いい夫婦の日






 あと数日もすれば12月。

つまり、もう冬と言っても過言ではないこの季節。

しかし、

「寒すぎっスよ〜」

季節を先取りしすぎた冬将軍のおかげで、都内は真冬並みの冷え込みを見せている。

もこもこのダウンコートを着てカタカタと噛み合わない歯を鳴らしながら黄瀬は自宅を目指した。

新居を構えてまだ1年経っていない。

「ただいま」とドアを開けるとそこには最愛の人がいて「おかえり」と笑顔で返してくれる。

これは、間違いない。

とても嬉しい瞬間なので、家に帰るのがいつも楽しみなのだ。


早く帰りたいと思う一心で歩いていたが、ふと耳に入った話題に足を止める。

大型電器店のディスプレイにあるこれまた大型薄型テレビ。

黄瀬が足を止めたのは、このテレビ番組で話題に上った“いい夫婦”という単語が耳に入ったからだった。

この日がゴロでいい夫婦と読めることから、何年も前からそういう日と呼ばれているらしい。

(いい夫婦..ねぇ)

妻であるがいい嫁なのは間違いない。

デレっと整った顔を崩しながら黄瀬は思った。

では、自分はどうだろう?

仕事とはいえ、家を空けることが多い。

寂しいという単語は彼女からあまり聞かない。

時々その単語を彼女もポロっとこぼしてくれる。

その時には嬉しくて彼女の顔を見ると

「涼太くん、ステイ」

と掌を見せながら言われる。

犬みたいに言われるなー、と思うが取り敢えず落ち着くことにしている。


それはさておき。

いい夫とはなんだろう。

自分とがお似合いなのは周知の事実で世界の真理だ。

(いい旦那さんって何なんスかね)

そう思ってふと浮かんだのが、の父親だった。

家事を完ぺきにこなして、妻であるの母親はいつも楽しそうに過ごしている。

「家事?」

少しだけ意欲は湧いたがすぐに打ち消す。

の母親が夫に家事を任せているのは、自分が壊滅的に苦手だからだ。

逆に、は家事は完璧だし、その他諸々スペックが高い。

うーん、と悩みながら電器店の前から離れる。

寒いという感覚を忘れて、いい夫として彼女にできる何かを考えながら歩いているとふと視界に入ったのは花屋で思わず足を止めた。

可愛い花がいくつも並んでいる。

その花もに似合いそうで、想像しては「かわいいっスね」と心の中で呟いていた。

「何かお探しですか?」

そう声をかけてられて「え、あ...」と黄瀬は慌てた。

特に何が欲しいというわけではなく、かわいらしい花を見ていたら妻を思い出したんですとか言っていいのだろうか...

「えっと、花をあげたいなって」

今思ったことを口にした。

「奥様、ですか?」

店員は目ざとく黄瀬の結婚指輪を見つけて問う。

の事を“奥様”と言われて黄瀬はドギマギしてしまった。何か、照れる。

「あ、うん。ハイ、そうです。今日、いい夫婦の日だって聞いたので」

黄瀬が答えると店員は笑顔でうなずく。

「奥様、きっと喜ばれますよ。奥様のイメージで花束をお作りすることができますが、どうされますか?」

ちゃんのイメージ?)

問われて黄瀬は非常に困った。

というのも、

(世界で一番かわいい?世界で一番きれい?世界で一番..というかもう、宇宙一...!!)

というイメージしか浮かばない。

「イメージが難しいようでしたら...そうですね。たとえば、奥様の好きな色とか。奥様の好きな花を入れてみるのとか」

真剣に悩んでいる黄瀬に店員は助け舟を出してみた。

「はっきりした色とかじゃなくて、ふわっとしたような..パステルカラーが似合うかも...好きな花は、良くわかんないです。花自体は結構好きみたいで」

「わかりました。ご予算は如何なさいますか?」

そう問われてまた悩む。

あまり高価だと彼女も困るだろうし、でもそれなりのものがほしいし。

それを店員に告げると、よく注文を受ける金額を教えてもらえ、それでお願いすることにした。

ひょいひょいと店内の花を選んでいく店員に迷いはなく、「こんな感じでどうですか?」と店員が選んだ花を見せてもらった。

「あ、はい」

(似合うと思う)

黄瀬が頷くのを見て店員は花束を作り始めた。

手際が良く、選んだリボンもかわいらしい。

「できましたよ」

「凄いっスね」

感心していうと店員は「ありがとうございます」と笑顔を浮かべる。

会計を済ませて黄瀬は冬将軍を全く気にせずに帰宅の道を急ぐ。


「ただいま」

自宅のドアを開けると「おかえりー」と笑顔の彼女が顔を覗かせてそう返す。

靴を脱ぐのももどかしいと思いながらもきちんと脱いでキッチンに向かった。

その数秒後、黄瀬の持って帰った花束に驚きつつも喜んだの笑顔があった。








桜風
14.11.23


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