| 目覚ましが鳴る前に目が覚め、リビングに向かった。 「おはよ」 と声を掛けながら部屋に入るとすでに起きていた母が「おはよー」と返してくる。 「コーヒー、紅茶、緑茶、それ以外。何がいい?」 とリクエストを問われ、 「母さん何飲んでんの?」 と問い返すと 「ホットミルク」 と返された。 「じゃあ、オレも。顔洗ってくる」 「はいはーい」 顔を洗って、少し目を覚ましてリビングに戻ると、ちょうどいい暖かさのミルク。そして、キッチンでは母が朝食の支度をしている。 「手伝う?」 と問えば 「あとちょっとだしいいよ。目玉焼きは?」 「半熟で」 「ベーコン2枚でいい?」 「うん」 と出番がないことを悟れる会話が落ち着き、席に着いた。 部屋にある壁掛けのカレンダーを見て 「ああ、そうか」 と呟きながら朝刊に手を伸ばす。 「母さん。赤司さん、名人戦防衛だ」 「あ、ホント?おめでとメール送っとこ」 「赤司さん、どれけ無敗なんだろ。記録更新中だったよね」 「うん。まあ、赤司くんに勝てるのは、自分の身に危険を感じたわたしだけだ」 と笑いながら母が言う。 「ほんとかなぁ」とこぼしながら新聞に目を通しているとカタリと目の前に皿が置かれた。 新聞を畳んで、母と向かい合って「いただきます」と手を合わせた。 「母さん。今日、涼ちゃん迎えに行くの?」 修学旅行に行っていた妹が本日帰国となる。 「うん、その予定。少し遅い時間だしね」 「何時?」 「9時ごろって。修学旅行の栞に書いてあったよ」 「じゃあ、オレが車だそうか?そしたら、タイミングが合ったら父さんも一緒に帰れるし」 母は体が小さい方で、車は軽自動車に乗っている。それに対して、父親は体が大きいので、大型の車に乗っている。 つまり、この家にはサイズの違う車が二台あるのだ。 息子は、日本人男子の標準サイズの体格なので、どちらの車にも乗れる。 よって、彼が車を使うときは空いてる方を使用しているのだ。 「どうしよう。バイトあるんじゃない?」 随分とぐらつく気持ちを抑えながら母が問えば、 「今日はバイト入ってないよ」 と答える。 「じゃあ、お願いしてもいい?駐車場に入れないかもしれないし」 と申し訳なさそうに言われた。 「いいよ」 「けど、あっという間だったね」 何処か弾んだ声音で母が言う。 「ん?」 「涼太くんがいないのは、まあ、結構慣れてるけど、涼葉さんがいないのは普段ないじゃない?ちょっとさみしかったなー、なんて。ね?」 「まあ、そうだね」 部活での合宿等々はあるが、それでも、文系のクラブに属しているため、そんなに家を空けることはない。 「涼葉さんがいない間、滉太くんとデートしたかったなー」 「父さんが拗ねるよ」 苦笑して息子が返す。 「大人げないよねぇ」と母が言うと息子は笑う。 昔から父は「ちゃんは、オレの奥さんっスからね!絶対に譲らないっスよ!!」と口をずっぱくして言っていた。もう耳タコだ。 だが、譲らないってどういうことなのやら、と今になれば大きな疑問が浮かぶというものだ。 朝食を済ませて食器は息子が洗って片づける。 食洗機はあるが、彼は基本的にそれは使わない。 「ありがとねー」 食後のコーヒーを母に出したらそう言われた。 「うん」 (そういや、ホントに母さんと2人ってそんなにないなー...確かに、父さんうるさそう) 両親の話は、両親の友人たちからいろいろ聞いている。 そして、皆が口をそろえていうのが、 「黄瀬(君)は、昔から変わらない」 ということで、母に問えば 「まあ、基本は変わってないと思うな。多少は、落ち着きというものを装備できたかと思うけど」 とこんなことを言う。 ちなみに母のこんなところは、彼女たちの友人たちからすれば「変わってない」ところで、本人は気づいていないらしい。 「滉太くん、学校は?」 「ああ、うん。準備しないとね」 そう言って食後のコーヒーを飲みほして自室に向かった。 「母さん」 学校に行く支度を済ませて息子がリビングを覗く。 掃除を始めていた彼女が手を止めて振り返った。 「ああ、いってらっしゃい」 「うん。今日、オレが帰ってきたら、涼ちゃん迎えに行く前にちょっとだけデートする?」 と声をかけると、彼女は「する!」と笑って返した。 「じゃあ、そうしよう」 間髪入れないで返事をした母に苦笑して息子はそう言う。 「涼太くんに自慢しよ」 「やめて、母さん。それ、ちょっと後々父さん面倒くさい」 息子の言葉に彼女は笑い 「かもねー」 と返した。 「じゃ、いってきます」 「いってらっしゃーい」 玄関先まで見送りに来た母に手を振って彼は家を出た。 |
桜風
13.12.1
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