| 寝坊した! そう思って手早く着替えてリビングに駆け込む。 「おはよー」 声を掛けてきたのは娘で、 「ちゃんは?」 と彼女に問えば 「お兄ちゃんに送ってもらってるよ」 と返されて黄瀬はその場にへたり込んだ。 「パパ、大丈夫?」 傍までやってきた娘が顔を覗きこんで問う。 「待っててくれなかったんスね」 ひとりごちる。 しかし、室内の壁掛け時計を見て納得しなくてはならないと反省をした。 本日、は出かけると言っていた。 駅まで車を出すよ、と黄瀬は約束をしていた。 しかし、の外出は黄瀬が帰宅した翌日の話。フライトが終わって帰宅した黄瀬は大抵翌日の午前は睡眠で潰れる。 だからも「無理しなくていいよ」と言ってくれたのだが、黄瀬は無理をしているのではない。 やりたいからするのだ。 だって、車で駅まで送っている間はと完全個室で2人きり。 少しの時間でもデートなのだ。 だから、楽しみにしていた。 「ギリギリまで待ってたんだけどね。パパ、疲れてるんだろうってママ諦めて。お兄ちゃんが代わりに送ってったの」 「うん...」 「朝ご飯食べれる?」 「うん」 「じゃあ、支度するから、顔洗っといで」 そう言って娘がキッチンに向かう。 「うん」と頷いて黄瀬はリビングを後にした。 身だしなみを整えてリビングに戻るとトーストとスープにサラダという朝食が用意してあった。 「今日は滉君が朝ご飯作ってくれたんだね」 メニューを見て黄瀬が呟く。 「うん。あ、パパたちの部屋、ちょっと入るね。ママが、パパが起きた後ならいいよって」 「ん?うん、いいよ」 がいいというなら、と黄瀬は頷いた。 「いただきます」と手を合わせて食事を始める。 が作るときは大抵和食で、息子が作るときは洋食であることが多い。 どうやら娘は自分に似て、息子はに似たようだ。 特に彼は料理に興味があり、幼いころからが食事を作るときには傍にいて手伝いをしていた。 料理が趣味と言うと小学生時代はクラスメイト達にからかわれたりしたようだが、を始め、自分たちの友人も含めて周囲の大人たちが彼を肯定してくれていたから彼はまっすぐその道を進むことができたのだと思う。 今は調理師の資格を取るべく、専門学校に通っている。 大学に行かないのは勿体ないと学校の先生には言ってもらえたらしいが、本人が全くそういう勉学に興味が無いので、行きたい道を行くようにと黄瀬が背中を押した。 というか、押す機会をから貰ったと言っても過言ではない。 普段家にいないけど、要所要所でが『父親』をさせてくれるので、留守がちでも子供たちが自分の事を『父親』と認識してくれている。 (できた奥さんっスねー。当然か) ちゃんだし、と思いながら食事を終えた黄瀬は食器を洗い、テレビをつけた。 今は海の向こうもバスケットシーズンだ。 暇があればそれを見てしまうのは、もうどうしようもない。 「えーーーーーー!!!!!!」 不意に娘の奇声が耳に届いた。 「元気っスねぇ」 呟いてチャンネルを選択していると転がり落ちるような足音が聞こえてリビングのドアが派手に開いた。 「涼ちゃん」 窘めるように娘の名を呼ぶ。 これは流石にはしたない。 「ごめん。でも、パパ。これ何?!」 そう言って自分に向けられたものを見て黄瀬は苦笑した。 「わー、懐かしいなー」 受け取ってページをめくる。 「ねえ、写真集って...」 幼い父が決め顔で写っている。 幼いと言っても、もう青年と言ってもいい年ごろかも知れない。 「んー?涼ちゃんに話したことなかったっけ?オレ、モデルのバイトしてたって」 「聞いてる。『バイト』だって」 「あー、うん。まあ、事務所的にそれなりに金になるモデルだったからね。こういうのも出してもらえたんだよ」 今思えばいい記念である。金をかけて当時の自分を記録してくれているのだから。 ただし、これはの好きな黄瀬涼太くんではない。 それを思い出して黄瀬は嬉しそうに頬を緩めた。 「パパ、何?気持ち悪いよ」 「酷いなー」 「これ、いくつの時?」 「最初だから高1だね。あと2冊出してもらってるよ。てか、これ何処にあったの?」 「クローゼットの奥の隠し底の中?」 (何でエロ本隠すようなところにあるんスか!) 心の中でツッコミを入れる。 「涼ちゃんはなんでそんなところ覗いたの?」 「ママの高校時代のノートがそこに入ってるからって。前に大我お兄ちゃんとかテツヤお兄ちゃんがママのノートは綺麗に要点がまとめられて凄くわかりやすかったって言ってたから」 「あー。涼ちゃん、今テスト期間?」 「うん」 「テスト期間中って、なんで掃除したくなるんだろうね」 「そうそう!まずは掃除をしないと始められないよね!!」 娘はうんうんと頷く。 (ホント、なんでオレに似ちゃったんだろう...) 気の毒な気もする。に似ていたら、もうちょっと違っただろうに... 「ねえ、パパ。このころのパパとママの話聞きたい」 「えー、まあ。いいけど...」 テレビを消して黄瀬はキッチンに向かった。 コーヒーを2人分入れてリビングのソファに腰を下ろす。 娘はワクワクした表情を黄瀬に向けていた。 黄瀬はおもむろに話し始める。自分との恋物語を。 「ただいま」 玄関が開いて声が聞こえた。 「おかえりー」と黄瀬が振り返って玄関に向かって返事をする。 「お兄ちゃん!」 娘が玄関に駆けだした。 (拙かったかも...) 自分の片思い期間の話から、恋人になったところまで詳細に話した。 次は結婚してからの話になる。 が、はそういうのを話されるのが多分好きではない。だから、子供たちにもぼやかして話をしていると思う。 息子はそんなに興味を持たないかもしれないが、娘はこういう話は好きそうだ。 目を輝かせて聞いていたのが何よりの証拠。 「今ね、パパとママの恋物語を聞いてたんだよ」 リビングに入りながら娘が息子に言う。 「...父さん、それ、母さんが聞いたら怒るやつだと思うよ」 「やっぱ、そう思う?!」 「うん。母さん、照れ屋だし」 「涼ちゃん、ちゃんには内緒だからね!」 念を押すも「うん!で、続きは?」と適当な返事と共に彼女は話を促してきた。 「えー」と渋っていると「お兄ちゃん。パパにコーヒーを淹れてあげて。喉を湿らせなきゃ!」と兄を見上げていう。 「...まあ、ボクも飲みたいから作るけど。涼ちゃんは?」 「私は紅茶がいい!」 「...はいはい。あ、父さん。母さんの迎えは7時ごろに駅前って話してる。夕飯はボクが作るから」 「わかった」 (できた息子っスねぇ...) 「お兄ちゃん、早くー」 「はいはい」 (どこのきょうだいも女の子の方が強いもんなんスかねぇ) 自分の姉と自分の関係を思い出しながら黄瀬はそんなことを思っていた。 |
桜風
14.4.20
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