| 駅前の噴水広場が待ち合わせ場所だった。 今日は海常高校バスケ部も誠凛高校バスケ部も練習がない、いわゆるオフの日だ。 そのため、黄瀬がに電話をしてデートに誘った。 普段、部活がない日はどこで嗅ぎつけているのか、モデルのバイトがもれなく入るのだが、今回は黄瀬が細心の注意を払って事務所への情報漏えいを防いだ結果勝ち取ったオフだ。 とはいえ、たまには休みを、ともしかしたら事務所も目を瞑ってくれているのかもしれないが、そこは大した問題ではない。 彼女とは高校2年の春に付き合い始めた。黄瀬のしつこいまでの片思いがやっと実ったのだ。 恋人となってそれこそ半年程度だが、知り合ったのは中学2年の時であり、それなりに付き合いは長い。 しかし、彼女は東京の誠凛高校に通っており、黄瀬は神奈川の海常高校に通っている。 さらに、2人はそれぞれの男子バスケ部所属という事で普段の放課後は忙しく、もちろん土日も練習や大会で、中々時間が取れない。 つまり、気軽にほいほい会うことは難しく、たまのデートを黄瀬は非常に楽しみにしている。 余談ではあるが、あまり口には出さないが、も同様に楽しみにしている。 ぽつりぽつりと雨が降ってきた。 「あー...」 空を見上げて残念そうに声を漏らした黄瀬は駅に向かう。 駅前で待ち合わせと話をしていたのだ。だったら近場の百貨店の軒先を借りるよりも駅で待っていた方がいいと判断したのだ。 黄瀬は携帯を取り出して連絡が入っていないかを確認する。 彼女からの連絡はない。 今日は部活はないがクラスの用事があるから少し遅くなるかもと言われていた。 黄瀬としては、神奈川から東京に出てくるのだから、少しくらい時間がある方が助かるので、それに対して特に思うことはない。 今回、約束の時間は彼女がそれを考慮して設定した。 迎えに行こうかと声をかけようとしたが、黒子が「迷惑です」と真顔で以前言っていたのを思い出したので、今回は遠慮した。 本当は早く彼女に会いたいのに... 約束の時間からすでに30分過ぎている。 (何かあったんスかね...) 黄瀬は心配でそわそわし始めた。遅れてくるのは一向に構わない。だが、何か、それこそ事故に遭ってここに来れないなら心配だ。 雨足は強くなり、本降りになってきた。 「傘、持ってるんスかね」 とりあえず、自分は持っていないので駅に隣接しているコンビニに足を向けた。彼女が来てから行くよりもその方がいいと思った。 すると、腕を強く引かれる。 「待って」 見下ろすと肩で息をしているがすがるように見上げてきている。 「ちょ、ちゃん?!」 「ごめん、遅れた...もう帰らなきゃダメ?」 が謝罪し、遠慮がちに問う。 「大丈夫っスよ!って、ずぶ濡れ...」 彼女は傘を持っていなかったのか、ずぶ濡れだ。 部活がない本日、黄瀬はタオルを持っていない。 「走ってきたから」 彼女の足元は跳ねた泥で汚れている。 「傘持ってなかったんスか?」 「差して走ったら遅くなるから」 そういって彼女は鞄から折り畳み傘を取り出した。 「ちょ!遅れても大丈夫って言ったじゃないスか!もう、風邪ひいたらどうするんスかー」 早く待ち合わせ場所へ行きたかったから、というその気持ちは嬉しいが、こんなことで風邪をひいては気の毒だ。 黄瀬は少し気は進まないが、使用済みとなってしまっている自分のハンカチで彼女の髪に着いた滴を拭いてやるが、ハンカチ程度でどうにかなる程度の濡れ具合ではない。 「ね、ちゃん」 「なに?」 自身のハンカチで自分の服に着いた滴を拭いていたがその手を止めずに見上げた。 「今日は、オレの買い物に付き合ってもらう予定だったっスけど」 「うん。あ、濡れてるから駄目?そっか、入店拒否されるかもだよね」 自身の浅はかさを反省しているを黄瀬は慌てて否定する。 「違うっス!」 「えーと...」 「ちゃんの服を見立てさせて」 「え?あ、いや...」 「本当はプレゼントしたいけど、そういうのイヤでしょ?」 「うん、やだ」 黄瀬の言葉を肯定しながらがうなずく。 「だから、オレがちゃんの服を見立てるんス。ちゃん、何でも似合いだろうから、コーディネートのし甲斐があるっスね」 張り切る黄瀬には戸惑う。 「えと、黄瀬くん」 「オレのセンス、信じてほしいっス」 自信満々の笑みを浮かべた黄瀬はの手を取って歩き出す。 「わ、もう!手も冷たいじゃないスか!!」 「あ、ごめん」 そういってが手を離そうとするが黄瀬がそれを拒むようにぎゅっと握る。 「あったかくなるまでこのままっス!」 宣言して黄瀬は歩き出すが、すぐに足を止めて振り返った。 「あ。今の訂正。あったかくなってもこのままっス!」 満足そうにいう黄瀬の表情は満面の笑みで、それにつられても笑った。 |
桜風
13.11.4
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