| テスト期間中の放課後。 日が傾き、空が茜色に輝いていた。 廊下を歩いていると、同じ学年の他クラスの前で足を止める。 窓際の席でこくりこくりと舟を漕いでいるシルエットには見覚えがある。 。 見覚えがあるも何も、自分が所属しているバスケ部のマネージャーだ。 彼女は広い付き合いがそんなに得意ではなさそうだが、そうは言っても面倒見はいいほうだし、話しやすい。ただ、どこかしら彼女との間には距離を感じる時がある。 かといって、とっつきにくいタイプでもない。 不思議な距離を保つ子だと思っていた。 自分がそんな風に興味を持つのは、人間観察が趣味だからだろう。ぼんやりと淡く色づいている自分の思いをそう分析していた。 教室の中に入って彼女の顔を覗きこむ。 穏やかな寝顔を浮かべていた。 突然、眉間に皺を寄せ、また穏やかな表情を浮かべる。 今の一瞬に彼女の身に何が起こったのだろうか。 少しだけ、可笑しかった。 夕方、日が沈めば空気が冷える。 彼は上着を脱いで彼女にそっと掛けた。 そのまま彼女の席の前に座り、残照とグラウンドの外灯を頼りに本のページを捲る。 が目を覚ますと外は真っ暗で「やばっ!」と思わず呟いた。 ふと、目の前に人影があり、彼は舟を漕いでいる。 「あれ?」 体を動かすと、肩から何かが落ちた。 拾ってみると、男子の制服のジャケット。この学校の制服のジャケットは白いから、汚すと目立つ。 慌てて床に落ちた際についた埃を払って、彼の肩にそっと掛けた。 このまま帰るのも何だか不義理のような気がしたは頬杖を付いて窓の外をじっと眺めて過ごす。 「ん...」 どうやら寝てしまったらしい。教室はもう随分と暗いし、彼女はもう帰っているだろう。 「おはよ、黒子くん」 不意に真横で声を掛けられて黒子は驚き、声の主を見た。 「おはよう..ございます」 困惑しながら返す挨拶に彼女は笑う。 「それ、ありがとう」 指差して言われた黒子は自分の肩に、彼女に掛けたジャケットが掛かっていることに気がついた。 「いえ」 「もう遅いよ。帰ろうか」 そう言って彼女が席を立つ。 「そうですね」と黒子も立ち上がり、ふと彼女を見た。 「なぜ、さんは、帰らなかったんですか?」 当然に浮かんだ疑問。 しかし、彼女は驚いたように眉を上げる。 「黒子くんだって、わたしにジャケット掛けてくれたじゃない」 「日が沈むと少し肌寒くなると思ったので」 「目が覚めたとき、暗い教室に一人ぼっちって寂しいかなって思って。それに、お礼はちゃんと言いたかったし」 彼女はそう言って笑う。 途端に、胸に抱いていた淡い思いが鮮やかに色づく。 「あ、」 黒子は声を漏らした。 「なに?」 「いいえ」 あまり表情が変わらない自分の顔に感謝しつつ、手に持っていた本を鞄に仕舞う。 「あ、そうそう」 そう言って彼女は自分の鞄の中を漁る。 「あげる。ジャケットのお礼」 そう言って彼女が差し出してきたものを受け取った黒子はそれをじっと見る。 「桃井みたいに下手っぴじゃないから安心して食べて」 彼女はまた笑う。 貰ったのは、カップケーキ。 彼女は時々自分のおやつに、と焼き菓子を持ってきている。 部活の場である体育館や、更衣室で出そうものなら他のものに取り上げられるので、作った割に本人の口に入ることが少ないと以前愚痴を零していた。 「いいんですか?」 「言ったでしょう?お礼。それに、あとは帰るだけだし」 空腹でも構わないと言うことだろう。 「いただきます」 黒子はその場でラップを剥がしてがぶりつく。 さすがにそれを予想していなかったは驚いたように眉を上げたが、やがて「どう?」と聞いてきた。 「美味しいです」 「よかった。他のみんなには内緒よ?凄くうるさそう。特に、紫原くん」 彼女は愉快そうにしていた。 「はい」 黒子は頷き、残りをパクパクと平らげた。 「ご馳走様でした」 「いえいえ、お口に合いましたようで」 笑った彼女に気付かれないよう、黒子は睫を伏せて微笑んだ。 |
桜風
12.6.6
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