

リコの言葉にが首を傾げた。

「宿題、やってそうにないでしょ」

「ないですね。ねえ、カントク」

「だめよ。部活抜けちゃ。ほかにマネージャーがいるなら仕方ないって許すところだけど...ごめん、抜けられると困る」

申し訳なさそうに言うリコに「...はい」とは項垂れた。

「今日、会っちゃうの?」

「向こうの指定で」

「あー...十二分に期待してるわね、それ」

「です、か?」

「うん」

そんな会話をしているとランニングから汗だくで戻ってきた部員たちが「マネージャー」と呼ぶ。

「はーい!」

そう言って彼らにドリンクを配るべく、彼女は体育館へと走って行った。

「仕方ない、今日は、は少しだけ早めに上がらせてあげよう」

頑張っているを見てリコがそんな仏心を出した。

しかし...


「よー、。まだか」

「早いわよ!!」

「...あ?」

青峰がひょっこり体育館に顔を覗かせ、それにリコが思わずツッコミを入れた。

なぜツッコミを入れられたのかわからない青峰だったがさほど気にせず、再び体育館の中のの姿を探す。

「早いよ」

背後から声をかけられて「おおっ」と驚きの声を漏らした。

「んだよ、ちゃんと待ってんだからいいだろーが」

そう言ってドカッと座り、周囲を見渡す。

「おーい、テツヤ2号」

青峰が何を探しているか察したがバスケ部の愛犬を呼ぶとその声に反応してテツヤ2号が駆けてきた。

「おー、久しぶりだなー」

そう言ってテツヤ2号の頭をわしゃわしゃと撫で始める。

「すみません」

がリコに謝罪する。

「あ、ううん。もう全体練習終わったし。青峰くん、データ取るの苦手っぽいし」

「んなコソクな真似するかよ」

「さつきのデータ収集に助けられてきたってのに」

青峰の言葉にが返すと彼はぐっとつまり、聞こえなかったふりをして少しだけ乱暴にテツヤ2号に構い始めた。


「青峰くん、帰るよ」

片づけを済ませたが声をかけると「おー」と返事をして最後にテツヤ2号の頭を撫でて青峰が立ち上がる。

「んじゃ、またなー」

そう声をかけての元へと向かった。

「昼飯どうする?」

「どうしようか?」

が問うと「んじゃ、ラーメン」と言って歩き出す。

「暑いのに...」

「いいだろうが」

そう言っての手を取って歩き出す。

「ちょっと、青峰くん。歩くの早い!」

「ああ、はちっせーもんな」

「並サイズだ!」


昼食を済ませて青峰の自宅に向かっていると

「買い物に寄りたい」

が言う。

「買い物?」

青峰が問い返すと

「誕生日のケーキ、焼く」

と彼女が言う。

「別にいいよ、んなもん。時間かかるんだろう?」

お隣さんはいつも物凄い時間をかけるのを知っている。

「そんなにかからない。パンケーキにするから」

「ホットケーキかよ」

「パンケーキ」

どこか違うらしい。

「んじゃ、ウチの近くにスーパーあるし」

「そこによってから青峰くんちね」

青峰の家には少し遠回りをして辿り着くことになった。


買い物した荷物は、青峰が持ってさっさと歩きだしたため、結局彼が荷物を持って家まで歩いたことになる。

家の鍵を開ける青峰を見て「お母さんとかお父さんは?」とが聞くと「出かけてる」と青峰が返す。

「そうなんだ?」と返してそのまま青峰が案内するままに台所に向かった。

「んじゃ、青峰くんは宿題ね」

は?」

「パンケーキ作る」

「サボってるかもしんねーぞ」

構ってもらえなくて拗ねるように青峰が言うと

「青峰くんの宿題ができていなくてもわたしは困らない」

と返され、仕方なく自室に向かった。

取り敢えず、机の上にノートを広げてみたものの、何にもする気になれず、傍らに置いていたバスケット雑誌に手を伸ばす。

IHの特集で、まだ大会前のものだった。

昨年準優勝している桐皇が今度こそ開闢の帝王である洛山を落とすか、と結構派手に煽っている。

昨年末に誠凛に下されているから、その時点で開闢の帝王という名はかすんだと思っていたのだが...

しかし、結局IHは洛山が取った。

期待された桐皇は準々決勝で敗退したのだ。

「あー、さぼってる」

ひょっこりとドアの隙間から顔を覗かせたが言う。

「言っただろ、サボってるって」

「聞いたよ『サボってるかもしれねーぞ』って」

笑いながら彼女が部屋に入ってくる。

「青峰くんだからもう食べられるでしょ?」

そう言いながらお盆に乗せて来たのはホットケーキには見えない。

「うまそ」

「美味しいよ」

そう言って彼女は青峰の前にパンケーキを置き、そして、コーヒーも置いた。

「ごめん、適当に使った」

「いや、いいって」

手を合わせて「いただきます」と呟いた青峰が一口それを口に運ぶ。

「ふはっ」と笑った青峰にも笑みをこぼしたが、正座になった。

「あ?」

「えと、ね。青峰くん。ごめんなさい」

そう言って頭を下げるに青峰は視線を落とす。

「いいって。どうせ誕生日忘れてたんだろ」

「え...」

青峰の指摘には絶句した。

ボケっとしているをよそに青峰はパクパクと彼女が作ったパンケーキを食して、「ごっそさん」と手を合わせた。

、ちょっとここ座れ」

そう言われては大人しく青峰がポンポンと叩いた場所に座りなおす。

それを確認した青峰がごろんと寝転がっての脚の上に頭を載せた。

所謂膝枕。

「青峰くん?あ、ここ、クリームついてる」

が青峰の顔を覗きこんで口の端についていたクリームを指で拭うと、青峰は腕を伸ばして彼女の後頭部に手を添え、少し上半身を浮かせる。

重ねた唇を離すと、「ぶはっ」と噴き出した。

「何よ!」

「顔真っ赤」

「だって...!」

言い返そうとするに苦笑する。

「来年は忘れんなよ」

そう言ってまた唇を奪い、満足げに笑った。









桜風
13.8.31


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