アフター・グラデーション





しとしとと雨が降っている。は機嫌よく傘をくるりと回した。

「わっぷ」

背後で声がしては慌てて振り返る。

「すみませ...って、なーんだ」

「わー、ホントちゃんって素直になったら酷い子だね」

ニヤッと笑って高尾が言った。

「あら、そう?」

首を傾げては笑う。

「ま、こっちの方がまだ良いけどね」

「あらー、どーもー」

そんな会話をしていてふと気付く。

「傘は?」

「ない」

「貸してあげようか?」

の言葉に高尾が眉を上げた。

「気味悪いよー」

「あっはっはー」

高尾の言葉には笑う。

「まあ、マジメな話。今、風邪引いたら死んでも死に切れないでしょ。予選始まってるんだし」

急に真顔でが言う。

「あー、まあ...ちゃんは、予備の傘持ってんの?」

「ううん。でも、現在試験期間中です。部活動はありません。しかも、マネージャーは試合に出ることが無いので、少し動けなくても問題なし」

ちなみに、今年はトーナメントでも当たらない。

の言葉に高尾は盛大な溜息を吐いた。

「オレが傘借りちゃって、ちゃんが風邪引いてみなよ。真ちゃんに殺される。それに、誠凛さんには確実に迷惑がかかるよ」

半眼になってを見ながら言う。

「これも、『無神経』と言うんだよ」

指摘されてぐっと詰まる。

ためにならないことだったらしい。


緑間と『一緒に』を始めて以来、物凄く協力的なのが高尾だ。

遠慮なくの良くない態度を指摘してくれる。たまには、手加減して欲しいと思うが、自分の周りは自分に甘い人が多いので貴重な人材であるとも思っている。勿論、腹は立つけど。



背後から声がしては「緑間くん!」とパッと笑顔になる。

その笑顔を見た高尾は苦笑した。これこそ、最大級の彼女の『素直』だ。

元々別にひねていたわけではない。

だが、どこか自分を隠していたようにも思えていた。

今なら、クラスが違っても友達になれるくらいには気に入っている。無神経なのは変わらないが、緑間が言うには、彼女はまだ知らないだけだと言うのだ。

恋心ゆえのフォローとも思うが、実際ちょっとずれている子なのでそうかもしれないとは思っている。

「高尾、傘はどうした」

「んー、今日降るって知らなかったからさ」

「なら、なぜ学校で言わない。置き傘があったのだよ」

眉間に深い皺を刻んで緑間が言う。

「じゃあ、緑間くんと高尾くんで相合傘したら?」

が首を傾げて言う。

本心からそう思ったらしい。

「や、それは勘弁。何が悲しくて男2人で相合傘しなきゃいけないの。オレは走って帰るし。じゃーね。せいぜいイチャイチャしながら帰れよー」

と高尾は走っていく。

「ねえ、緑間くん」

「なんだ?」

「傘に入れてくれる?」

「...すまない」

彼女のせんとしていることを察した緑間は礼を言う。

は傘を閉じて駆け出した。

「高尾くん」

「わあ?!」

「はい、傘貸してあげる」

「や、でも...」

ボタン式の傘をボンと開いてはそれを差し掛けた。

「わたし、緑間くんに入れてもらうから大丈夫だよ」

「高尾、素直に借りるのだよ」

ゆっくりと歩いてやってきた緑間が言う。

「真ちゃん」

「あと、。早くこっちに来るのだよ」

少しだけ不機嫌に緑間が言った。

「あ、」と高尾は呟き、の傘を素直に受け取った。

はそのまま緑間に腕を引かれて彼の傘の下に入る。

「なに?」

「真ちゃんヤキモチー」

からかうように高尾が言う。

「うるさい黙れ」

「なにが?」

「...何でもないのだよ」

視線を外して緑間が言う。

「今、ちょっとだけオレとちゃんが相合傘だったから真ちゃん面白くなかったんだよ」

からかうように高尾が言う。

「黙れ」

緑間がもう一度苦々しげに言った。

「んで、どうするよ。帰るの?」

「は?」と

「お前は帰って試験勉強しろ」と緑間。

「えー、良いじゃん。3人でどこか寄って帰ろーぜ」

「お前は邪魔だ」

「何だよ、真ちゃん」

「高尾くん、風邪引く前に馬に蹴られて死んじゃうよ」

真顔でが言う。

「怖っ!その真顔怖っ!!」

高尾が言うとは笑い、緑間は嘆息吐いた。

「ゲーセンとかどーよ。ちゃん、行ったことある?」

「あるよ。去年みんなでプリクラ撮ったもん。経験済みよ」

少しだけ自慢げに言う。

「...もしかして、その1回だけ?」

高尾が問う。

「?うん。あのときが初めましてだけど??」

「本当か?」

と緑間が驚く。

「え、何か変...?」

不安そうに見上げるに「いや」と緑間は首を横に振る。

別に、ゲームセンターに行ったことが無いからと言って何かあるわけでもない。

「んじゃ、ちゃん。ゲーセン行ってみようぜ。真ちゃんにじゃんけんで勝つくらいの強運の持ち主なら、メダルゲームとかどうよ」

「だから、お前は帰るのだよ。行くなら俺とだけで行くのだよ」

「なのだよー」とも頷いた。

「いいじゃん、オレたち相棒だろ」

緑間に向かって言うと彼は眉間に皺を寄せて黙り込んだ。

「えーい!」

が緑間にしがみつく。

「な、何なのだよ」

慌てる緑間に答えず、は高尾を見た。彼女はちょっと怖い顔をしている。

「ははっ、真ちゃん愛されてるねー。まあ、いいや。傘のお礼も兼ねて、今日はオレは諦めるよ。ちゃん、傘は真ちゃんに返すね」

「うん、試験勉強頑張ってー」

ニコニコと手を振っているに苦笑して「んじゃーね、真ちゃんまた明日ー」と傘を軽く掲げて高尾は帰宅の途についた。


「せっかくだ。どこかに寄って帰るか?」

彼の背中を見送って緑間が言う。

「んー、何処行こうか。あ、ゲーセンはパスね」

そう言って見上げたに、緑間は体を屈めてキスをした。傘は顔を隠すようにしている。

「わっ」

「高尾が邪魔だったのだよ」

間近で言われては苦笑する。

「高尾くん、もうちょっとで本当に馬に蹴られちゃうところだったんだね」

「そうだな」

そう言って緑間はもう一度彼女に唇を落とした。









桜風
13.2.6


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