黄瀬家の父と娘






 学校が昼までで、特に部活に入っていない涼葉は急いで帰り支度を始める。

そそくさと帰り支度をしている涼葉に「カレシ?」と冷やかしの声をかける友人に彼女は「ちがうよ」と言って教室をダッシュで出て行った。


学校から少し離れたカフェを覗くと窓際の席に約束の人が座って携帯をいじっていた。

コンコンと窓ガラスをノックすると彼は顔を上げて「どうする?」と聞いてくる。

ここで食事を済ませるかという意味だろうと思った涼葉は首を横に振った。

彼は頷いて席を立つ。


「お待たせ、パパ」と言った娘に彼は「荷物持とうか?」と手を差し出す。

「大丈夫」

ニコリとほほ笑んで彼女は首を横に振った。

「それで?今日は何を買うの?」

「キャミソール」

「若い女の子が露出の高い服を着るのは、オレは感心しないなぁ」

と父がぼやく。

「何言ってるのよ。みんな着てるじゃない」

「桃っちはそういうのあんまり着なかったなー」

「何でママの話じゃないの?」

真顔の涼葉に問われて「だって、ちゃんは元々肌の露出の高い服は好きじゃなかったし」と父が返す。

「大丈夫。ちゃんと重ね着するから」

そう言いながら涼葉は父の腕を引いて歩き始めた。

「まあ、いいけどね」

彼はため息交じりにそう言って足を進める。


涼葉が服を買うときは、友人と共に行くか、父と共に行く。

母は、そういうのが苦手で、すぐにあきた顔をするのだ。

その点、父は服を見立てるのが得意で、いつまでも嫌な顔をせずに付き合ってくれる。

父と買い物に行くというと周囲は「えー」と気持ち悪そうな顔をするが、それがこのビジュアルだと知ると「そうなんだー」と納得する。

不公平な世の中だ。

「ご飯、先にしない?」

頭上から父の声が落ちてきた。

「そうだねー。ちょっとお腹空いたし」

「涼ちゃん、何が食べたい?」

「んーと。そうだなー」

「ラーメンとかどう?」

女子高生にラーメンとか!と思う人も多いだろうが「いいね!」と涼葉は頷く。

味覚や嗜好も2人は似ているのだ。


口コミで美味いと評判のラーメン店に足を運ぶと少しだけ人が並んでいた。

「大丈夫?」

と聞く父に

「大丈夫」

と涼葉は答える。

「パパって、ママと一緒に出掛けた時もラーメンとかだったの?」

父と娘なら別にかまわないが、デートとしてはどうだろう。

自分が彼氏にラーメンに連れて行かれたら、と思いながら問うと

ちゃんは外食の時に特にこだわりがなかったからね」

と彼は苦笑しながら答えた。

「オレが格好付けて少し頑張っていいお店に連れて行ってもそんなに興味持っていないみたいだから、大抵空振りだったよ。だから、ラーメンの時もあったなー。もちろん「ありがとう」って言ってくれてたけど、たまに首をひねってたしね。しかも、たぶんこれは無意識だよ」

「カレシ甲斐のないカノジョだね」

「そんなことないよ。可愛いし、可愛かったり、可愛いから」

「はいはい」

「実際、オレも正直に言えばちゃんのご飯の方が美味しいから、外食に気合入れるのも、と思わなくもなかったし」

肩を竦めていう父に

「それ、わかる」

と涼葉は笑う。

友人に付き合って、バイキングとかファストフードとか行くこともあるが、結局家に帰って「ママかお兄ちゃんが作ったなんかないかな」と冷蔵庫を漁ってしまう。

倍食べるから太るという理屈になるが、ここら辺は体質なのか、さほど体重に還元されないので助かっている。


昼食を済ませて、本日の本題に入る。

女の子向けの店舗でも躊躇わずに入店できる父の偉大さを感じながら、涼葉はあれこれ試着してみた。

そのたびに、父が色々とアドバイスをしてくれる。

色やデザイン、着回しなど。

彼は涼葉の私服も大抵覚えていた。詳細に覚えているわけではないが、印象で覚えているので「こっちの服なら、あの色のボトムとあうと思うよ」などの具体的なアドバイスがある。

「あれ、黄瀬君?」

不意に声をかけられて振り返った。

「わー久しぶり、元気だった?」

誰だろう...元カノとか?

何だか胃にモヤモヤしたものを感じる。

両親の友人たちの話に寄れば、父は非常に女の子に人気があったらしい。

それ以上の情報は特にないが、母と付き合う前には彼女という存在があったのではないかと思う。

だとして、目の前の人がそれだったらなんか、ヤダ。

「わー、久しぶりっスね!まだメイクさんっスか?」

(メイクさん?)

首を傾げる涼葉に気づいた父は

「オレ、昔モデルのバイトしてたって言ってたでしょ?その時にお世話になったメイクさん。娘の涼葉っス」

涼葉に目の前の女性を紹介し、その女性に涼葉を紹介した。

「えー!おっきいね。今いくつ?」

「今年で17です」

涼葉が答える。

「わー、高校生のお父さんなんだ?あー、もう私も年を取るわけだ。そうだ、この子のお母さんって...」

覗うように問う彼女に「ちゃんっスよ」と当たり前のように黄瀬が答えた。

「わー、ホントに叶えちゃったんだ。ついでに、パイロットさん?」

「国際線に乗ってるっス」

頷きながら彼が答える。

「わー、腹立つなー」

笑ながら彼女がいい「酷っ!」と黄瀬が抗議の声を上げる。

少しの時間だったが、父とメイクさんは立ち話をして「またスタジオに遊びにきなよー」と言って彼女は去って行った。

「ごめんね、時間取って」

父の言葉に「ううん」と涼葉は首を横に振る。

「パパ、ホントにモデルさんだったんだね」

しみじみというと

「え、だって。写真集だって見たでしょ」

と彼が驚きの声を上げる。

「だって、何か今のパパとリンクしないんだもん。みんなからいろいろ聞いてるけど」

「ちょっとまって、色々って何?」

慌てて聞く父がおかしくて「ないしょ!」と涼葉は笑う。

「えー、ちょっと。なんか、青峰っち辺りがないことないこと言ってそうなんだけど!」

父の言葉に涼葉は笑い、「ないしょ」と繰り返した。

「何なんスかー」と父が拗ねる。

彼は「○○っス」という姿は見ているが、自分や兄に対して使われることはない。

だから、なんだか新鮮で彼女は笑った。

「ね、パパ。パフェ食べにいこ」

「それは我慢した方がいいよ。今日、ちゃん、お菓子のレシピ見てたし」

「じゃあ、今は我慢だね」

そう言った涼葉は父に持ってもらっている荷物の量と今の時間を確認して

「帰ろうか」

と提案した。

「もういいの?」

「うん、もういいよ。また時間のある時に付き合ってね」

涼葉の言葉に父は頷く。


「ただいまー」

家に帰るといい香りがする。

「おかえり。このタイミングで帰ってくるって凄いね」

ちょうど玄関にいた兄が苦笑してそう言った。

「なに、帰ってきたの?」

リビングから母が顔を覗かせてきて「おかえり」という。

「どういう嗅覚してるんだろ」

彼女の言葉に「愛っスよ」と父が言う。

兄はやはり苦笑し、母は半眼になる。

「さ、手洗いうがいしておいで。ちょうどパウンドケーキが焼けたし、おやつにしよ」

母の言葉に父と共に「はーい」と返事をして靴を脱いだ。









桜風
14.4.20


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