| 2年に学年が上がると、見慣れない女子がいることに気がついた。 元々そう大して他人に興味があるほうではないが、周囲がそう騒いでいたのだ。 情報なら、と幼馴染の桃井さつきに聞くとすぐに答えがある。 「今年転校してきた子でしょう?名前は、」 「ふーん...」 「大ちゃ..青峰君が他人に興味を示すのって珍しいね。何かあるの?」 桃井が興味を持って問うが、問われた青峰はなんと答えて良いか分からない。 「何となくだよ。周りがこそこそ噂してっから」 「そうなんだー?」 からかうように桃井が言い、反論しようとしたところでチャイムが鳴った。 青峰としては助かったといったところだろう。口論では絶対に勝てない。 昼休憩、青峰は食堂に向かうために教室を出ようとしてふと転校生のそばを通った。 目に入った弁当が非常に美味そうで。 「あ、」 気が付くと自分は他人の弁当に手を伸ばしていた。 「貰っていいか?」 「摘んだ後に聞く?」 苦笑して彼女は「どうぞ」と言う。 ぱくりと食べて衝撃が走った。 青峰の幼馴染の料理の腕が飛びぬけて壊滅的なものだというのは知っているつもりだった。 しかし、だとしても... (んだよ、これ...!!) 「」 「何?」 「お前、天才か??」 「...はい?」 そんなことを言われて彼女は首を傾げる。 「お前、放課後空いてるな?」 「え、それって確認してるの?どう聞いても、わたしの意見とかスケジュール無視な発言よね??」 そんな彼女の抗議は無視して、青峰はとりあえず昼食を摂りに食堂へと向かった。 放課後、部活に行く前に彼女の席に寄る。 「よし、行くぞ」 「行き先くらい、先に言ってよ。何、どうしたの?」 眉間に皺を寄せて彼女が言う。 「いいから来いって」 そう言って彼女の腕を引いて体育館へと向かう。 体格差から言って歩幅が違う。 「ちょっと、待って...!」 ずんずん進む青峰に対して彼女は抗議の声を上げた。 「あ、ああ。悪い」 そういえば、桃井も時々文句を言っていた。 ゆっくりと彼女の歩幅に合わせて歩く。 凄くのんびり歩いているような気がして、気持ち悪い。 「おせー」 「背の高さが違うんだから。で、何処に行くの?体育館?」 「おう。俺バスケ部なんだ」 「へー。回れ右してもいいかしら?」 全く興味なさそうにが言う。 「いい訳ないだろう。お前は、バスケ部の救世主になるんだ」 「なに、それ。わたし、笑っちゃうくらい球技苦手だよ?」 「男バスに女子が入れるか」 彼女の発言に青峰は少し馬鹿にしたように返した。 「じゃあ、なに」 不機嫌に言うに 「ウチにはもうマネージャーがいるんだけど。お前もマネージャーになれ」 「お断り」 そう言って彼女は回れ右して駆け出した。 「させるか!」 脚力に自信があった青峰だが、彼女との距離が全く縮まらない。誰もいない廊下。つまり障害物が何ひとつ無いと言うのに、それどころか徐々に離されているような気がした。 不意に彼女が足を止めて窓を開けた。 「ちょ、待て!あぶねーぞ!!」 「というわけで、とんずらしまーす」 そう言って彼女は2階の窓から飛び降りた。 ――ように見えた。 実際は、その窓からは渡り廊下の屋根の上に降りることができ、彼女はそのまま非常階段に飛び移って、非常階段から地上に降りた。 2階から飛び降りるよりは随分と安全な逃走経路だ。 窓からそれを見下ろしていた青峰はホッと胸を撫で下ろし、そしてニッと笑う。 「おもしれー」 それから、数日後。彼女はなぜかバスケ部のマネージャーになっていた。 「です」 体育館で自己紹介する彼女を満足げに見ていた青峰の胸には小さな火が灯っていた。 それはどんなことを意味しているのかは、本人は勿論、周囲も知らないまま時間は流れていくこととなる。 そして、彼との出会いが少なくともの、『苦労』と同義語となる『青春』の始まりでもあった。 |
桜風
12.6.20
ブラウザバックでお戻りください