甘いつまみ食い





 一昨日、電話があった。

「オレの誕生日、そっち行くから」

ただそれ一言で終わった。

それでも、彼の意図は伝わった。

「はいはい」

苦笑しては電源ボタンを押した。


放課後の練習を終えては急いで帰り支度をした。

駅に迎えに行くと言っていたのだ。

彼が迷うとは思っていない。でも、まあ迎えに行った方がいいと思った。


「お先です!」

制服に着替えて体育館に残っている部員たちに声をかけては駆けた。

一緒に帰るだろうから、と自転車ではないので、駅までダッシュだ。

正門を出たところで人にぶつかった。

「すみません」と謝ると「ちん、痛いし」と上空から声がして見上げる。

「紫原くん?!」

「迎えに来たし」

そう言って彼は微笑み、をひょいと抱える。

「ちょっ!降ろそうよ」

「えー、だって。ちん足短いし」

「言い方!言い方...!!」

に指摘され

「だって、ちん。ちっこいし」

と紫原は言いなおしたが、

「小さくない!」

とこれまた反論されてむくれる。

よって、は小脇に抱えられたまましばらく運ばれることになった。


途中で下してもらい、2人は手を繋いで歩く。

(確かに大きいけど)

自分の手を包んでいる紫原の手を見ては感心する。

「なに?」

「紫原くん、やっぱり手が大きいね」

「そー?」

不思議そうに首を傾げて紫原が返す。

の家について、「ただいまー」と紫原が先に入っていく。

は苦笑して「ただいま」と彼に続いた。

「おばちゃんは?」

「まだ帰らないよ」

「おばちゃん待つの?」

「お腹空いてるでしょ?先に食べちゃおう」

はそう言って一旦自室に戻り、着替えてキッチンにきた。

夕飯は紫原の苦手な人参を使用することを避けて作った。

彼はたいそう喜び、ぺろりと平らげる。

お替りを確認したが、「お菓子の方がいいもん」と返され、は肩を竦めた。

紫原の誕生日ケーキのデコレーションを始めた。

スポンジは昨日作っておいて、今日、遊びに来ると言っていたので目の前でデコレーションを、と思っていたのだ。

当然、1ホール全部食べられると思っている紫原は、夕飯を少し控えめにしたというわけだ。

の作業を幸せそうに眺めては「まだー」と声をかける。

「もうちょっと」と返され、「はーい」と珍しく大人しく待つ。

暫くして、「できたよ」と声を掛けられ、彼女の手元を覗き込むと店で買ったようなきれいなものができていた。

ちん、凄い!」

「そう?じゃあ、コーヒー淹れるね」

そう言ってコーヒーの準備をしているの目を盗んで紫原は、ケーキの上に飾られているクリームに手を伸ばした。

コーヒーを淹れ終わったが紫原を見上げて半眼になる。

「な、なに...」

怒られる、という雰囲気を察してか、紫原は慌てた。

彼に向かってが手を伸ばし、紫原はぎゅっと目をつむった。

「つまみ食いは、ばれないようにしなさい」

そう言って紫原の口の端についていたクリームを指で掬ってなめる。

「つまみ食いしてもいいの?」

「ウチ、つまみ食いのプロがいますから?」

苦笑してそう答える。

「あら、あたしの事?」

不意に加わったもう一つの声に紫原は振り返る。

「オレとちんのラブラブ邪魔しないでよ」

「あたしの家よ。悔しかったら自分の家でも建ててそこでいちゃいちゃしなさい」

からかうように言うの母親に

「すぐに建てるし」

と紫原がムキになる。

「あらあら」

愉快そうに彼女は笑い、「着替えてくるわね」と言って部屋に向かった。

「おばちゃん帰ってきたね」

少し残念そうに言う紫原は目の前のの表情に気づいていない。

彼女は真っ赤になって固まっていたというのに...









桜風
13.10.9


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