| 「じゃあ行ってきます」 がそう言って仕事に出かけた。 基本、休日出勤のない職場ではあるが、今回は回避できなかったらしい。 その代り、と言っては何だが、緑間はゆっくりすることができる。 を見送り、彼女が帰ってきたときに負担が少ないとように、と 洗濯や掃除を始めた。 息子もその手伝いをすべく、足元をちょこまかと動く。 昼食を済ませ、家事もひと段落つ準備をき、緑間は息子を見た。 「どこか、行きたいところはあるか」 「としょかんに行きたいです」 息子は目を輝かせていう。 曰く、寝る前にに読んでもらう本がないとか。 「そうか。では、出かけるのだよ」 「はい!」 てきぱきと着替え、図書館への準備を済ませた息子が玄関先で待機していた。 「では行こう」 「はい」 図書館で彼の好みの本を借り、ついでに緑間も気になる書籍を見つけて借りた。 帰りに公園に寄って行こうと声をかけると息子は大賛成で、少し遠回りになる道に足を向けた。 「あっれ、真ちゃん?と、誠太郎じゃん。ちゃんは?」 「たかおのおじちゃん!」 誠太郎は嬉しそうに高尾の名を呼ぶ。 「は今日仕事なのだよ」 「あー、とうとう休日出勤か...その分、真ちゃんが休みって事ね」 「今日は土曜なのだから、普通に休みなのだよ」 からかうような高尾の言葉に緑間はそう返した。 「んで、どこ行くの?」 「公園です」 誠太郎が答える。 「へー。んじゃ、オレも行こっと」 「帰れ」 「何だよ、真ちゃん。冷てーなー。誠太郎はオレが一緒でもいいだろう?」 膝を折って誠太郎と視線を合わせながら高尾が問うと「はい」と彼は頷く。 「んじゃ、オレも公園に行こうっと」 ため息を吐いた緑間は帰れとはもう言わなかった。 公園に着くと、どうしても自然と足を向けてしまう場所がある。 この公園には、ハーフコートではあるが、バスケットコートがある。 「お、誰だー?ボール忘れてんじゃん」 休日の午後だというのに、人気がない。その代り、誰かが忘れたバスケットボールがぽつんとそこにあった。 「真ちゃん、久々にやんない?」 バスケットボールを器用に指先の上で回しながら高尾が言う。 ちらっと息子を見ると「僕、ここでいい子にしてます」という。 「じゃあ、少しだけ高尾の相手をしてくるから。何かあったら呼ぶのだよ」 「はい」 上着を脱いで腕まくりをして。 本気モードの緑間に高尾は愉快そうに口笛を吹き、自身もシャツの袖を捲った。 「あっれ、誠太郎?」 誠太郎はその声に振り仰ぐ。 「黄瀬のおじちゃん!」 「うーん、涼太お兄ちゃんって呼んでくれるとうれしいなー」 苦笑いを浮かべて黄瀬が言う。 「はい!」 「んで、緑間っちと高尾っちは何で1on1をしてるの?ちゃんは?」 きょろきょろと周囲を見渡して黄瀬が言う。 「お母さんは、お仕事です」 「え、今日土曜だよね?」 黄瀬が言うと「はい、でもお仕事が入ったって言ってました」と誠太郎は頷く。 「ふーん。んで、誠太郎を放っておいて、あの2人は遊んでんだ」 「おとうさん、凄くかっこいいです」 目を輝かせていう誠太郎の言葉にちょっと面白くない。黄瀬の負けず嫌いが刺激された。 「涼太お兄ちゃんだって、中々やるよー」 そう言ってジャケットを脱いで、シャツの袖捲る。 「僕もうずうずしてきました」 「わ!黒子っち」 「テツヤお兄ちゃん、こんにちは」 「こんにちは、誠太郎君。しかし、緑間君は、小さな子供を置いて何遊んでるんですかね」 保育士としては、少し心配になるこの状況だ。 「大丈夫です」 きっと、ホントは大丈夫と思ってはいけないのだろうが、彼の自尊心を尊重して「そうですか」と黒子が言う。 「黒子っちも久々にやらないっスか?」 