デート中での再会





 黄瀬は隣を歩くを見下ろしてにへらっと笑った。

テスト期間中の恒例のバイトも入っておらず、放課後が丸々オフなのだ。

学校が終わってからであるが、それでも後のスケジュールを気にせずにと一緒に居られる。

ただし、彼女は黄瀬が神奈川に戻るための電車の時間を気にするので、やはり終わりの時間を気にしてしまうことになるのだが、気分的な余裕が全然違う。


「あ、」と黄瀬が声をこぼした。

「なに?」

頭の上から聞こえた黄瀬の呟きには顔を上げる。

「日向さんだ」

「え、どこに?」

「カントク..相田さんも一緒みたいっスよ?」

「えー!どこどこ!!」

よっこいしょとを抱っこすればすぐに2人を見つけられると思うが、それをやったら黄瀬は確実に怒られる。

怒られるやつなのだ。

だから、その代りにの肩をぐっと引き寄せた。

「ほら。あ...」

見えない。

の顔の高さ合わせてみると、人の背中しか見えない。

方角は示せるが、自分の目にした光景はこれじゃない。

「あ、」とが声を漏らした。

人の波の合間から日向の後頭部が見えた。

は黄瀬からするりと離れて目にしたその後頭部に向かって走り出した。

「えー、ちゃーん」

情けない声を漏らして黄瀬もそれを追いかける。


「カントク!」

弾んだ声に振り返ると可愛い後輩が駆けてきている。

!」

「おー、

「日向さん、お久しぶりです」

「って言ってもまだ2か月だろ」

苦笑して日向が返す。

卒業してまだ2か月。

でも、その2か月はあっという間で、確かに高校生だった自分ははるか昔の事のようだと思った。

「てか、は一人なの?」

「あ...」

リコに問われては気づく。黄瀬がいない。

「もう!ちゃん酷いっスよ!!」

ぶー、と膨れながら追い付いてきた黄瀬が言う。

「えーと、ごめん」

「なぁんだ、黄瀬くんも一緒か」

「どーもっス。デートっスか?」

からかいを十分に含んだ黄瀬の言葉にリコは「え?!」と慌てたように声を漏らし、「だあほ」と日向が呆れたようにため息交じりに言う。

「デートなんですか?」

が首を傾げて問う。これは、からかいの色は全くない。

「だから、違うって。このあと木吉と合流するんだよ」

「木吉さん?お元気ですかね?」

も来る?あ、でも。私たちの方がお邪魔かしら?」

リコがからかうように言う。

は黄瀬を見上げた。

「ご飯っスか?」

リコに黄瀬が聞くと「うん。ま、ファミレスとかファストフードになると思うけど」と頷く。

「オレは大丈夫っスよ。って、オレ、誘ってもらってないんスけど」

覗うように黄瀬がリコを見ると

「まあ、だけの方がいいんだけど。いいわよ、おまけがあっても」

「オレ、おまけなんスかー」

情けない声を作って黄瀬が言う。

相手は本気で「おまけ」と言っていないのは十分わかっているので、ただ、乗ってみただけだ。

「たりめーだろ、オマケだオマケ」

冗談ではなく本気で言われて、ちょっとだけ傷ついた。


待ち合わせ場所だという駅の噴水前にたどり着き、身長190オーバーの男子を探したが、まだ来ていないようだった。

「まあ、時間前だしな」

日向がため息を吐く。

「そうねー、鉄平の事だからちょっと遅れるかも?」

リコが言うと

「そしたら、あいつのおごりだ」

と日向は言い放った。

「ところで、。部長業はどう?」

「男バスの部長は守銭奴だって言われ始めてます」

むすっとしてが言う。

「何スかそれ!」

黄瀬が憤った。

「や、お前やりすぎたんだろうが」

呆れたように日向が言う。何か想像つく、と付け足した。

そのとおりだ。

先日、部長会でちょっと本気を出してしまった。

だって、バスケ部が予算取りすぎだって言われたのだ。

確かに、他部に比べれば配当は多めだが、その分の実績がある。つまり、心外だった。

だから、本気を出して言い負かしてしまった。

これは拙かった。

後輩にまで説教され、は小さくなった。

「まあまあ」と同学年の仲間たちはかばってくれたが、何故か彼らも後輩たちに説教されてしまった。

人間関係はのちょうどいいところはいまだに模索中だ。

「まあ、誠凛は若いっスからね」

「なに?どういうこと」

リコが黄瀬の言葉に問いを返す。

「や、OBとかいたらそっちからも寄付とかあるじゃないっスか。でも、やっと今年OBができた学校にそれは望めないだろうなって」

黄瀬はやたらとOBがいる学校にしか行ったことがない。

というか、誠凛のような新設校の方が今の時代少ない。

経営者が変わって学校の名前が変更になったとか、近くの男子校と女子高が併合して共学になったとかそういう動きはそれなりに聞くことはあるが、まっさらな新しい学校となると中々ない。

「まー、そうだな」

今、自分たちに求められても困るという気持ちでいっぱいだ。

「あー、そういや。またあの大会、優勝だってな」

新聞で見た。

この国ではさほどバスケは騒がれるスポーツではない。

それでも、やはり世界大会で二連覇という話になればそれなりににぎわう。

「どうも」

黄瀬が返す。

「や、の方。またマネージャーで行ったんだろ?」

「えー、オレじゃないんスかー」

黄瀬が膨れる。

「まあ、2年連続でタダで海外旅行に行く羽目に陥るとは思いませんでした」

が返す。黄瀬の抗議は黙殺だ。

ピロリンと誰かの携帯が鳴る。

リコが自分のそれを見ると「鉄平、遅れるって」と日向を見た。

「んじゃ、あいつの意見なしで店に入るか」

そう言って周囲を見渡した。

目に入ったのはハンバーガーショップで、「あそこにするか」と行って歩き出す。

「そうね」とリコもうなずいて日向と共にそちらに向かった。

「「あ」」

と黄瀬の声が重なる。

そのハンバーガーショップは黒子御用達で、もしかしたら彼もそこに居るかもしれない。

2人は顔を見合わせて笑う。

「おい、どうした。嫌か?」

着いてこない2人に気づいた日向が振り返る。

「いいえ」

「大丈夫っスよ」

2人は手を繋いで歩き出す。

そして、その数分後にはと黄瀬が思い浮かべた状況になったのだった。









桜風
14.5.6


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