| 高校を卒業してから時々彼らは集まって練習をする。 高校卒業を機にバスケを辞めた者はいなかった。 練習後にお腹が空いたと誰かがいいだし、近くのハンバーガーショップに向かった。 店内に長身の集団が入ってきて周囲は一瞬ざわついたが、それもすぐに興味を失われたのか、そのざわつきはなくなる。 この店の常連である黒子と荷物持ちに2人ほど置いて、残りは席を確保することとした。 「のところの成人式っていつ?」 そう聞いたのは桃井で、 「みんな一緒じゃねーの?」 と青峰が口をはさむ。 「自治体主催だから違うのかもね」 そう言っては自分の住んでいる地区の成人式の日取りを口にした。 「あ、一緒!」 桃井はそう言い「振袖?」とさらに問いを重ねる。 「行かないよ」 そう言って彼女は買ってきてもらったオレンジジュースに口をつけた。 「何で?!」 「カントクに、成人式って中学校単位で同期会みたいな状況になるって聞いたのよね。面倒くさい。成人式に出なかったからといって、成人になるわけでもないし、『大人』をはき違えている子供を見るのも気分のいい話じゃないからね」 静かにそう言われて桃井はふと思い出した。中学時代に聞いたの話だ。そう言えば、あまり面白い話ではなかったと今更反省する。 「そ、か」 「あ!良いこと思いついたっス!」 そう言って黄瀬が席を立つ。 「きーちゃん?」 不思議そうに桃井が彼を見上げるとぱちんとウィンクをされた。 「会いかわらず、涼太は落ち着きがないな」 そう呟いたのは赤司で、「そうだな」と緑間が頷く。 少し離れたところで携帯でどこかに話をしていた黄瀬は、どうやら何かを頼んでいるらしくぺこぺこと頭を下げている。 話が終わったらしい黄瀬は席に戻ってきて、「ところで『成人の日』ってみんな暇っスか?」 (それって、たぶん先に確認すべきことだったんじゃないのかな...) そんなことを思いながらは周囲の様子を見た。 「僕は、一応新成人挨拶が入っているから成人式には出なくてはいけないが」 と赤司。 「そんなもんあんのかよ!」青峰が驚きの声を上げ、「相変わらずですね」と黒子は感心したように赤司に言う。 「赤ちん、そんなめんどいのよく受けたねー」 「青峰くんと紫原くんは相変わらず見てる方が胃もたれしそうな...」 紫原を見たが視界に入った光景に思わずそう零す。 「んー?そー??」 「てか、まだ足りねぇ」 そう言って2人は追加をしに立ち上がる。 「ブラックホール」 「...黒ちん、ちゃんと食べないと大きくなれないぞ」 紫原がそう言うと黒子はむっとしたように「余計なお世話です」と返した。 「ねえ、何をお企みになってるのかしら?」 取り敢えず青峰が満足したので解散となった。帰りに黄瀬はを家に送っていく。 そう問われて「まだ秘密っス!」と黄瀬が笑った。 あのあと、黄瀬は成人の日に皆で集まろうと言ったのだ。そして、同学年なら友達も一緒でいいと彼は言った。 「ちゃん」 成人の日、黄瀬はを迎えに来た。 「黄瀬くん、お仕事は?」 「さっき終わったからタクシー捕まえて迎えに来たんス」 どうやら事務所の意向で事務所主宰の成人式に出席しなくてはならないらしい、という連絡が来たのが正月明け。 「何でこんなギリギリでスケジュール入れるんスかね」 とぼやいた黄瀬は拗ねていた。 しかし、元々予定していた時間には間に合うとかで、仕方なくその成人式に出席したのだ。 「さ、行くっスよ」 そう言っての手を引いて黄瀬は家を出る。 「いってらっしゃーい」とにこやかに手を振るの母親に手を振り返し、外に待たせていたタクシーに乗った。 「どこ行くの?」 「待ち合わせ場所っスよ?」 「その次、あるんでしょ?」 が言うと黄瀬は苦笑して「そうっスね」と頷いた。 しかし、彼は頷いただけでどこに行くとは教えてくれなかった。 皆と待ち合わせ、黄瀬を先頭にぞろぞろとついて行く。 「袴にするのかと思った」 成人式に出席した赤司を見上げながらが言うと 「これがあるから動きやすい方を選んだんだ。どこに連れて行かれるかは、なんとなく予想はできているけど、スーツならどこでも大丈夫だからね」 と赤司が言う。 「見当がついてますか」 「相手は、涼太だからね」 赤司がそう頷く。 「君は?」 「何となく、はね」 「...さすがだね」 「ここっス!」 足を止めた黄瀬がそう言い、建物を見上げる。 そこは、も以前来たことがある。 所謂撮影スタジオが入っているその建物を皆がつられて見上げた。 「ここなの、きーちゃん」 「そうっス!」 そう言って黄瀬が建物に入っていき、皆もそれに続いた。 