「やります」 黒子は即答した。 「誠太郎君、何かあったら全速力で僕たちのところに来てくださいね」 「誠太郎、見ててよ。オレ、緑間っちよりもやるっスからね!」 そう宣言した黄瀬は、バッグを誠太郎に預けて「オレたちも入れて―」とコートに向かって駆けて行った。 「あらあら、まあまあ」 「お母さん!」 呆れた様子のを見上げて誠太郎が嬉しそうに声を上げた。 「お仕事は終わったんですか」 「終わったよー。終わらせたよー。って、何やってんだろうねぇ...」 心底呆れたようにが言う。 「お父さん、かっこいいです」 目を輝かせて誠太郎が言う。 (でも、切れは少し落ちたねぇ...) バスケを毎日していたあのころと比べるのはおかしなことではあるが、やはり寄る年波に勝てない同級生を見て、自分も同じかと少しだけショックを受ける。 「ね、誠太郎。わたし、お買いものしてくるけど、どうする?」 「僕、お父さんの応援してます」 「はーい。じゃ、すぐに戻ってくるから」 そう言ってが一旦席を外した。 が買い物袋を提げて戻ってきても男どもはまだ汗だくになってバスケに興じている。 「あら、さつき」 「もう、何で男の子ってこうなんだろうね」 困ったように笑って桃井が言う。 偶々通りがかって誠太郎が一人だったから慌てて駆け寄ったら、バスケットコートから聞きなれた声が上がっているのだ。 「よくよく考えたらさ、ある意味豪華キャストでお送りしてるよね、アレ」 いつの間にか集まった近所の子供たちが彼らのプレイに見入っている。 「そろそろ帰って夕飯の支度したいなぁ」 がぼやく。 「じゃあ、声をかければ?」 「聞いてくれるかしら?」 肩を竦めていうに「だめかも」と桃井が笑う。 パスミスによりボールが飛んできた。 びっくりした誠太郎は頭を抱え、はそのボールを殴り飛ばした。 「はい、ちょうどいいわ。終了」 「?」 肩で息をしながら緑間が呆然と呟く。 すっかり忘れていた。 「あ、誠太郎」 「け、けがはない?!」 すっかり忘れていた存在に大人たちは慌てて駆け寄る。 「大丈夫です。お父さん!」 「な、何のだよ...」 「お父さん、凄くかっこよかったです!!」 目を輝かせていう息子に、少し気恥ずかしさを覚えながら「そうか」とだけ返した。 公園で解散して3人で帰ってきた。 「お父さん、凄かったです」 緑間が席を外していても、今日の彼の姿にあこがれた息子がに訴える。 「もっとカッコいい真太郎さん、見たい?」 「見たいです!」 「じゃあ、明日の家に行こうか」 「僕、おばあちゃんに電話します」 そう言って子機に向かって走り出す。 「誠太郎、そろそろ寝る時間なのだよ」 「ちょっと待ってください」 そう言ってダイヤルをしはじめる息子に首を傾げ「どっちに電話をしているのだよ」とに問う。 「ウチ」 「何かあるのか?」 「お宝映像?」 首を傾げながらが言う。 緑間も首を傾げた。 「お母さん、おばあちゃんいいって!」 「じゃあ、明日お出かけだね」 にそう言われて誠太郎は嬉しそうに頷き「おやすみなさい」と2人に挨拶をして部屋に向かった。 「どうしたのだよ」 「真太郎さんも大変ですねぇ」 「何だが?」 「益々誠太郎の憧れだね。あの子、バスケしたいって言い始めたらどうする?」 「したいなら、やればいいのだよ」 「まあ、まずはボールをまっすぐに投げられるかどうかが問題だろうけどね」 肩を竦めて言うの言葉に (いちばんの問題なのだよ) と心の中でそっと突っ込む緑間だった。 |
桜風
14.3.4
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