ひとりで





ダムダムとボールの弾む音が聞こえた。

は体育館の中をのぞき込む。

「あら、おひとり...」

珍しいことがあるものだ。

「おー、どーした」

の呟きが耳に入った青峰が手を止めて振り返る。

「タオル忘れた。どっか落ちてなかった?」

「あれか?」

体育館の隅っこに置いてあった。

「誰のかわかんなかったから、後で部室に持っていっとこうと思ってたんだよ」

「わお、これはご心配をおかけしました」

そういっては靴を脱いで体育館の中に入る。

すでに制服に着替えており、後は帰るだけと言うところで思い出したのだ。

だから、実は自転車は体育館の目の前に停めている。


「そういや、って」

「なに?」

「何で手を抜いてんだ?」

「なんの話?」

ドキリとした。

(結構良い感じに手抜きができていると思っていたのに...)

前の学校のことがあるから、親からある程度手を抜くように言われており、それについて、も理に適っているような気がしていたので手を抜いている。

「抜いてるだろ、手」

「いやいや、いつも全力投球してるって」

苦笑しながら言うと

「相手を見て嘘つけって」

と言われた。

「...いや、うーん。ほら!こう..全力を出した挙げ句に自分意外と大したことがなかったら、なんかちょっと..やじゃん?」

が同意を求めた。

「は?」

青峰はきょとんとした。わからないらしい。

(んー、どうしたら...)

この言い訳は、手を抜くと決めたときから用意していた。何となくもっともらしいと思ったのだ。

しかし、この学校に通いはじめて、それは事実になる。

前の学校ではそんなこと絶対に思わなかった。

だが、今は違う。

これまで他人に興味なかったから、他の人がどんな力を持っているか知らなくて、それで自分の狭い世界で完結していたから気にならなかっただけなのかもしれない。

この学校のの周りにいる人たちは、みんな凄いのだ。

だから、自分が一生懸命何かをやったとしても、ぜんぜん足りないかもしれない。

だったら、最初から足りないところで立ち止まっていれば、その現実を知らなくてすむかもしれない。


青峰はじっとを見ていた。

「なあ、

「な、なに?!」

考えを巡らせていたは慌てて返事をする。

「これ、シュートしてみろ」

「結果の分かりきったことをさせないで」

バスケットボールを抱えては抗議した。

「いーから、投げてみろって」

「もー...」

青峰の強引さはいい加減、身に沁みている。

仕方ないので、ゴールに向かってバスケットボールを投げた。

明後日の方向へ飛んでいった。

「ぜってー呪いだよな、それ...」

呆れたように青峰が言う

「もう!」

が拗ねると、彼女が明後日の方向にシュートしたボールを拾ってきて「ほい」とまた渡す。

「なによー」

また投げろと言うのかと拗ねていると

「持ってろよ」

と青峰はそう言った。

「よ!」

そういっての体を抱き上げた。

「届くだろ」

「へ?」

「ゴール」

「あ、うん」

頷いた

「ダンクしてみろ」

言われたはそのままボールをリングの中に入れた。

それを確認した青峰はを降ろした。

「ほら、シュートできたろ?」

は困惑しながら頷いた。

「別にひとりでやらなくてもいいんだよ」

青峰が言う。

「どういうこと?」

「全力出して、届かなかったら..周りのやつに頼めばいいじゃんか、手を貸してくれって」

は静かに青峰を見上げていた。

「や、だから。テツだってそうだろう?テツは、パス以外てんでダメで。けど、テツのパスはオレらを助けてる。別に何でもひとりでできなきゃならねーこともねーだろ?」

そういって青峰はがシュートしたボールを拾って軽く投げる。

ボールは静かにリングの中に落ちていく。

「今がイヤなら別に無理して全力出す必要ねーだろうけど。いつか、針振り切らせてみろよ。おまえ、ぜってーすげーから」

そういって照れくさそうに笑った。

「...まあ。いつかね」

は何とかそう返した。









桜風
12.10.21


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