ショック療法





ひっく、ひっくとしゃっくりが体育館の中に響く。

「ごめんなさーい」

そう言ってが体育館から出て行った。

「あいつ、まだ止まってねぇんだ?」

練習の手を止めて青峰が言う。

「そうみたいだな。辛そうなのだよ...」



のしゃっくりは今朝、登校したときからだった。

「おはよう」と挨拶をしたら「ひっく」と返ってきた。

思わず足を止めた緑間が見下ろすと「ごめん、おはよう」と苦笑してまた「ひっく」としゃっくりを出す。

「大丈夫か?」

「まあ、しゃっくりで死ぬ人は居ないらしいから。ひっく」

その後、授業中ものしゃっくりがかすかに教室の中で聞こえていた。

彼女は授業中はハンカチを口に当てて音を漏らさないように気をつけていたらしい。


「しゃっくりってどうやったら治るんだっけか?」

昼休憩が終わって教室に戻ってものしゃっくりは止まっていなかった。

「驚かせるのが、最もポピュラーな治療法だと思うが...」

そもそも、しゃっくりの確たる治療法はないと聞いたこともある。

そう悩んでいると

「わっ!」

と青峰がを驚かせようと大きな声を上げた。

クラス中が彼に注目する。緑間も驚いた。

「...びっくりしたぁ」

「もっと驚けよ」

全く驚いた様子を見せないは、それでも驚いているらしく「びっくりした」とは言った。

が、「ひっく」としゃっくりが出る。

」と緑間が声をかけた。

「なに?」

「菜の花の色は何色だ?」

「...黄色?ひっく」

「...ダメか」

がっくりと肩を落とす緑間に「今の何?」とが問う。

「おまじないだ。昔、クラスの女子がやっていたのを思い出した」

「そっか。ありがとう」

礼を言った後もしゃっくりひとつ。


放課後になり、部活に出ても彼女のしゃっくりは収まらなかった。

しゃっくりをしながらもてきぱきと体育館の中を駆け回る彼女の姿に黄瀬は眉を寄せる。

「かわいそうっスよ」

「しゃっくりで死んだりしてー」

紫原が言う。

「紫原っち!何てことを言うんスか!!」

「だって、しゃっくりって息が辛いじゃん」

「...ちゃん!」

黄瀬が思わず彼女に駆け寄った。

「大丈夫っスか?息苦しくないっスか??」

心配そうに彼女の顔を覗きこむ。

「慣れちゃった。けど、うるさくしてごめんね」

心底申し訳なさそうにが言う。

「そんなこと、どうでもいいっス。あー、オレが代わってあげれたら...口移しとかどうっスかね」

黄瀬が至極まじめに言った。

「黄瀬君、煩悩が垂れ流しです」

黒子が言うと

「ぼ、煩悩って...!」

と指摘されて黄瀬は慌てる。

(けど、確かにそうっスね...)

そして、納得までしてしまった。

君」

「なに?」

背後から赤司に声を掛けられて振り返るとぎゅっと抱きしめられた。

体育館の中を沈黙が支配した。

誰もが呼吸すら忘れていたところで、「どうだ?」と赤司がを離す。

「...あ、治ったかも。ありがとう」

何事も無かったかのようには仕事に戻る。

「え、ええ?今の何スか?!」

「驚くかと思ったんだ」

赤司はさらっとそう言って練習に戻る。

「オレもしてみればよかった...!」

心底悔しそうに呟き、うな垂れる黄瀬に

「黄瀬君はいつもやってるのでさんは驚かないと思います。寧ろ、避けられてお終いじゃないんですか」

と黒子が冷ややかに突っ込んだ。

「黒子っち...冷たいっス......」

「何でだ?オレも驚かしたぞ?」

首を捻って青峰が呟き、

「赤司...」

緑間が悔しそうに呟いた。

ちん、良かったねー」

「ありがとう」

少し離れたところで紫原とが笑顔で会話をしていた。





********




「ひっく」

「どうしたの、。しゃっくり?大丈夫??」

「んー、わたし、結構しゃっくりが出やすい体質みたいです。ひっく」

苦しそうにしているにリコが眉を寄せる。

しゃっくりは、横隔膜の痙攣だとかなんだとかと聞いたことはあるが、治すということが難しいのも聞いたことがある。

何せ、しゃっくりが横隔膜の痙攣というのも確証がないらしいのだ。

「...わっ!」

リコがポンとの肩を叩きながら大きな声を出す。

「うおっ!」

離れたところで練習をしている部員たちが驚いた。

「びっくりしました。ひっく」

も驚いたらしいが、しゃっくりは止まらず。

「な、何だよ。カントク」

日向達が手を止めて集まってきた。

「ああ、ごめん。がしゃっくりで苦しそうだったから、何とか止められないかなって...」

「そうなんだ。大丈夫か?」

「ああ、大丈夫です。結構慣れっこですから。すみません、騒がしくして」

が謝ると

「や、騒がしくしたのはカントクだし」

と彼らは返す。

さん」

「ん?」

背後から声を掛けられて振り返るとぎゅっと抱きしめられた。

「黒子?!」

周囲は口々に黒子の名を呼ぶ。

「どうですか?」

腕を緩めて黒子が問う。

「ひっく...ダメだったみたい」

「...そうですか」

「あのね。あの時は『赤司くんだったから』だと思うよ?」

苦笑しては返し、「ありがとうね」と言って体育館を出た。

「ね、ねえ。黒子君」

「はい、何ですか?」

「今の、何?」

リコが代表して聞いた。

「中学のとき、さんのしゃっくりが朝から止まらなかったことがあったんです。そのとき、最終的に止めたのは赤司君の抱擁だったので。もしかしたら、ぎゅってしたら治るのかなって思って」

「そ、そう...」

曖昧に頷いてリコたち2年はくるりと黒子に背を向けた。

「ちょっと、赤司君ってキセキの世代のキャプテンだった子じゃない?」

、あいつ何なんだ?!」

「モテモテだなー、

「そういう問題か、木吉!...や、そういう問題かな??」

とりあえず、その状況を彼女が望んでいたとは思えない。

つまり、

、ホントに苦労してたのね...」

同情するしかなかった。









桜風
12.7.28


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