ラッキーアイテム




その日のおは朝占いに緑間は愕然とした。

否、おは朝占いに愕然としたのではなく、ラッキーアイテムが彼の家に無かったことに愕然としたのだ。


ラッキーアイテムがないためか、朝練はどうもうまく行かなかった。

溜息をつきながら教室に入るとがすでに席に着いていた。

彼女は朝練には出ない。元々マネージャーは出なくて良いのだ。

「おはよう」

ナンプレをしている彼女に声をかけ、彼女の後ろの席に回ったとき、緑間は足を止めた。

「おはよう」

彼女は少し遅れて顔を上げて挨拶を返した。

振り返ると緑間が目を丸くして自分の頭を凝視している。

「緑間くん?」

、それは...」

「これ?ナンプレ。やってみる?」

「そうではなくて、これなのだよ」

そう言ってそっとの髪に触れる。正しくは、の髪を結んでいる髪ゴムだ。

「ああ、可愛いでしょ?」

「それは、トンボ玉..ではないのか?」

少し震える声で緑間が言う。

「ん?」

はするりと自分の髪を結っているゴムを外してそれについているオレンジ色の飾りを眺めた。

「あ、うん。お母さんがそう言ってた」

「母親からの、プレゼントなのか?」

「というか、お土産。出張多い人だから」

、それを今日1日貸してくれないだろうか」

切羽詰ったように言われては首を傾げる。

そして、ピンと来た。

「あ、ラッキーアイテム?」

「そうなのだよ。トンボ玉なんてそんなに珍しいものでもないと思っていたのだが、ウチにひとつもなくて。どうだろうか...」

ラッキーアイテムが手元に無くて物凄く不安そうな表情をしている緑間を見たは彼が気の毒になった。

だから、首を縦に振る。

「本当か?明日、必ず返すのだよ」

「その代わり、条件があります」

にこりと微笑んだに緑間は珍しく苦笑いを浮かべた。


「ぶはははっ!」

昼休憩、学食で黄瀬が緑間を指差して笑う。昼食はバスケ部の仲間で集まって食べることが多い。

緑間は前髪を髪ゴムで結っている。

黒子も肩を小刻みに揺らしている。黄瀬みたいに堂々とではないが、笑っているのだろう。

「な、何スか緑間っち!」

「それはどうしたんだ、緑間」

真顔で赤司に言われた。

緑間は溜息をつき

「これを借りる条件で、結ばれたのだよ」

と言う。

「借り物なんスか?」

「ああ。今日のかに座のラッキーアイテムはトンボ玉だったのだが、ウチには無かったからな」

君のか」

赤司の言葉に緑間が頷く。

「な!それ、ちゃんのスか?!道理で可愛いと思ったス」

途端に黄瀬が興味を持って緑間の髪ゴムを見つめる。

「ま、が持ってて良かったな」

一頻り教室で大爆笑した後の青峰はここではそんなに笑っていない。

「ああ、ウチに無いのにが持っていた。しかも、それを今日という日につけてきた。これは運命なのだよ」

「偶然じゃないスか?」

緑間の言いようが気に入らない黄瀬が茶々を入れるが

「いや、運命なのだよ」

と緑間が強い口調で繰り返す。

「じゃあ、緑間っちに髪ゴムを貸しているちゃんは、この暑い中、髪を下ろしたままってことっスか?」

黄瀬の問いに

ちんには、俺が貸してあげたし。明日クッキーを持ってきてくれる」

と紫原が言う。



放課後、部活の時間にが緑間に声をかけた。

「部活中は邪魔でしょ?外しちゃってもいいよ」

条件をつけた本人が言うのだ。

緑間はその言葉に甘えることにした。

練習が終わり、自主練をしているとが声をかけてきた。

「どうしたのだよ」

手を止めて彼女の元へと足を向ける。

「あれ、あげるから」

「あれ..ってあの髪ゴムか?トンボ玉の」

「うん」とが頷く。

「だが、母親のお土産でもらったものではないのか?」

「そうだけど。あの人、お土産は必ず2以上買って帰る人だから」

の言葉に緑間は少し悩み、

「同じものがあると言うのか?」

と問う。

「トンボ玉って手作りだから全く同じのはないんだって。あと、デザインも違うものを買ってたけど。別にいいし」

「母親の気分を害してしまうのでは...」

緑間がなおも心配する。

「自分の買って帰ったお土産は、渡したら興味なくすんだって。大丈夫。ウチのお母さんは気にしない。またトンボ玉がラッキーアイテムになったら困るでしょ?」

そう言ってが笑う。

「じゃあ、その言葉に甘えてアレは頂くこととするのだよ。今度、代わりの髪ゴムを持ってくるが、受け取ってくれる..か?」

緑間が言うとは苦笑して

「お言葉に甘えましょう?」

と返した。

「何か、こう..リクエストはあるか?俺はそういうのを選んだことが無いのだよ」

「そうね...すっごく可愛いのがいい」

イタズラっぽく笑って言う。

「わ、わかった...人事を尽くすのだよ」

そんな緑間の反応には笑ってその日は早めに切り上げて帰って行った。




数日後、緑間から本当に『すっごく可愛い』髪ゴムを貰ったは目を丸くした。

「どうだ?可愛いと言うのは、人の感性によって違ってくると思うのだが...」

心配そうに言う緑間に

「や、ホントすっごく可愛い」

呆然と呟く。

その言葉に緑間はホッと息を吐いた。

(これ、どんな顔で選んでどんな顔でレジに持ってったんだろう...)

一緒に選んで、と言えばよかったと今更後悔しただった。









桜風
12.7.22


ブラウザバックでお戻りください