ハロウィン





「ねえねえ、ちん。オレンジのかぼちゃのオバケ知ってる?」

「ジャック・オー・ランタンね」

「良かった...!」

見事な催促だと思った。

ちゃん、ハロウィンってお菓子くれなかったらイタズラしてもいい日なんスよ」

得意げにそういわれた。

初めて聞いた解釈だった。

「和菓子も良いと思うんだ。季節的に栗が美味しいよね」

具体的に材料を指定された。



数日前から準備を促されていたは、準備万端でその日を迎えていた。


昼休憩となり、鞄を机の上に置いた。

お弁当は鞄の底に入れていたので、その上に乗せていたスイートポテト、栗きんとん、かぼちゃのシフォンケーキを1セットにしている袋を7つ一旦机の上に置いた。



教室入り口で桃井に呼ばれた。

急遽マネージャーは集合と言われたらしい。

慌てて彼女は席を空けた。


「...ない」

戻ったときには、机の上に置いていた菓子が全部無くなっていた。


放課後になり、満を持しての

「トリック・オア・トリート!」

だった。

満面の笑みでに向かって大きな手を揃えて差し出す。

しかし、紫原の手に乗ったのは、そこらのコンビニでも簡単に購入できる飴玉だった。先ほど、放課後になった途端慌てて買いに行った。

お菓子くれなかったらイタズラしてもいいと思っている輩がいるから、自分の身を守るために。

「え、何で...」

悲しげに彼が言う。

「トリートです」

彼はムッとした表情を浮かべた。

「何でー」

「トリートです」

「なくなった!」

口の中に飴玉を投げ込んでガリガリと噛み、彼はいう。

「はいもう1個。今度は苺」

「なくなったし」

ムキになる紫原は手の上に乗った飴を次々に平らげていく。

「どうしたんスか?」

何だか紫原とが喧嘩をしているように見えて黄瀬が声をかけた。

体格差でどう考えてもが不利だから、ちょっと様子を見たほうが良いとおもったのだ。

ちんがうそついた!」

「うそ吐いてないよ。オレンジのかぼちゃのオバケのことは知ってるし、飴はお菓子だし」

「へ?飴?」

「うん、残念ながら」

「そーっスか...紫原っち。ちゃんも忙しいんスよ...」

紫原の肩をぽんと叩いて黄瀬が慰める。

「オレ、凄く楽しみにしてたのに...」

しょんぼりと言われての良心も痛む。

一応、約束は守っていたのだがないものはない。「持って来ていた」と言っても今無いのが現実で、だから言い訳もしていない。




声を掛けられたのは、大きな2人がしゅんと小さくなっている背中を見送った後だ。

振り返ると緑間が彼らの背に視線を向けている。

「持ってきていたが無くなったといえばいいだろう」

同じクラスなので緑間は知っていた。

昼休憩が終わる頃、は自分の机の上を見て驚き、そして、クラスメイトに聞いて回っていた。

机の上に出しておいたお菓子を知らないか、と。

何があったのだろうか、と思っていたが。

紫原のあの騒ぎようで気付いた。

約束まではしていないが、催促くらいされたのだろう。そして、そういうときは大抵はその催促に応じる。

「でも、今ないのは事実だから」

「ウソツキ呼ばわりされていたのだよ」

「うん。まあ...」

苦笑しては言葉を濁した。

紫原がとてもそれを楽しみにしていたのを知っていたので、はその言葉も仕方ないと思っていた。


練習が終わり、は片づけを終わらせてすぐに帰った。


自主練が終わって、部室に向かう。

「え、それホントっスか?」

「ああ、だからは嘘をついていないし、守る必要も無い約束を守っていたのだよ」

「...ちんに明日謝るし」

見かねた緑間が余計なことかと思いつつもの話をした。

彼女にこれ見よがしのしょんぼりを見せていた黄瀬と紫原が反省する。

「では、君が作ったそれは何処に行ったんだろうね...」

実は結構楽しみにしていた赤司が呟き、

(そういや、今日は弁当のおかず食ってねーなー)

と青峰はの弁当のおかずを拝借していないことを思い出していた。

「あまり考えたくありませんが、あまりにおいしそうだったから、誰かが持っていったのでしょうか...」

黒子の呟きに、紫原は見知らぬ犯人に敵意を抱いた。


着替えていると物凄い速さの足音が近付いてきた。

そのまま勢い良くバンッとドアが開く。

皆が派手に開いたドアに注目した。

戸口には、帰ったはずのがいる。制服ではなく、私服だ。

君、忘れ物かい?」

珍しく取り乱している彼女に赤司がネクタイを締めながら声を掛ける。

「あったー!」

「あった?」

聞き返したのは半裸の青峰だ。

「これ、あった!!」

弾んだ声でが言う。頬が紅潮し、目が輝いている。どこか宝物を見つけた子供の表情だった。

彼女が掲げているのは、オレンジと黒の配色の少し派手な紙袋。

それぞれリボンがついていた。

「えっと...」

「昼休憩に桃井に呼び出されて、机の上におきっぱだったら絶対に青峰くんに取られると思ったから、別のバッグにひとまず入れてたの。忘れてた」

「オレはそこまで酷くねぇ!」と抗議の声を上げる青峰は皆で黙殺する。

「紫原くん、あったよ」

嬉しそうにが彼を見上げた。

「うん。トリック・オア・トリート!」

紫原がいうと「はい」とが紫色のリボンの付いたそれを渡した。

皆にそれを配り終わったは「じゃあねー」と回れ右をする。青峰には桃井の分も預けた。

「え、これのためだけに来たんスか?」

「ん?うん。だって、今日じゃないと意味が無いでしょ?」

そう言って部室の外に出たを紫原が追いかける。

「さっき、ウソツキって言ってごめんね」

「いいよ」

は笑い、部室から顔を覗かせている皆に手を振って欄干をひょいと飛び越えて地面に降りる。

、階段は昇り専用ではないのだよ...」

「危ないっスよねぇ」

溜息混じりに言う緑間に黄瀬が苦笑した。









桜風
12.10.31


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