お守りの約束





 昼下がり、来月のイベントのために買い物をしているリコは、少し先を歩いているその後ろ姿を見て早足で追いかける。

!」

名前を呼ばれた彼女は振り返り、「カントク!」と嬉しそうに笑った。

彼女の可愛い後輩である。

「どうしたの?背中が寂しそうだったわよ」

そう指摘されては苦笑した。

「さみしそうでしたか?」

自分の背中も中々表情豊かになったものだ。

「さみしそうよ。そう言えば、学校は?」

この時間はまだ午後の授業中のはずだ、と思ったが1年前の自分を思い出した。

「ああ、そうか。もう自由登校か」

センター試験が終わると、それぞれの受験が本格的になるため、学校側は自由登校としている。

自由登校。登校するもしないも自由という意味であり、だから登校してもいいのだが...

「黒子君は?」

リコの疑問に「学校です」とが答える。

はいかないの?」

「図書室の椅子はみんな座りたいでしょうし」

の言葉を聞いてリコは納得した。

「そっかー。さみしいのねー」

にこにこと笑って先ほど指摘した言葉を繰り返す。

「何ですか?」

「ズバリ!黒子君に会えていないから寂しいんでしょ」

からかうように言う。

「まあ、そうですけど...」

素直に認めたにリコはニコリと微笑み、「いいじゃない。図書室の椅子取っちゃっても。それを含めての競争よ」と発破をかける。

それに頷かないに苦笑しながらリコは「しかし、は可愛くなったわね」という。

不意にリコの携帯が鳴った。

「あ、」と呟く彼女に「日向さんですか?」とがからかうように言う。

「さあ?誰かしらねー」

適当にはぐらかして彼女は去って行った。


「わたしも火神くんみたいにバカだったらよかったのに」

本心で本人に向かって行った言葉だった。

「褒め言葉に聞こえねぇよ」

どうやら、褒めたつもりというのは理解してもらえたらしく、半眼になって返された。

全国優勝を経験している選手で、その原動力といっても過言ではない黒子だが、彼には推薦の話は来ず、火神には来た。

推薦がなければ進学はできなかったであろう火神はほっと胸をなでおろした。

とはいえ、進学できなきゃ、アメリカに渡ってプロバスケットボール選手を目指していたかもしれないので、どちらでもよかったのかもしれない。



だって学校行けばいいじゃない」

呆れたように言うのは桃井で、彼女は短大に進むとか。

「青峰くんはもういいの?」

高校の進学先は青峰が心配で彼と同じところにしたという経緯がある桃井にが問うと、「もう大丈夫でしょ」と苦笑して返した彼女はどこかさみしそうだった。

「中学の時は、さ」

が呟く。

「ん?」

「進路とかそういうの、みんながバラバラになるのって仕方ないというか、必然のような感じがあったんだけどね」

「今は寂しいんだ?も可愛くなったねー」

からかうようにいう桃井は楽しそうだった。

「この間、カントクにも言われた」

「相田さん?元気だった?」

「...たぶん、来月も会うと思う」

(日向さん辺りに拝み倒されるんだろうな...)

先日会ったリコの手元にあったあれやこれやから連想できるものを考えると、きっと高い確率でそうなる。

「お前に受験がなくてよかったよ」

と、一応の受験生に対していう言葉ではないそれを向けられそうな気がしている。

「さて、と」

が腕時計を確認して立ち上がった。

「さすがに今日は約束してんだ?」

桃井がからかうように言う。

「ううん。突撃して、これ渡して帰るだけ」

そう言って軽く掲げたのはポップな色調の紙バッグだった。

「そうなの?」

少しくらいいいじゃない、と桃井が言うが「邪魔、出来ないでしょ」とは首を横に振って店を後にした。

「不器用ねぇ」

桃井は苦笑してその背中を見送った。


学校からほど近くの学習塾前のガードレールに軽く腰掛けてはそこから出てくる人々を眺めた。

大変なことであるのだろうが、どこか連帯感があるそこには自分は近づけない。

「やっぱ、青峰くんのあほなところとか、火神くんのばかなところがほしかったかも...黄瀬くんでも可」

さんは、そのままでいいですよ」

「わあ!」

ぼうっとしていたので、流石に黒子の出現には驚いた。

しかも、発言を聞かれていたのが一番痛い。

「え、と...」

「どうしたんですか、こんな時間に」

日が暮れてずいぶん時間がたっている。それでなくとも冬は暗くなるのが早いし、夜は寒い。

「え、とね」

「はい。あ、家まで送りますから、歩きながら話しましょう」

黒子にそう言われて「いいよ。一人で帰れる」とが手を振る。

黒子の時間を取るのは最低限にしたい。

だが、「送らせてください」と黒子が言う。

「最近、全然会えていなかったので。会えたならできるだけ、一緒にいたいです」

そう言われて知らずの口元が綻ぶ。

「うん」

差し出された黒子の手を取って彼女は頷く。

「それで、今日はどうしたんですか?」

「テツヤくん」

「はい」

「誕生日、忘れてる?」

「覚えてます」

悪戯っぽく彼が言う。

「でも、自分から催促するのってかっこ悪いかなって」

「催促してよ。そしたら、心置きなく会いに行けたのに」

「しなくても来てくれましたよ」

黒子の指摘にはぐっと詰まる。

そして、短く息を吐いて「これ」と黒子に渡す。

「誕生日、おめでとう」

「ありがとうございます。開けてもいいですか?」

コクリと頷いたを確認して黒子は袋の中身を取り出した。

「あ、カップケーキですか?」

「うん。おやつにどうぞ」

「ありがとうございます。早速、今日食べますね。さんの手作りケーキ、久しぶりですね」

「そうだね」

「あ、さん。お願いがあるんですけど」

「うん、何?」

「僕の受験の日。朝、電話ください」

「朝?」

「僕、寝坊しそうな気がして...」

「...ああ、試合の日に寝坊して集合にギリギリだったときがあったもんね」

苦笑してが言うと「それもあるんですけど」と黒子が気恥ずかしそうに相槌を打つ。

「ほかに?」

さんに起こしてもらったら、受験失敗できないので」

「失敗するの?意外と弱気ね」

「お守りみたいなものです。それと、勉強に強気になったことは今までありません」

「では、お守りとして、モーニングコールを差し上げましょう」

「お願いします。心強いです」

吐く息が白いのに、ちっとも寒くない。

ぽかぽかする心を弾ませて、は久々の黒子との時間を楽しんだ。









桜風
14.1.31


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