人参大作戦





全国大会への出場が決まった夏のある日。

体育館の隅に座り込んでいる赤司と緑間が額を寄せてなにやら真剣に話をしている。

練習メニューのことかな、と思ってはその様子を眺めた。

暫くしても2人は難しそうな顔をしたまま何やら話し合いを続けている。

ふと、赤司が顔を上げて体育館の中を見渡している。

(誰か探してるのかな?)

首を傾げて体育館の外に向かおうとすると

君!」

と呼ばれた。

赤司が探していたのは、のことだったようだ。

(何だろう...わたし、戦力にならないぞ?)

バスケ素人のはそんなことを思いながら彼らの元に足を向ける。

「なに?」

もしゃがんだ。

「緑間に聞いたのだが、君、中間テストは結構いい点をとっていたそうだな」

(ちょっと手加減間違えたからねー...)

そう思いながら「悪くはなかったと思う」と返す。

同じクラスの人が居るというのは何とも不便だ。

「手伝ってもらいたいのだよ」

緑間が覗うように言った。

「手伝う?何を??」

「これを見てくれ」

そう言って赤司がノートを示した。

「わー、凄い。初めて見る数字!」

が笑った。

「笑いごとではないのだよ...」

溜息混じりに緑間が言う。

ノートに書かれているのは部員達の中間テストの点数だった。

特に、スタメンに注目すると、緑間の言うように笑いごとではない点数が並んでいる。

「そういや、青峰くん授業中殆ど寝てるもんね」

「如実に結果が現れているのだよ」

「紫原くんも、中々...黄瀬くんもか」

「黄瀬は何とかなりそうな気もするが、この2人が問題なんだ」

「で?手伝いって?悪いけど、わたし、人に物を教えるの大の苦手だよ」

「そうなのか?」

緑間が驚いたように聞き返す。

「うん、全くダメ。赤点取ったら全国行けないの?」

が赤司に問う。

「大会自体にそういう規定は無いが、去年、酷かったからね。今年は、釘を刺されている」

つまり、場合によっては、部活どころじゃないって措置をとるということなのだろう。

「うーん、それは困る..んだよね?」

「困るな」

「困るね」

緑間と赤司が頷く。

「じゃあ、わたしは紫原くんを引き受けましょう」

「だが、教えるのは苦手なのだろう?」

「うん。けど、そもそもにやる気が無いんでしょ、あの2人」

の言葉に赤司と緑間が頷いた。

「なら、まずはやる気を出せば...集中力はあるんだし、頭自体は悪くないだろうから。要は、やりたくないからやらないっていう状況なんじゃないかな?」

赤司と緑間は顔を見合わせて何やらアイコンタクトを取り、「じゃあ、紫原は君に任せていいか?」と確認してきた。

「ただし、勉強を教えるのは、2人にお願いすることになると思うけど」

「ああ、それは最初からそのつもりではあったし、大丈夫なのだよ」

緑間が頷く。

「じゃあ、そういうことで」


「紫原くん」

「あ、ちん。どうしたの?」

「赤点取りそうなんだって?」

ズバッと言うと

「えー、それはわかんないけど。取るかもね」

と彼が言う。

「そんなやる気の無い紫原くんに、人参をぶら提げてみたいと思います」

が言う。

「人参?」

と彼は首を傾げた。

「うん。今度の期末テスト、赤点取らなかったら好きなお菓子作ってあげる。紫原くんだけのお菓子」

が言うと彼は目を輝かせた。

「何でもいいの?」

「うん。ただし、1種類だけね。そして、赤点を取ったら、次のテストまで紫原くんにお菓子を作ってあげません」

「やだ!」

つまり、『0』か『100』ということだ。

「何でそんなおーぼーなことを言うの?」

「赤司くんと緑間くんが困ってたからね」

ちん、贔屓だ!」

「贔屓じゃないよ。少なくとも、次の期末で赤点を取ったら学校側が何かしようとしてるらしいから。そうなると、紫原くんは全国に行けないかもしれないよ。ご当地の美味しいお菓子、ご飯食べられないかもよ。地域限定のまいう棒とか...」

「オレ、やるし」

紫原がやる気を出した。

「勉強自体は赤司くんと緑間くんが教えてくれるって」

「わかった!ちん、お菓子のこと絶対だよ。約束だからね!」

「うん、約束。ただし、赤点を取ったときの約束も絶対だからね」

の言葉に紫原はむっとしたようだが、それどころではない。地域限定のまいう棒。

「赤ちーん!」

紫原は赤司に向かって駆け出した。


「お見事です」

黒子に声を掛けられた。

「どんな人参をぶら提げたらいいか分かってると、こういうときに楽だね」

が苦笑した。

「青峰君は?」

黒子が問う。

「わたしの担当は、紫原くん。青峰くんはテストのたびに桃井が面倒を見てるらしいから。まあ、それでも赤点は取っちゃってるみたいだけど」

が苦く笑う。



赤司、緑間、そして桃井と言うバスケ部最強布陣で何とか青峰たちの赤点の回避は達成できた。

勿論、紫原の前にぶら提げた人参はきちんと彼の胃袋に納まった。








桜風
12.9.23


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