愛情を込めて





全体練習が終わり、片づけをしていると



と可愛らしく作った声音で声を掛けられた。

「なに、気持ち悪いよ桃井」

振り返ってが言う。

の言葉にむくれた桃井だったが「お願いがあるの」と手を合わせられた。

は盛大な溜息をつき、「なに?」ととりあえず聞いてみることにした。

ロクでもないことなら、結構慣れてきた。



「はあ、誕生日...」

「でね、にお願いがあるの」

「ケーキでも焼けって?」

が問う。

しかし、彼女は首を横に振った。

「作り方、教えて」

「わたし、選手のおなか壊すという犯罪に加担しなきゃいけないの?!」

声を上げるにまたしても桃井は膨れる。

「酷い!」

「ごめんごめん。冗談だから、半分くらい」

「半分は本気ってこと?!」

「青峰くんが熱心にわたしをバスケ部に勧誘した理由らしいからねー、桃井の手料理」

の言葉に桃井は反論できずに詰まった。

「まあ、桃井苛めはこれくらいにして。いいよ」

軽い口調でが応じる。

「ホント?!」

「青峰くんの誕生日って、いつ?」

「あした」

くらりと眩暈が起きた。

「はい?」

「だから、明日。8月31日」

「うわ、乙女座だったんだ...て、そうじゃなくて。何で今日言うの?!」

桃井を責める様にが言う。

しかし、桃井の言い訳を聞くだけ時間の無駄だと察した

「今晩、寝ない覚悟は?」

と問う。

「ある!」

「よし、ウチにおいで」

「ありがとー!」

かくして、明日の青峰の胃の安全はの肩に掛かったのだった。



「ねえ、市販のケーキで良いんじゃないかな?要は気持ちでしょ」

日付が変わって数時間。

は遠い目をして言った。

「ダメ!」

台所の惨状を目にしては気が遠くなる。

(これ、片付けるのも大変なんだけど...!)

台所が賑やかだと言うのに、の両親はぐっすりと就寝中だ。

娘が友達と一緒にチームメイトの誕生日を祝うためのケーキを作ると聞き、「がんばってー」とそれぞれが応援したのだ。

「材料は好きなだけ使って良いし、片付けとか気にしなくていいよー」との母親が言った。

桃井はその言葉に感激した。

それに対して、

(どうせ片付けるのはわたしだしねー)

は心の中で溜息を吐いた。

「わかった。百歩譲って、スポンジケーキは諦めよう」

「じゃあ、どうするの?あ!シフォンケーキ?」

「いやいや。パンケーキでデコレーションを頑張る。今回は時間がないし」

の言葉に桃井が首を傾げる。

「パンケーキって?」

「所謂ホットケーキ」

「えー!そんなのヤダよ」

「自分の実力を把握するのも大切なことよ。時間がなさ過ぎる。せめて1週間前に言ってくれたらパウンドケーキくらいはいけたかもしれないけど...」

が説得し、桃井はしゅんとしながら頷いた。



日が昇る頃には、家で買い溜めていたホットケーキミックスが消えた。

結構な量を買い溜めていたのに、殆どが真っ黒の炭になっていたのだ。

勿体ない、と心の中で嘆いていただが、桃井が一生懸命だったのと、少しずつ上達していったので仕方ないと苦笑を漏らした。




ちゃん?!」

夏休みの最終日、部活のために登校した黄瀬は、の顔を見た途端悲鳴を上げた。

「ど、どうしたんスか!」

「凄い顔をしている。体調が悪いなら、休めばよかったのだよ」

緑間も心配そうに声をかけてくる。

「あれ、ちん。甘い匂いがする。さっき、さっちんもしてた。でも、ちょっと焦げ臭い」

クンクンとを匂いながら紫原が言う。

「うん、そうだね。一晩中格闘してたから」

「「「格闘?」」」

黄瀬と緑間、紫原の声が重なった。

「それで、その結果は?」

不意に増えた声は黒子のもので、

「まあ、引き分けくらいには持ち込めると思う」

と遠い目をして言った。


練習が終わって桃井が青峰に声を掛ける。

青峰は眉間に皺を寄せて彼女の後をついて行った。連れてこられた先は、調理室。

「おい、さつき。まさか...」

「青峰君、誕生日おめでとう!ちょっと待っててね。今から美味しいパンケーキを焼くから」

「やだ。オレは帰る!!」

「はい、紫原くん。青峰くんを確保」

がビシッと指差して言うと

「うん、わかったー」

と紫原が青峰を羽交い絞めする。

「青峰っち、女の子の誘いに乗って途中で居なくなるなんて、失礼っスよ」

黄瀬が言う。

「ばか!オレはまだ死にたくない!!」

「往生際が悪いぞ、青峰」

「そうですよ、青峰君。せっかく桃井さんが誕生日をお祝いしてくれると張り切ってるんですから」

「てか、お前らなんで来てるんだよ!」

「俺はちんに頼まれて。報酬は、ちんのホットケーキ」

「オレは面白そうだったからっス!あわよくば、ちゃんのホットケーキを食べたいとも思ってるスけど」

「面倒ごとを起こされたらかなわないからな」

と緑間。

「僕は、黄瀬君に連れてこられました」

男達がそんな会話をしている中、真剣な眼差しでフライパンを睨みつけている桃井と

「桃井、今!」

「はい!」

べしゃ、と変な音がしたが、何とかひっくり返せたらしい。

「形が...」

しょんぼりする桃井に「オッケー、まだいける」とが請け負う。

「ホント?」

「何とかする。勝たなくても、せめてのドローよ」

そういいながら桃井にハンドミキサーを渡す。今度は生クリームを泡立てるのだ。

「...見てるほうがハラハラするっスね」

桃井の手つきに黄瀬が呟いた。

皆が頷く中、「はい、火を止めて」との指示が入る。

その後も彼女の指示の元、桃井は何とか最後までやりきった。

「はい、青峰君。誕生日おめでとう」

不恰好になったパンケーキは、最初から一口大に切ることで誤魔化した。

何とかデコレーションで豪華さを出して、青峰の誕生日をお祝いするケーキが完成したのだった。

「お、おう...」

みんなの見つめる中、青峰が桃井お手製のパンケーキを口に運んだ。

「...あ、美味い」

「ホント?!」

桃井の声が弾む。

「ああ、普通に美味い」

(そりゃそうよ。市販のホットケーキミックスだもん...)

既に味の調整がされているものに一切の味付けを禁止して作らせたものだ。

桃井の指導にぐったりとしていたは立ち上がり、紫原に約束したホットケーキを、先ほどの桃井とは比べ物にならない手際の良さで焼き上げた。


皆で片づけをして調理室に施錠する。

「わたし、鍵返して帰るから。またあしたねー」

皆に声をかけては職員室に向かう。

鍵を返して職員室を出ると青峰が立っていた。

「わ、ビックリした」

が呟くと

「や、礼を言ってなかったって思って。さつきがアレ作れたのってのお陰だろうし」

「あ、そっか。ごめん」

が言う。

青峰は不思議そうにを見下ろした。

「誕生日おめでとう、青峰くん。まだ言ってなかったよね」

の言葉に面食らった青峰は眉を上げ、

「おう、サンキュな」

と笑顔で返した。









桜風
12.8.31


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