| 「パパー」 試合が終わって帰宅すると息子が玄関までやってきた。 かまちに腰かけて靴を脱ぎながら紫原は振り返る。 「なんで起きてるのー?」 子供が起きておくには少し遅い時間だ。 は子供の夜更かしを良しとしていない。そのため、大抵試合がある日は、息子の声を聴くことがない。 「ママが良いって!あのね、パパ。お願いがあるの」 そう言ってしがみついてきた息子をしがみつかせたまま立ち上がる。 「おかえりー」 リビングに入るとテレビの前を陣取っていたが振り返った。 「何してんの?」 「今日の試合の結果放送待ってるの。スポーツニュース」 「オレ、帰ってきたのにー」 ふてくされてソファにドカッと座ると息子が足の間にちょこんと座った。 「それで、あっちゃんはどうしたのー?」 「あら、あっちゃんいいねー」 息子を見下ろして紫原が言うと彼に飲み物を用意するために立ち上がったがそう声をかけてキッチンに向かう。 「あのね、パパ」 「あっちゃんはこっち」 そう言って息子を肩車した。 飲み物を持って戻ってきたは苦笑して自分よりも視線が上にある息子を見上げた。 「ちんはこっち」 そう言って彼女の腕を引いて先ほどまで息子が座っていたところに座らせる。 「え?」 びっくりしてが紫原を見上げると鼻の頭にキスをする。 「敦くん?」 「だって、いいねーって言ったじゃん」 つまり、彼女は羨ましがったんだろうと思ったらしい。 紫原は満足そうに彼女をぎゅっと抱きしめた。 たしかに「いいねー」とは言ったが... 「あのね、パパ」 息子はそんな両親の様子に怯む様子もなく、紫原の頭上から彼の顔を覗きこんで声をかける。 「何?」 紫原が顎を上げて問い返す。 「町内会対抗運動会行こ?」 かわいらしく首を傾げて言う。 「えー、なにそれー」 「小学校区内の町内会同士が競う運動会があるのよ」 の解説に「いつから?」と紫原が問う。 「ここに住み始めた時からすでにありましたが?」 「今まで出てなかったじゃん」 めんどくさー、と付け加えて彼は態度でもその意図を示す。 「だって、りえちゃんもでるっていってたんだもん。ぼくのパパにあってみたいっていってたし...」 「りえちゃんって誰?」 不思議そうに紫原がを見下ろして問う。 「幼稚園のお友達だよね?」 紫原の顔を避けるように少し体をひねって彼の頭上の息子に言うと彼は真っ赤になって頷いた。 「あらら...けどヤダ。めんどくせーし」 「えー!パパいこうよーー」 紫原の頭を持って前後に揺れるものだから、気分が悪くなって息子を若干乱暴におろして拗ねたようにを抱きしめる。 「ねー、パパー」 息子はめげることなく足にしがみついてお願いを続ける。 「あっちゃん、もうあきらめよう。敦くんはシーズン始まって疲れてるんだよ、きっと」 「でも、ママー...」 半泣きで見上げる息子にニコリとほほ笑んで 「でも、運動会にはわたしと一緒に出ようね。美味しいお弁当たくさん作って。あっちゃんの好きなおかずたくさん入れようね!」 という。 「うん」と息子がしょんぼりと頷くと 「オレも行くし」 と紫原の態度ががらりと変わる。 「あら?」 紫原を見上げるとぶすくれているが、面倒くさいよりも上回る物がそこに待っているのだから仕方ないのだ。 「ほんと!?」 「だって、ちんのお弁当食べたいし」 「行くからには走ってね?」 が言う。 「いいよ。その代り」 そう言って紫原は何やら呪文のように、リクエストするお弁当のおかずを口にする。 「ちょ、ちょっと待って。メモする!」 抱きしめていた紫原の腕をほどこうとしたが、逆にきつくなる。 「敦くん」 「ちん頭いいから覚えられるし」 「ムリ!そんな呪文覚えらんないよー」 「つづけるよー」 そう言って紫原はさらに呪文を続けた。 運動会当日、会場になっている近くの小学校に行くと、紫原は息子の幼稚園のクラスメイト達に「怪獣だー」と言われて泣かれたり騒がれたりで、思った通り面倒くさいことになった。 「ちがうもん!パパ、かっこいいんだもん!!」 小さな息子が半泣きで自分を背に庇う。 「あっちゃん、いいよー」 めんどくせーし、と続けていう。 しかし、運動会の競技が始まれば彼は英雄だった。 その長身と運動神経を活かした動きに子供たちは尊敬のまなざしを向ける。自分の父親よりも断然カッコいいのだ。 「子供の頃って、足が速いだけでカッコいいって言わるもんだもんねー」 が笑って言うと 「ちんは、オレが足速いから好きなの?」 拗ねたように言われて彼女は苦笑した。 「足の速さなら、ほかにもいろいろいたでしょ。敦くんだからだよ」 そう言われて紫原は満足そうに笑った。 |
桜風
13.10.20
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