| 本日は天高く、快晴。 「運動会日和っスねー」 「そうねー」 「そうだな...」 幼稚園の運動場から青空を見上げて感想を漏らした黄瀬にの両親が同意する。 「...何で来てるんスか?」 黄瀬が覗うように聞くと 「さんのお弁当を久しぶりに食べたくて」 と彼女の母親が言い、 「何か文句でもあるか?」 と彼女の父親に威嚇された。 いまだに虐げられている黄瀬なのだ。 は子供たちを幼稚園の先生に預けているところだった。 「ボク、いちばんとるから!」 兄の滉太は自信満々に宣言し「おにいちゃん、がんばって」と妹の涼葉が目を輝かせる。 「そうだねー。おじいちゃんとおばあちゃんも応援に来てるからね!」 がそう言って2人を送り出す。 そして、振り返って苦笑した。 昔見た光景と変わらない。黄瀬は子供たちのお母さん方の熱い視線を一身に受けている。 が振り返ったことに気づいた黄瀬が「ちゃん!」と手を振るとお母さん方の鋭い、値踏みをするような視線が一斉に向けられる。 (これも慣れたよねぇ...) 「滉君たち、もう行ったんスか?」 「うん」 黄瀬の元に行くと彼が声をかけてきた。 「ごめんね、場所取りできなくて」 「大丈夫っスよ!」 黄瀬は朝早くに帰ってきた。本当は家でゆっくりしておいてもらいたいのに、子供たちの大活躍を見ない手はないと張り切って出てきたのだ。車も運転して。 「それに、普段家にいないオレの大活躍を目に焼き付けておいてもらわないと!」 という事で黄瀬は、保護者参加競技は総なめする予定とのこと。 しかし、それを良しとしない大人げないのがの父親だ。 「は?僕が総なめに決まってるだろ?」 無駄に対抗心を燃やした。 「まあ、席が前の方じゃないと困るのってさんだけだしね」 の母親がいう。 「そうだねー。さんだけが小さいもんね」 と父が言い 「普通サイズです!」 とが返す。 黄瀬はそんな親子の会話を目を細めて眺めていた。 子供たちは、流石黄瀬との子と言ったところで、運動神経は中々のものだった。 かけっこも、組体操みたいな、ある種のお遊戯会的な出し物も、かわいらしく、黄瀬はデレデレしながらデジタルビデオカメラを回し、その隣でやっぱりデレデレしながらの父親がデジタルビデオカメラを回していた。 お昼になり、子供たちが確保している保護者達のスペースにやってくる。 お弁当は家族で、ということらしい。 そして、黄瀬家のスペースは幼稚園の先生や他の子供たちのお母さんたちに包囲網を敷かれており、じりじりとその包囲網が狭まってきていた。 無謀にも、弁当を餌に黄瀬の気を引こうと虎視眈々と狙っている保護者多数だったのだ。 そして、黄瀬家の弁当、正しくは重箱ではあるが、それを覗き込んで尻尾を巻いて逃げだす。 (((何、あれ...))) 非常に美味しそうであった。 黄瀬はもちろん、子供たち、おそらく祖父母と思われる全員が幸せそうに咀嚼しているのだ。 「凉ちゃん、お茶ね」 そう言いながらが膝の上に乗せている娘にお茶を飲ませ、「美味しい?」と聞いてみると 「美味しいっス!」 と聞いてもいない黄瀬や「相変わらずおいしいよ」とやっぱり聞いてもないのに、父が言う。 は苦笑して母親を見ると彼女も苦笑していた。 何だかんだで黄瀬との父親は似た者同士なのだ。 午後のプログラムになり、黄瀬は準備体操を始める。 まず、保護者参加のリレーがあり、その後、二人三脚と子供たちでは間が持たないのか、保護者がメインではないかという種目が目白押しだ。 リレーでは、黄瀬との父親の一騎打ちが見込まれたが、黄瀬のチームがぶっちぎりだったので、競う場面がなかった。 そして、二人三脚。 これは籤でペアを決めるということになり、お母さん方がこれまたお互いをけん制しあう。 これにはも参加しており、「ペアになれるといいっスねー」と黄瀬はに声をかけていた。 (ペアになりそうな気がする...) は自分の引きの強さからそう思い、実際そうなった。 「ふっふっふ、背の差が仇になるわね!」 何故かこれには出る気満々だったの母親が言う。 彼女のペアはもちろん父で、「籤引いたんスか?」と黄瀬が眉を寄せた。 「引いたわよ。それとも、お宅らは引いていないって言うの?」 「引いてるっスよ!オレとちゃんは運命の赤い糸で結ばれてるんスからこんな籤で引き裂くことなんてできないんス!」 「涼太くん、声が大きい」 恥じらいを持たない黄瀬の宣言に、は少し顔を赤らめながらツッコミを入れた。 しかし、黄瀬はなぜそう言われるのかわからない様子できょとんとしたが、「わかったっス」と取り敢えず頷いた。 と黄瀬、の両親は同じ組でのスタートだった。 「今度は負けないからな」 「受けて立つっス!」 パチパチと黄瀬との父親の間に火花が散る。 パンッというピストルの音がしてスタートした。 スタートのタイミングは2組とも一緒で、つまり、その時点でここの一騎打ちとなる。 背の差があるから黄瀬とのペアが不利かと思われたが、 「パパー、ママー頑張ってーーー!!」 という子供達の声援に背中を押されてか、後半はぐんぐん伸びていった。 ゴールテープを切ったのは、と黄瀬のペアだった。 寄る年波に勝てないの両親は2位でゴールした。 両親の活躍を子供たちは喜び、心底悔しそうな祖父母をぽかんと見上げていた。 運動会が終わり、子供たちがスペースにやってきた。 「あれ...」 「パパ寝てる」 ごろんと寝転んでスースーと寝ているのは、先ほど大人げなく自身の持つ高い運動神経を発揮させていた父親で、を見上げると彼女は困ったように笑っていた。 「仕方ないわね。今日は、行先変更。涼太君ちね」 この後、家で食事ということになっていた。 今回、幼稚園に来た車は黄瀬の運転ということで、大きい。 そのため、が運転することはできない。 つまり、の父親が黄瀬家の車を運転し、家の車はの母が運転して黄瀬家へ赴き、食事を済ませて家の車での両親が帰宅するということになる。 「ごめんね。涼太くん、今朝早く戻ってきたばっかりで...」 両親にそう話すと益々黄瀬に無理をさせることはできないと、の母が言い、父は渋々従った。 彼にとって黄瀬は、大切な愛娘を取った不逞の輩ではあるが、じゃあほかの誰かなら良かったのかと聞かれたら頷きづらく、「仕方ない」と思える程度には黄瀬のことは気に入っている。 黄瀬を抱えて彼の車に乗り込み、娘がそれに続いた。 「滉君と涼ちゃんはこっちねー」 の母親がそう言って孫たちを車に乗せた。 「はーい」と返事をする孫たちは少し眠たそうで。 その表情がどこか娘に似ていて彼女は目を細めて2人の頭を撫でた。 |
桜風
13.10.6
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