約10年後のキセキの世代





 「運動会だぁ〜?」

面倒くささ全開の声音で問い返してきた青峰には「うん」と頷く。

「んなもん、いいじゃねーかよ」

「良くないよ。何、幼稚園からサボりを教えるの?」

「いずれするんだから、今からでも悪くねーだろ」

「悪い!」

即切って捨てたの言葉に青峰は「はぁ...」とこれ見よがしのため息を吐いた。

「父ちゃん、ねえ。来てよー」

リーグが始まっているので難しいかと思ったが、ちょうど試合のない日。しかも、練習さえも休み。

つまり、これは子供の通う幼稚園の運動会に出て来いという神の采配。

と、は言うが、青峰は取り敢えず、ゆっくり休みたいという気持ちもある。

ついでに、子供にも幼稚園をさぼらせて家族水入らずで、というのがベストな選択だが、の性格上それはまず無理のようで。

「仕方ない。優輝、大輝はおうちでゴロゴロしたいみたいだから、我慢しよ」

「えー、父ちゃん!」

座っている青峰の膝を掴んで揺らす息子に

「わーったよ」

と青峰は頷いた。

「んじゃ、ちょっとだけだぞ」

「やったー!母ちゃん、父ちゃん良いって!!」

「良かったねー」

満面の笑みで自分を見上げる息子の頭を撫でながらが返す。



不機嫌に青峰に声をかけられて「ん?」と返すとぐいと腕を引かれてバランスを崩す。

「ちょ、危ない!」

「優輝、これはオレのだ」

「これとはなんだ!」

「そっちかよ!」

息子は心得たもので「うん、わかってる」と頷く。

自分と母親が、目の前で仲よくすると決まってそう主張するのが自分の父親なのだ。

前にさつきお姉ちゃんに言うと「大ちゃんはもう...」と苦笑していた。

悪いことじゃなさそうなので、優輝は何も言わないのだ。



運動会当日は、朝から両親が喧嘩をした。

といっても、よく見る光景で、これも仲良しの証拠と桃井に聞いているので優輝は見守った。

青峰がおかずをつまみ食いしまくったおかげで当初予定した内容のものにならなかったらしい。

もちろん、それを補てんする何かをあっという間に作り上げはしたが、やはり気に入らないらしく、は少し拗ねていた。


運動会では、優輝の活躍に青峰もまんざらではない様子を見せていた。

暇なときには一緒にバスケをしているので、息子の運動神経の良さには自信があった。

それでもやはり、周囲との比較はしたことがなく。

だからこその「さすが、オレの息子」である。

「小さい時の大ちゃんを見てるみたいね」

そう言って笑うのは桃井だ。

が優輝の運動会の話をすると「行ってみたい」と彼女が言ったのだ。

もちろん、断る理由はなく、園側の案内にも家族以外は立ち入り禁止とも書いていない。

よって、招いた。

青峰はその話を聞いていなかったので、桃井の登場に若干驚きもしたが、若干驚いただけだった。

昼食に用意したお弁当の中身は、息子と青峰の好きなもの(つまりは、肉のみ)で統一したが、足りないと文句を言われては呆れた。

動いていないのに足りないとはこれ如何に。

「午後からどーせ動けってんだろ?」

青峰も一応プログラムをチェックしており、それに応じて出場させられるものは何かとみていた。

「つか、手加減しねーぞ」

「しちゃダメでしょ。万が一にも負けることがあったら大騒ぎだ」

がからかうように言う。

「よっし」

気合を入れた青峰だったが、「これにも絶対に出てね」と言われて眉をひそめる。

『借り物競争』と書いてあるのだ。

「ああ?こんなもん、オレが出なくてもいいだろーが」

「参加賞に、トイレットペーパーが配られるの」

「はあ?!」

「それはぜひとも大ちゃん出なきゃ!」

桃井までそんなことを言う。

「んだよ」

「出てね?」

小首をかしげてかわいらしく言う。

のこれは、最後通牒のようなもので、断ろうものなら、といい加減学習した青峰は「へいへい」と頷いた。


そして、借り物競争が始まり、借り物が書いてる紙を開いた青峰がにやりと笑い、まっすぐ保護者席にやってくる。

現在、息子も甘えに戻ってきていた。

「優輝、おぶされ」

そう言いながら青峰が息子を負んぶした。

不思議だな、とと桃井は首を傾げていた。

青峰が息子を小脇に抱えて運ぶことはざらであり、むしろ、息子の持ち運び方法は間違いなくこれだと言わんばかりの定番だというのに。

「しっかりしがみついてろよ」

そう言った青峰に「うん!」と元気よく息子が返事をし、そして「さつき、留守番頼むぞ」

と言ってを横抱きにして走り出す。

「はあぁぁぁぁ????!!!」

が困惑と同時に抗議の意味を込めて声を上げるが、青峰が降ろす気配もなく、そのままトップでゴールした。

優しく降ろされたは困惑しつつも「何だったの?」と問う。

何を借りろと書いてあったのか。もしかして、『家族』か?だったら息子だけでもクリアのはずだ。

青峰はにやりと笑い、少しくしゃくしゃになった紙を見せた。

『大切な人』と恥ずかしげもなく書いてあるそれを、恥ずかしげもなく借りるというか、連れてゴールしたのだ。

「母ちゃん、タコさん」

息子の指摘で、自分がどんな表情をしているか悟ったは青峰を見る。

「へっ」

と満足そうに笑っている彼の表情はガキ大将のそれだった。









桜風
13.10.12


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