「やあ、お嬢ちゃん」と声をかけてきたのは、いつかのカメラマンで、「お久しぶりです」とも挨拶を返す。 「おお、結構大所帯だな」 「そうなったっス」 そう言って黄瀬は苦笑し、と桃井をスタッフに預け、男性陣は自分が引き連れて一旦スタジオを後にした。 スタッフにメイクルームに連れて行かれたは「わ、」と声を漏らす。 そこには振袖が掛けてあったのだ。 「えー、と。こっちがちゃんのだって」 メモを見ながらスタッフが言う。 「わたしの、ですか?」 「ええ、黄瀬くんがちゃんのお義母さんから預かってきたっス!って」 「?」 「知らない」 桃井に声をかけられては驚いたように首を横に振る。 話は夏までさかのぼる。 黄瀬は偶然の母親に出会った。 彼女は営業の途中だったらしいが、大きな仕事を取って帰ったところだから、少しサボってもいいんだと言っていた。 「何か悩み事っスか」 黄瀬にそう言われての母親は少し驚いたような表情をした。 「なんでわかったの?」 「さー...あ、でも。なんとなくちゃんに似てるからじゃないっスかね?」 首を傾げながら言う黄瀬に彼女は笑い「あの子があたしに似てるのよ」と指摘する。 「っスね」と黄瀬は頷く。 「晴れ着をね、どうかなって」 「いいじゃないっスか!絶対に綺麗っスよ!!」 「そこはもうわかってることなんだけどね」 の母親の言葉に黄瀬は苦笑する。この人、結構親バカなのだ。 「着るかな、って」 「成人式、来年すぐっスよ?」 「多分行かないからね。面白くないだろうし」 そう言われて、黄瀬は思い出した。 確かに、面白くないだろう。自治体ごとに行われる成人式には、黄瀬とは同じ会場での出席はできない。 「よし!買おう!!」 「え?」 「晴れ着は、結婚式でも着れる!!」 「楽しみっス!」 『結婚式』という単語に黄瀬は反応してそう言うが、「隣に立つのは誰だもいい!」と続けていわれて「何スかー」と情けない声を出した。 「だって。さんが幸せなら相手が誰であろうといいもの」 「何を言ってるんスか。オレ以外に誰がちゃんを世界一幸せにできるっていうんスか」 胸を張って黄瀬が反論した。 「本人に言いなー」 「すぐにでも言いたいんスけど、まだ無理なんで」 と黄瀬はの母親の言葉に肩を落とした。 それを見て彼女は愉快そうに笑い、「よし、内緒でプレゼントしよっと」と悩みを解決した。 そんな経緯を唯一知っている黄瀬が彼女の母親に今回のことを話して晴れ着を預かってきたというわけだ。 そんなことを知らないの頭には『?』がたくさん並んだが、それにお構いなく着付けとメイクをされてあれよあれよと着物美人が出来上がった。 隣の桃井も着物が用意されており、後で聞いた話、これは青峰が桃井の母親に話をして借りてくれたらしい。 撮影スタジオに戻ると準備が終わった黄瀬たちが達を待っている状態で手持無沙汰にしていた。 「黄瀬君」とスタッフが声をかけ、勢いよくそちらに視線を向けた黄瀬は無言でスタッフにサムアップをし、彼女たちもそれを返す。 「きれいですよ、2人とも」 すぐに声をかけてきたのは黒子で「あー!黒子っち!!」と黄瀬が抗議の声を上げた。 黒子はそれを黙殺する。 「よーし、撮るぞ」 カメラマンに声を掛けられ、皆がその指示に従う。 いくつかのパターンを撮影したため、実際は少し時間がかかったが、彼らにとってはあっという間だった。 撮影が終了し、どこかによって帰ろうという話が出たが、着物を持って帰らなくてはならないため、今日は遠慮するとと桃井が辞退し、それならまた今度皆で、と解散となった。 「ねえ、黄瀬くんの企みってこっち?」 大切そうに着物を持ち歩いているがそれを軽く持ち上げた。 黄瀬が持つと言ったが、「わたしが持ちたいの」とに断られた。 「っスね」 みんなで写真を撮るのは確かにその場で思いついたが、そのメインはの晴れ着姿だった。 「ありがと」 の礼に黄瀬は少し照れたように笑い、「きれいだったっスよ」という。 「黒子くんからもう聞いたよ」 とがからかうように言うと「もう!」と黄瀬が拗ねる。 「宝物がまた増えちゃった」 は目を細めて今日の出来事を反芻するように『宝物』という言葉を口にした。 「それなら、よかったっス」 「黄瀬くんにはたくさんもらってるね」 が言うと黄瀬は照れたように笑う。 「まだまだ足りないっス」 「充分だよ」 「まだまだ。この先もずっとたくさん宝物をプレゼントできるように頑張るっスよ」 黄瀬がそう宣言し、は幸せそうに微笑んだ。 |
桜風
14.1.12
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