| 筆記用具持ったし、受験票も家を出るときに確認したし... 指を折りながら確認して歩く。 受験会場最寄りの駅に降りてからずっとそれをやっている。 何せ、失敗できない。 勉強はの母親に見てもらったりして何とか頑張った。 彼女は秀才タイプだった。ちなみに、とその父親は天才タイプだから勉強に苦労する人間の気持ちがわからないらしい。 その気持ちがわからないから、はやきもきしていたらしい。 思い出して何とかわいらしい彼女だろう、と黄瀬は締まりのない顔をした。 「黄瀬くん」 「うわっ!」 不意に声をかけられて黄瀬は思わず声を上げた。 今思い出していたが立っているのだ。 「ちゃん!」 彼女の元に駆け寄る。 「どうしたんスか?」 鼻の頭が赤くなっている彼女の顔を見て黄瀬は目を丸くする。 長い間外にいたのかもしれない。 「今日、黄瀬くん受験だから」 彼女と受験校が違うため、日程もずれている。 「うん。え、と...」 「お弁当、作ってきたよ。あ、もう持ってきちゃった?」 曰く、朝起きて思い立ったとか。 「まだ!コンビニで買おうと思ってたから」 昼食を買おうと思っていたのに、それを忘れてここまでやってきてしまった。 ここまでの道のりには何軒もコンビニがあったというのに... まあ、結果オーライというやつだ。 「黄瀬くん、試験は何時に終わる予定?」 弁当を渡しながらが問うと 「4時の予定っスね。今日1日かかるみたいっス」 スケジュールを思い出しながら黄瀬が答える。 「そのあとは?バイト?」 「さすがに受験当日にそんなひどいこと言わないっスよ」 本当はそんな提案されたが、断固拒否した。 受験が終わった日くらい、ゆっくりしたい。 あわよくば、の家に足を運んで甘えてしまいたいとか思っていたのだ。 「じゃあ、終わるまで待ってる」 「え?!」 こんな寒空の下?! そう思ったが、流石にそれは否定された。 「この先、ちょっと行ったらファミレスがあったからそこに居ようかなって。黄瀬くんなら看板見えない?」 背が高いから、とが言う。 「ああ、あれっスね」 確かに見えた。全国チェーンを展開している、ドリアがおいしいと噂のファミレスだ。 「うん。居づらかったら、ウロウロして時間つぶすし。試験が終わったら連絡して、またここに来るから」 何と、試験終了後にご褒美があるという素敵なシチュエーションだ。 「わかったっス」 「受験票は?」 「持った」 「筆記用具は?」 「大丈夫っス」 母親みたいに確認してくるに黄瀬は苦笑を漏らす。 「あ、忘れてた」 そう言って彼女はショルダーバッグから封筒を取り出した。 「お母さんから」 そう言って黄瀬に渡す。 「お義母さんっスか?」 首を傾げながら黄瀬はそれを受け取り、「わかったっス」とコートのポケットにそれをしまった。 「じゃあ、頑張ってね」 「あ。忘れ物」 「え!」 黄瀬の零した言葉には思わず声を上げた。そして、次に黄瀬がした行動に言葉を失う。 「ハグ」 きゅっと抱きしめただけのハグだが、黄瀬は元気が出た。何だか完璧に試験をクリアできる気がした。 「ちょ!」 「じゃあ、続きは試験の後っスねー」 上機嫌で黄瀬は試験会場に向かう。 周囲からの痛い視線に耐えられず、はその場から駆けて離れていく。 試験会場でバッグを置いて、コートのポケットから先程から受け取った封筒を取り出した。 椅子に座って落ち着いてその中身を取り出す。 (激励っスかねー) そう思いながら開けてみると 『落ちたらさんとの交際は認めません。旦那とタッグを組んで全力で阻止します』 と落ちた場合の死刑宣告が書かれている。 味方だと思っていた彼女からのその言葉に黄瀬は背筋に冷たいものを感じた。 (絶対、勝つっス!) 元々集中力は高い方で、しかも目標が定まっている。 勝てば天国、負ければ地獄。 わかりやすい状況は嫌いではない。 黄瀬からの連絡を受けて、は朝、黄瀬を待ち伏せたそこへ向かった。 着くと、黄瀬はすでにそこに立っており、の姿を認めると満面の笑みで手を振る。 「お疲れ様」 が声をかけると「ちゃんとあったかいところに居たっスか?」との頬に触れる。 冷たくない。 黄瀬は、一人でよし、と頷いての手を取る。 「お弁当、美味しかったっスよ」 「え、と。黄瀬くん。どこ行くの?」 手を引いてずんずん歩いていく黄瀬に、が首を傾げて問うと 「んー。今朝の続きができるところ?」 と上機嫌な言葉が返ってきた。 「続き...」 「取り敢えず、ちゃんち行ってもいいっスか?」 「いいよ。そういえば、お母さんからの手紙って何だったの?」 「んー。凄く強烈な激励っスかね」 あんな宣言されては頑張れないはずがない。 「どんな?」 「秘密っス」 ぱちんとウィンクをして黄瀬が笑う。 「そか」と少しさみしげに相槌を打ったは「試験、できた?」 と気分を変えたように少し明るい声音で問う。 「できたっスよ」 勉強に関して、これまでに聞いたどの返事よりも自信満々では驚いた。 「すごいね、黄瀬くん。本番に強いんだ」 「本番に強いっていうか、今回は特に落とせないっスからね」 不思議そうに見上げるに黄瀬は「待たせるわけにはいかないっスから」と笑った。 |
桜風
13.2.22
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