| 「じゃあ、いってきます」 振り返って言う黒子に「いってらっしゃーい」とと娘が手を振った。 今日は保育園の運動会の日なのである。 そのため、黒子は出勤ということとなり、本来ならせっかくの休みで、娘と一緒に公園に散歩に行けるというのに... 少し残念な気持ちはあったが、今日の日のために、職場のみんなで、子供たちと保護者が楽しんでもらえるように色々と知恵を絞ったのだ。 (みんな喜んでくるかな...) 子供たちの笑顔を見ていると心が和む。 そして、和んだ後に思うことは、“うちの子の方が可愛い”ということであり、それをに言うと思い切り笑われた。 「いや、テツヤさんも親ばかですねぇ」 と心底楽しそうに言われたのだ。 そんなに笑わなくても、と思ったが、彼女が楽しそうなので思わず一緒に笑ってしまった黒子だった。 そんなことを思い出しながら園に向かう。 プログラムはもちろん、子供たちと一緒に練習した演技も保護者達には大盛況で、職員一同満足であった。 そして、最後のプログラムは保護者VS職員のリレーだ。 先生と親だとやはり親の応援をする子供たちが多いだろう。つまり、先生への声援は期待できない。 もちろん、先生たち職員同士の応援はあるが、それでも大人げなく全力での応援は難しいだろうと考えている。 ちなみに、黒子は人生初のアンカーを任されたのだ。 いわく、 「高校時代はバスケ部で全国大会も優勝したことがあるんですよね。じゃあ、運動神経もいいだろうし、よろしくお願いします」 とどこから仕入れたのかわからない同僚の情報に、黒子は引き受けざるを得なかった。 リレーが始まり、子供たちの親に対する声援を耳にしながら、黒子はアンカーがバトンをもらう位置に立つ。 深呼吸をしていると 「おとうさん、がんばってー!」 と聞き慣れた声が聞こえてそちらを見た。 娘がぴょんぴょん跳ねながら手を振っている。 驚いてその周辺を見るとが保育園の園長先生に挨拶をしていた。 「黒子先生!」 声をかけられてバトンを受け取る。 そう言えば、と黒子は思い出した。 彼女は中学時代に男子に交じってリレーを走ったことがある。 その時は、スタートの選手だったはずだ。 あの時は走れず、自分は応援していた側だった。足の速さでは、彼女の方が上だったから。 ゴールをしたのは、僅差で黒子が先だった。 つまり、先生チームの勝利だ。 「大人げない」 が近づいてそう言う。 「僕だったら、手を..抜いて、ほ、しくありません」 肩で息をしながら黒子が言う。 アンカーに決まって以来、時間が取れれば走っていたが、やはりきつい。 「そうでした」 「おとうさん、かっこいい!」 目をキラキラと輝かせて娘が見上げてくる。 「応援がありましたから、頑張れました」 ニコリとほほ笑むと彼女ははにかんで笑った。 「そういえば、どうして...」 「今日ね、テツヤくんが走るって話をしたらこれはぜひとも応援したいっていうから」 苦笑しては娘の頭を撫でる。 「だって、お父さんにおうえんがないかもってお母さんが言うんだよ」 自分は味方だと少し鼻息荒く言う娘に目を細めて 「最強の応援団でした」 と黒子は彼女の頭を撫でる。 「ホント?!」 「本当です。ありがとう」 「お母さん、さいきょうのおうえんだんだって言われたー」 嬉しそうに報告してくる娘に「よかったねー」と彼女は応じる。 「この後、どうする予定ですか?」 「テツヤくんを待ってスーパーに寄って帰宅予定」 「片づけがあるから遅くなるかもしれませんよ?」 の言葉に黒子が申し訳なさそうに言う。 「いいよ!お父さんといっしょにかえりたいもん」 の代わりに娘が応えた。 「わかりました。超特急で頑張ります!」 そう言って黒子は仕事に戻る。 「お父さん、かっこいいね」 娘の言葉には微笑んで「そうだね」と返した。 |
桜風
13.10.13
ブラウザバックでお戻りください