| うららかな休日の朝。 緑間はおは朝占いを見て、うむ、と頷いた。 かに座の運勢はまあまあだった。 1位ではないらしいが、ラッキーアイテムはすでに家にあるもの。 これで大丈夫。 そう思い、テレビのリモコンに手を伸ばす。コーナーは天気予報に移っていた。 電源ボタンを押す寸前、緑間は眉間にしわを寄せた。 お天気おねえさんは「今日の東京は快晴。傘要らずです」と満面の笑みで言っているのだ。 本日のかに座のラッキーアイテムは傘。 (仕方ない、小さくなるが折り畳み傘にするか) そう思い、部屋に戻った。 しかし、その折り畳み傘を部室に忘れたことに気づき、「しまった」と思わず声を漏らす。 しかたない、家族のを借りるかと思って家族に声をかけるが、全員何らかの理由で貸してもらえなかった。 つまり、折りたたみ傘を諦めなければならない。 途中で購入するという手もあるが、そこまでの道のりが非常に心許ない。 ということで、緑間は仕方なく普通の傘を持って家を出た。 道行く人たちは、緑間の手元を不思議そうに見ていた。 それもそのはず。 お天気おねえさんの言った通り、本日快晴。雨の心配をする方が難しい。 しかし、ラッキーアイテムを所持するのは彼のポリシーだ。これを曲げることはすなわち、彼が彼でなくなるといっても過言ではないくらいにおは朝占いのラッキーアイテムは緑間真太郎を表している。 奇異の目を向けられること自体、そこまで気にならないが、その後が気になる。 今日はとデートなのだ。彼女にまでそんな視線を向けられるのは、少し嫌だ。 まずは海常練習試合を見に行ってその後少し出かけようと話をしていた。 今日は都内で海常が練習試合をするという情報を耳にしたが誘ってきたのだ。 見ていて損はないだろうということで。 約束の時間前ではあるが、緑間は少し早足で待ち合わせ場所である体育館へと向かった。 「...」 緑間は無言で不機嫌を現した。 「まあまあ、みどりん」 宥めるように言うのは桃井で、は向こうにいる。 「邪魔するぜー」 と愉快そうに言うのは青峰だ。 は何故か誠凛高校バスケ部と一緒に観戦する体制に入っていた。 「きーちゃんがテツ君に連絡したみたい。それで、カントクさんの耳にも入って...」 流石にバスケ部で行動するならばもそちらにいなければならないだろう。 つまり、この試合の観戦は青峰と桃井と共にするしかない。 緑間に気付いたらしく、黒子がペコリと会釈して隣にたつに声を掛けていた。 はリコに一言言ってこちらに駆けてくる。 「ごめん」 手を合わせるは心底申し訳なさそうで。 だから、「仕方ないのだよ」と緑間は言うしかなかった。 我儘を言って彼女を困らせるわけにはいかない。 「...傘?」 ふと視線を落としたがつぶやきながら首を傾げる。 「かに座のラッキーアイテムなのだよ」 「そんなでけーのじゃなくて、折り畳みにしろよ」 呆れたように青峰が言う。 「都合がつかなかったのだよ」 そう返す緑間は少し不機嫌だった。 「ちゃーん!」 諸悪の根源である黄瀬がコートからに手を振っている。 緑間は睨み殺さん勢いで彼を見下ろした。 邪魔をするという意図をもって黒子に声をかけた黄瀬は緑間のその様子を見ないふりしてベンチに戻った。 試合は海常の圧勝で、試合後も黄瀬はにちょっかいをかけていた。 (まったく...) この後はと出かけることになっていたが、彼女はまだ片づけなどがあるかもしれない。 取り敢えず、体育館を後にして校門のところで待つことにした。 その旨をメールで送っておく。 暫くすると、先ほどまでの快晴が嘘だったかのように空が重くなってきた。 やがてポツポツと雨が降ってきた。 緑間は、満を持して持っていた傘を差し、を待つ。 そして、ふと気づき、体育館に向かって足を進めた。 天気予報で本日快晴と言われていたのだ。きっと彼女も傘を持っていない。 よって、迎えに行ったのだ。 「なんで傘なんて持ってるの?!」 リコが驚きの声を上げた。持っている方がおかしい今日の天気。 ちらと彼女を見て「ラッキーアイテムだったのだよ」と答える。 緑間のその奇異な習性を黒子やから聞いていたリコは「あ、そ」とあっさり納得した。 「んじゃ、ここで解散にしましょ」 そう言ったリコはを見た。 「荷物は1年に持って帰らせるから大丈夫よ」 ぱちんとウィンクをして言う。 「ありがとうございます」 そう言っては部員たちに挨拶をして緑間と共に体育館を後にした。 「さて、私たちは濡れて帰りましょうか。走って帰れる距離だし」 リコがそう言って部員たちを振り返ってニコリとほほ笑む。 悲鳴に近い声が上がったが、それを汲むようなカントクではないのだった。 「緑間くん、濡れてるよ」 大きい傘だって緑間の体格からすれば少し小さめになる。 それに2人が入っているのだからどちらかは少しは濡れる。 が濡れることを良しとするはずない緑間が濡れるのは、彼にとっては自然なことで、しかし、がそれを良しとはしない。 「だったら、もう少しくっつくのだよ」 そう言って緑間はの肩を抱き寄せた。 「あのね、緑間くん」 が遠慮がちに指を掴んできたので、緑間は彼女の手を握る。 「何だ?行きたいところがあるのか?」 「非常に申し上げ難いのですが...」 そう言ってそうっと彼女が緑間を見上げた。 「うちの母親が風邪をひいてしまい、即行帰らなくてはならなくなって...」 緑間は眉を上げた。 「大丈夫なのか?」 「本当は、今日のお出かけもキャンセルさせてもらうって話したんだけど、お母さんは約束は守れって言って。一応、ポカリとか、御粥とか準備して出てきたんだけど、心配で...」 の母親は家事全般全滅なため、普段はが家事全般面倒見ている。 母親が台所に立てば、何かしらの破壊行為がなされるため、がそれを禁止しており、ゆえに、彼女は自力で食事を調達できない。 もちろん、コンビニエンスなストアでの買い物はできるが、風邪で寝込んでいる今の彼女にそれは酷な話である。 追い出されたので、家を出てきたが、やはり心配になってしまったのだ。 「では、行先はの家だな」 「え、でも」 「は傘を持っていない。俺がここで別れると思うのか?」 「いや、あの」 「それに、母親が風邪で寝込んでいるなら食事の買い物もがするのだろう?荷物持ちくらいできる。それが終わったら帰るのだよ」 「えと、そこまでしてもらったら上がってもらって、お茶でも出さないと気が済まないと言いますか...」 そう言ったに目を細めて、「では、お茶もごちそうになるのだよ」と緑間は言う。 「ありがとうね、緑間くん」 「いいのだよ」 ざあざあと音を立てて降る雨の中を2人はのんびりと歩いて駅に向かったのだった。 |
桜風
13.11.9
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