| 部活帰りに空を見上げる。 ぽっかり浮かんだ丸い月は、今、携帯の待ち受けにしているそれと同じだった。 『バスケットボールみたい』というメールに添付されて送られてきたそれは、自分にとっての宝物だ。 空に携帯を向けてシャッターを切る。 メール画面を立ち上げようとして、やめた。 「黄瀬?」 先を歩いていた早川が声をかけてくる。 「ちょっと用事できたんで」 そう言って走って寮に帰った。 部活から帰り夕飯の支度を済ませて風呂から出て自室に戻ると携帯が鳴った。 発信者は黄瀬で、「もしもし?」とは電話に出る。 「ちゃん、今どこっスか?」 「家だよ。どうしたの?」 「外見て。今日は満月みたいっスよ」 少し弾んだ声音の黄瀬に首を傾げつつ、窓を開けた。 「あ、ホント」 夜空にぽっかり浮かんだ月は淡い光で周囲を照らしている。 「そうか、今日は仲秋の名月だ」 「っスよ」 「写メ、送ろうか?」 が言う。 「いいっス。オレもみてるから」 そう言われて、電話ではないところから声が聞こえるような気がしては地上を見て驚いた。 「どうしたの?!」 「会いたくなったから」 「え、ちょっと!」 電話を切っては自宅の玄関前を指差し、階段を駆け下りる。 「ちょっと、どうしたの?」 玄関のドアを開け放って紋を出てきたは黄瀬の腕を掴んでそう問うた。 「だから、会いたかったんス」 そう言ってをぎゅっと抱きしめた。 「だって、え、どうやって帰るの?」 「実家に帰って始発で帰る予定かな?」 苦笑して黄瀬が言う。 出来れば実家には寄り付きたくないが、こういう時には仕方ない。 「月を見たら、ちゃんに会いたくなったから。去年、これくれたでしょ?」 そう言って見せられた携帯の待ち受けには目を丸くする。 何となく目に入った月とバスケットゴールを写して送ったもの。 それを黄瀬は大切そうにしているのだ。 びっくりして黄瀬見上げると、彼は微笑んで腰を折る。 唇が触れる瞬間、 「お外でチューはどうかしら〜?」 と第三者の声が聞こえては思わず黄瀬を突き飛ばした。 「もー、酷いっスよ」 そう言って黄瀬は振り返り、第三者、の母親に訴える。 「えー、でも、ご近所で噂になって居た堪れないのはさんだし」 と彼女が返すと「そう..スね」と黄瀬が反省する。 そして、を見ると真っ赤で、黄瀬はの母親を見、彼女も黄瀬を見上げた。 「取り敢えず、家に入りましょう」 そう言って黄瀬の背を押し、もう片方の手での背も押した。 「涼太君はなんでウチにいるの?」 スーツから部屋着に着替え終わったの母親が問う。 生乾きだったの髪を乾かしていたドライヤーを止めて黄瀬は彼女にもう一度繰り返してもらった。 「ああ。今日は満月だったから」 と黄瀬が返す。 髪はもう乾いたかな、と彼女の髪を梳る。 「ああ、むらむらしちゃったのね。満月は人を狂わせる」 「お母さん!」 の母親の言葉に黄瀬は苦笑して、を解放した後「これ」と携帯の待ち受けを見せた。 「あら、さんの隠し撮りじゃないじゃない」 「携帯って結構覗かれるじゃないスか。ちゃんは誰にも見せないっス!」 そう言った黄瀬にの母親は苦笑し、は反応に困る。 「それで?」 「これ、去年の今頃、ちゃんが送ってくれたものなんスよ。だから」 そう言って携帯を閉じる。 「へー...それで、ですか。ま、ちょうどいいわ。今日はお団子買って来たの。さん、部活でお団子まで手が回らないかと思って。涼太君も食べていきなさい。というか、今日は実家?」 「そうっスね。始発に乗れば朝練間に合うし」 そういった黄瀬の表情を見て 「送ってあげようか?」 との母親が申し出る。 「え?」 「海常?の寮まで送ってあげるわよ。幸いにも、今日はまだお酒飲んでないし。というか、明後日健康診断なのよ。今日から禁酒しとかなきゃね」 いたずらっぽく笑って彼女が言う。 「いいんスか?」 「いいわよ」 「お母さん、普段飲んでる人が数日飲まなくて健康診断パスとか。健康診断の意味ないじゃない」 夕飯をテーブルに並べながらが言うと 「いいじゃない。こういう機会に肝臓休める。そのためには健康診断というものも必要なのよ」 そう言っての母親が笑う。 「黄瀬くんは、お茶もうちょっと待ってね」 そう言っては再びキッチンに向かった。 「月見酒できないのが非常に無念」 そう言いながらの母親は手を合わせて「いただきます」という。 「黄瀬くんは、そこにする?」 月見団子、というなら窓近くがいいだろうと思ったらしいが声を掛けるが 「そっちがいいっス」 とダイニングテーブルに向かった。 (何か、家族みたいっスね) 団子を口に運びながら黄瀬はそんなことを思っていた。 |
桜風
13.9.19
ブラウザバックでお戻りください