幸せへの色 3





 スーツケースを選び終わり、ひとまず休憩という話になった。


結局もスーツケースを購入した。家で話をした際に母が言ったのだ。

「え、あのスーツケースまだ現役で使ってるからたぶん今家にないよ」

言われてみれば、自分が見たのは父が家にいるときで、家探ししたが見つからなかった。

つまり、現在海外赴任をしている父親が使っているということなのだ。

「あたしの貸してもいいけど、出張が入る可能性が否定できないしね。しかも海外」

母は仕事の都合でたまに、ごくまれに海外に足を伸ばすことがある。

どうやっているのかわからないが、大抵自分都合で日程を決めているらしいが、それでもどうにもならない事情が出てくる可能性がある。

「ついでだし、さんも買ったら? ハネムーンに使うかもしれないでしょ?」

「……それは、その時に購入すればいいという話では……」

何秒か沈黙したのちにが返す。

自分の修学旅行は国内で三泊四日。海外ならもう少し日程が多いかもしれないが、この程度なら今持っている旅行バッグでもなんとかなる。何せ、1週間の合宿でもそれで間に合っているので何とかなるだろうと思っていたのだ。

だが、何とかならないときの代替品がないという。

レンタルだとなんだか気を使って疲れそうだし、仮に購入しても仕舞うスペースはある。

「買っちゃおうか」

「それがいいわ。そしたら大学生になったさんと海外旅行し放題」

「鞄がないと行けないの?」

「そういうわけじゃないけど、何か準備万端って感じじゃない?」

「……そうかも」

「どんなのがいいの? 明るい色が良いかもよ」

「長く使うなら落ち着いた色の方がよくない? というか、デザインよりも機能重視かな」

さんらしいわね」

苦笑を零して母がそう返した。



休憩先を考えていると駅前まで出てきてしまった。

目に入ったハンバーガーショップに桃井が目を輝かせる。確かにそこなら黒子に遭遇する可能性が高い。

「ねえ、大ちゃん」

「んだよ」

「ハンバーガー食べたくない?」

「あ? あー、まあ……」

「きーちゃん、。大丈夫?」

「いいっスよ」

「いないかもよ?」

「何の話? ま、行ってみようよ」

足早に、むしろ駆けるようにハンバーガーショップに向かって行く桃井の後を青峰が面倒くさそうにのんびり追いかけ、たちがその後をのんびり歩く。

「ね、ちゃん」

「ん?」

「さっき、何か落ち込んでた?」

さっきと言われて少し悩み、「あー、あはは」と誤魔化した。

「何かあった?」

「……あのね、黄瀬くん」

「うん」

「苦労してる?」

「ん?」

「さっき、青峰くんが「黄瀬も苦労すんだろうな」って」

「もー、青峰っち何言ってるんスか」

がその苦労の元凶だと言ったのだろう。何となくそう思った。

彼女は他人には容赦ないが、身内には心を砕く。しかし、これまでまともに他人と良好な人間関係を築こうとしたことがない、つまり人付き合いのイロハを知らないから何か言われると不安になることがあるようだ。

「苦労はしてないよ」

「本当?」

「うん、してない。あ、いや。してないってのはちょっと嘘かも」

「嘘なの?」

「うーんと、ね。最終的にちゃんが笑顔だったらオレはそこにたどり着くまでの道が山あり谷ありでもいいんス。だから、途中は苦労するかもしれないけど、でも、終わり良ければすべてよしってことで。苦労はするかもしれないけど、でも終わったときには苦労じゃないんス」

にっと笑って言う黄瀬には首を傾げて「つまり……」と黄瀬の話を要約しようとした。

「つまり、オレはちゃんの事が大好きってこと!」

満面の笑みで言われては面食らい、そして赤くなって俯いた。




翌日、スーツケースが自宅に届く。持って帰るには大きいため配達にしたのだ。

「あら、可愛い色合いじゃない」

「うん」

「落ち着いた色にするんじゃなかったの?」

「しようと思ったけど……」

黄瀬が「これが良いっス」と強く勧めた。デザインが可愛いし、色も明るくに似合うというのだ。

しどろもどろに母親に話をすると彼女は笑って「さすが涼太君。さんのことよく見てるじゃない」と膝を叩いた。




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空港のロビーを友人と歩いていると「涼葉さん」と声を掛けられて彼女は視線をめぐらせる。

手を振っている人物を見つけて「ママ」と声を上げた。

友人とそこで別れて母のお古のスーツケースを転がしながら彼女の元に向かう。

「どうしたの?」

「夜遅いし迎えに来たのよ」

「車? ママが運転してきたならパパはちょっと窮屈かな?」

「ううん、滉太くんが車を出してくれてる。ただ、駐車場がいっぱいで停められなかったからお迎えに上がったのはわたしだけ」

なるほど、と頷いていると「ちゃん!」と声がして二人はその声の主に視線を向けた。

駆けてきたのは涼葉の父での夫。

「涼太くん」

「どうしたの? 迎えに来てくれたんスか? え、涼ちゃんどこかに行ってたの?」

二人は顔を見合わせて「修学旅行」と声を揃えて返した。

「えー! どこに?」

「パパが操縦してた飛行機で帰ってきたんだよ」

「え……」

「機長さんはどんなお話をしてくれたの?」

が娘に話を振る。

「待って、オレ覚えてない。確かに修学旅行生が乗ってるって聞いたけど。え、涼ちゃんが乗っての?」

「めちゃくちゃかっこよかったよー」

「えー、その話詳しく」

娘と妻が盛り上がっているのを目の当たりにして黄瀬は慌てる。

しかし、「機長、ブリーフィングが先です」とCAに鋭く言われて「ハイ」と小さく返事をした。

「車は滉太くんが出してくれてるから一緒に帰ろう」

「うん。ちょっぱやで済ませてくるっス」

「機長!」

「はいー」

少しだけ情けない声を出して黄瀬は駆けだした。

「電話してね」

「了解っス!」

振り返って手を振り、背を向けて駆けていく。

「じゃ、取り敢えず滉太くんに連絡して車に荷物預けようか」

「うん。パパから連絡がある前にかっこいい機長さんのお話してあげる」

「あら、楽しみ」

デザインは少し古く、色も褪せているスーツケースを転がしながらひとまず二人は空港のロビーを後にした。









桜風
17.11.13


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