花の宴





 日が傾き、窓の外を眺めた。

そろそろ出ていかなくてはならない。

「さて」

重箱を風呂敷に包んでは呟いた。

「あ、オレが持つっスよ」

そう言って黄瀬が手を伸ばして彼女が持とうとしたそれを手にする。

「重いでしょ」

「だから、オレが持つんスよ」

そう言ってウィンクを一つ寄越して玄関に向かう。


大学3年になる春のこの日、皆で花見をする約束をした。

全員が成人して初めての春。

言い出しっぺは青峰で、だが誰も反対する者はなく日程調整が多少難航したものの、こうして全員が集まれる日が何とかできた。

問題は、名目が「花見」であるため、桜のご機嫌が如何なものかということになるが、それは目的としては二の次であるため、「蕾でもいいんじゃね?」という、またしても青峰の言葉で皆納得した。

花見をするのに、成人である必要はないが、要は理由をつけて皆で杯を交わしたかっただけなのだろう。

とは毎年花見をしている黄瀬は今年はこの同窓会で済ませるべきか、いまだに悩んでいた。


中学の近くの公園で待ち合わせとなっていた。

待ち合わせ場所に着くと、そこには青峰の姿があった。

「青峰っち、どんだけ楽しみだったんスか」

苦笑して黄瀬がつぶやき、「だねー」とも笑う。

「よー」

「久しぶり―!」

青峰の隣には桃井がいた。

「久しぶり」とが手を振る。

と桃井はさほど“久しぶり”でもないが、久しぶりな気もする。

「そういや、この間赤司が合同練習がどうとか言ってたぜ」

黄瀬に向かって青峰がいい、「ホントっスか?」と黄瀬は少し嬉しそうに弾んだ声を返した。

「桜、あんまり咲いてないね」

公園内の木々を見上げながらがつぶやく。

「あー、まあ。ここ最近ちょっと寒かったからなー」

今もちょっと寒かったりする。

「お前が時間前とは...」

振り返ると緑間がやってきた。時間ピッタリに。

「緑間っちは相変わらずっスね」

黄瀬が言うと「当然だ」と彼は眼鏡のブリッジを上げた。

間もなく黒子が来て、少し遅れて赤司。そして、ずいぶん遅れて紫原がやってきた。

「おせーよ」と青峰が言うと「ごめんごめん」と紫原は適当に謝る。

「相変わらずだね」

こっそり桃井がの耳元で言い、は頷いてくすくす笑う。


公園の中でも綻んだ花の少し多い木の下に陣地を取って、それぞれが持ってきた飲み物やつまみ、菓子などを広げる。

「では、乾杯」

促されたわけでもないが、赤司が乾杯の音頭を取った。

それに関して誰も文句を言うでもなく、「乾杯」と口々に言った。

今回の花見での弁当が楽しみにされているのは、直接彼女に言った者もいるが、暗黙の了解ということで、一応大量に作ったのだが、あっという間に重箱が空になっていく。

あの赤司でさえ、自分の皿にひとまずキープするという執念を見せ、「変わったなぁ」と皆が心の中で感心した。

このメンバーが揃うと何だかんだでバスケをすることになるのが常だが、流石にリングがない中、それはできなかった。

さらに、普段さほど酒を口にしていなかったらしく、早くアルコールがまわっている。

それに比べ、黄瀬はの両親に付き合って杯を傾けているので、意外と強かった。

「きーちゃん、強いね」

ちびちびと舐めるようにアルコールを口にしていた桃井がつぶやく。

「あー、まあ。お義父さんと真剣勝負しまくってるっスからね」

苦笑して黄瀬が言うと

「おじさんも相変わらずなのね」

と桃井が笑う。

「お義母さんはそれを焚き付けるし。もうホント大変なんスよ」

あの家で飲むと大抵潰される。

そのまま泊めてはもらえるのだが、朝起きた時にドヤ顔のの父親と顔を合わせなくてはならない。

いつか負かしてやる、という気持ちがなくはないのだが、中々の強敵でそれも簡単にはいきそうにない。

は強いの?」

「そうでもないかなー?」

首を傾げてそっとの様子を見る。

皆と楽しげに話をしている彼女の表情に目を細め、

(でも、今度2人きりの花見をしようっと)

とちょっとだけ大人げないことも思う。

せっかくの花見なのに、を取られてしまっているのだ。

「でも、きーちゃんも大人になったね」

「何がっスか?」

桃井の言葉に黄瀬は首を傾げた。

取られてるじゃない?ちょっと前だったら慌てて蹴散らしてなかった?」

「残念ながら、今もそれをしたいんスけどね。ちゃんが楽しそうだし」

と黄瀬は肩を竦める。

「あー、何だ。相変わらずか」

からかうような、どこか安心したような声音で桃井が呟く。

「桃っちの方は?」

「なーんにも」

あっけらかんと彼女が返す。

「そっスか」

「そっスよ」

そう言って桃井が立ち上がり、の隣にすとんと腰を下ろして話し始める。

(何か不思議っスねー...)

一度は袂を別った仲間たちなのに、まだ仲間だ。

ふと振り返ったと目が合い、笑顔の彼女を見れば自然と笑顔になる。

「あ、酔ってるなぁ」

満面の笑みでひらひらと手を振るその仕草は、の母親が酔った時のそれに似ている気がする。

帰りは彼女を負ぶって、持ってきた重箱も持って...

「大変そうっスねー」

零れた言葉とは裏腹に、それは優しい声音だった。









桜風
14.4.1


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