クリスマス前のバースデー






 駅の前では指に息を吹きかける。

ここ数日は小雪がちらつく生憎の天気で、本日も非常に寒い。

友人からの情報で、洛山が上京するのは今日だと聞いていた。

だから、こっそり待ち伏せをしているのだ。


明日からウィンターカップが始まる。

の通っている誠凛高校は東京代表でこの大会に出場することが決まっており、もちろん、インターハイ優勝校であり、昨年のこの大会の準優勝校の、赤司の通う洛山高校も出場を決めている。

つまり、平たく言えば敵同士ということになる。

だが、大会の開会式が始まるまで、今晩まではそこまで考えないようにしようと思った。

一応、カントクにも高らかに今日、赤司に会うことを宣言しており、彼女は苦笑して「はいはい、大丈夫よ」と言ってくれた。

そのため、所属するバスケ部に対する裏切りにもならない。と、思う。

駅からバスに移動かな、と思って周囲を見渡した。

丁度それらしいバスが停めてあるが、報道陣と思われる人たちもいた。

昨年のウィンターカップを落とし、しかし、今年のインターハイは連覇した。

洛山高校はどうあってもその筋からは注目されるのだ。

さらに、今年はウィンターカップの頂点奪還を注目されている。

「あちゃー...」

洛山ほどでもないが、誠凛もそこそこ注目されており、報道陣の中には、誠凛を取材した人物もいる。

誠凛の取材中はあまり目立たないようにしていたが、それでも視界に入って覚えられていたら面倒だ。

「大会終了後かな」

「それは承服しかねるね」

がつぶやくと背後から声がした。

「いいの、あっち」

大して動じる様子もなく、はバスを指差した。まさに洛山高校バスケ部が報道陣に取り囲まれているところだ。

「監督がいれば何とかなるよ。玲央もいるし」

「よく抜けられたね」

「実家に顔を出しに行くって話したからね」

「行くの?」

「まあ、顔を出すだけはしておくよ」

そう言いながら赤司はの手を取って歩き出す。

「わたしがいるの、見えたの」

「いると確信していただけだよ」

「いなかったらどうしたの」

「確信していた、と言ったけど?」

そう返され、は肩を竦めた。


暫く歩き、「それで?」と赤司がに声をかけた。

「ん?」

「僕を待っていたんだろう?」

「そうだねー。昔みたいに少し遅れて誕生日おめでとうができないからね」

がそう言って、赤司が足を止めた。

「ああ、そうか」

何か、合点が言ったように赤司が呟く。

「まさか、忘れてたの?」

「あまり興味が無いからね。そういえば、今日は玲央たちからもおめでとうと言われたな。何がそうなんだろうって思ったけど...」

「赤司くんって、わたし以上に、自分に頓着しないね」

呆れたようにがいい、赤司は肩を竦める。

「それで、君。僕は何かもらえるのかな?」

「うん」

そう言ってが取り出したのは、マグボトルだった。

「これは?」

「赤司くんの好きなものです。あ、でもちょっと寒いかな?」

少し心配そうにが言うと、赤司は躊躇うことなく、ボトルに口をつけて中身をのむ。

「ああ...」

感嘆の声を漏らし、赤司はを見た。

「なぜ、これを?」

「あんまり言いたくない。だって、赤司くん面白くないって反応しそうなんだもん」

「言うんだ」

の言葉に少しだけ強めの声音で赤司が言う。

「いや...白状するとね。赤司くんって、電話だと全然様子が分かんないから、玲央さんに聞いてみたの。最近の赤司くんは元気ですかって」

「僕に内緒で男と連絡を取ってたということだね?」

「ほらー、そういうことを言う...」

赤司の言葉にが拗ねたように言う。彼は肩を竦め、「それで?」と続きを促した。

「なんかちょっと最近元気がないみたいだからって。夏に弱いのは知ってるけど、冬はそうでもなかったはずなのになーって思ってね。風邪の引き始めなら、栄養とってゆっくり静養するのが一番」

そう言ってが不敵に笑った。

赤司は片眉を上げ、ため息を吐く。

「どうしてそばにいないのにそこまで確信を持てるんだろうね」

「わたしを誰とお思いか?」

呆れたようにいう赤司に対しては胸を張って言う。

「僕の恋人だよ」

そう言われ、彼女はちょっと赤くなる。

「かわいい、が抜けたね」

「ちょっと、赤司くん!」

抗議の声を上げたに赤司は少しだけ勝ち誇ったような視線を向けてきた。

「さて、君。もう少し時間があるから、デートでもしないか?」

「そのつもりだけど。その前に」

そう言っては言葉を区切り、赤司を見上げた。

「赤司くん、誕生日おめでとう。あなたに会えてよかったわ」

まっすぐ目を見てそう言われた。

赤司は少しだけ面食らったように目を丸くしたが、微笑む。

「それは、光栄だね」

そう返した赤司はそのまま腰を曲げてに口づける。

「赤司くん!」

「誕生日プレゼントをもらっただけじゃないか」

そう言う赤司は何一つ反省していない表情で、はため息を吐き、

「じゃ、どこ行こうか」

とデートの行先を問うてみた。

「人が多いのは好きじゃないけど、イルミネーションなんてどうだろう」

「そうね、クリスマスもパスだし、今のうちだね」

そう言ってが頷き、赤司は再び彼女の手を取って歩き出す。

世の中の恋人同様、2人は仲よく人込みに消えていった。









桜風
13.12.20


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