冬の日の放課後





都内の公立図書館では分厚い、大きな図録を開いていた。

ぽんと肩を叩かれて振り返る。

「すまない、。少し遅くなった」

そういわれて「大丈夫だよ」とはその図録を閉じた。

『宇宙の歴史』と表紙に書いてあるそれを棚に戻し、は彼と共に図書館を後にした。


この図書館を待ち合わせ場所に指定したのはだ。

事の起こりは昨晩、の家にかかってきた電話だった。



誠凛高校は2学期の期末テスト期間に入った。

平日は早く家に帰れ、自分の時間がたくさん取れるのが嬉しい。

家の電話が鳴り、が出ようとしたら珍しく早く帰ってきていた母親が出た。

彼女の母親は、電話に出るのが好きだ。

家に掛かる電話で用事があるものは、大抵リコがと直接話をしたいときにかけてくるものだけだった。

つまり、あとは何かの勧誘、アンケート、そして所謂『オレオレ詐欺』などの一種の迷惑電話くらいだ。

ちなみに、以前痴漢から電話が掛かってきたとき母が発した言葉は「どどめ色」だった。下着の色を聞かれたらしい。

「どどめ色」と言われて具体的に色を思い浮かべられるハイセンスな痴漢ではなかったらしく、通話を切られた。ちなみに、その日の下着の色を正しく答えたわけでもない。

とにかく、彼女は電話の相手をおちょくるのが楽しくて仕方ないらしい。

今回もなにやら盛り上がっている。

10分くらい話をして彼女は保留を押した。

さん、電話」

「は?」

は頓狂な声を上げた。物凄く盛り上がっていたが、どうやらへの電話だったらしい。

「誰から?」

訝しげにが問うと、

「和成君」

と答えられて益々混乱した。

(誰...)

とっさに、部員とクラスの男子で記憶している下の名前を思い浮かべるが、該当者なし。

「もしもし...?」

「おー、ちゃん。ちょっと真ちゃんに代わるね」

(高尾くん?!あ、そうか。和成くんだ)

はそんなことを思いながら緑間を待った。

「すまない、高尾が...」

「ううん、いいけど。どうしたの?」

「実は、結婚するのだよ」

「あら、おめでとう」

緑間の発言に、は何でもないことのように祝福の言葉を口にした。

電話の向こうでは「真ちゃん、主語。主語が抜けてる!」と高尾が大爆笑している。

「あ、ああ。実は、副顧問が結婚することになったのだよ」

「あら、おめでとう」

先ほどと同じ言葉をは繰り返す。

「それで、に頼みがあるのだよ」

「なに?」

ちゃん。明日の放課後、暇?」

高尾に代わった。

「うん、テスト期間中だから部活ないし」

「マジで。やっぱり今の時期なんだねー。ウチも明日からなんだけどさ、俺らレギュラーって1時間だけ体育館使わせてもらえるのよ。それで、その練習が終わった後で悪いんだけど、ちょっと時間くんね?」

「時間?」

鸚鵡返しにが問う。

「そ。その副顧問、女の先生なんだけどさ。結婚祝いに部から何か贈ろうって話してて。俺と真ちゃんで買いに行くことになってたんだけど、何かやっぱり女の子の意見がほしいなって。そこで、ちゃんに白羽の矢ってワケ。どーかな?」

「はぁ...まあ、いいけど。秀徳さんは、マネージャーとか居ないんだっけ?」

「みーんな、1学期で逃げた。『こんなキツイマネージャー、やってられませんっ!』って」

練習がきついと、マネージャーもきつい。秀徳の練習は見せてもらったことがあるが、きつそうだった。

「まあ、時間あるし。大丈夫。じゃあ...」

そう言っては秀徳高校に程近い公立図書館を待ち合わせ場所に指定したのだった。

図書館なら、時間を潰すのに丁度いい。



そして、彼女は学校帰りにその図書館に直接来て、適当な図録を広げて緑間たちを待っていたのだった。



「あれ、高尾くんは?」

「あいつは、帰ったのだよ」

「はい?」

が問い返す。

緑間曰く、「妹に早く帰ってくるようにせがまれた」とのこと。

「へー、妹さん居るんだ。わっ、いいお兄ちゃんしてそう」

クスクスと笑いながらが言う。

「あいつが言い出したのに、すまない」

緑間が謝る。

「いいよ。で、予算は?あとプレゼントの漠然とした方向性でもある?」

に問われて緑間が返す。

2人で雑貨屋を巡った。

そんなに大きなものではなく、けれども思い出として残るものが良いと言われているそうだ。意外にも注文があった。男子しかいないのだったら、そういうのは「もう適当で良いよ」と言いそうだが、どうやら宮地が注文をつけているらしい。

4件目の雑貨屋で見つけたそれを購入し、プレゼントラッピングをしてもらって店を出ると、チラチラと雪が降っていた。

「わー、寒いと思った」

空を見上げて、白い息を吐きながらが笑う。


緑間は腕時計で時間を確認する。

夕飯の支度があるには少し遅い時間となってしまった。

、すまない。遅くまで付き合ってくれて...」

緑間が言うと

「ううん、大丈夫。緑間くん、もうちょい時間ある?」

が問う。

「ああ、俺の用事はもう済んだのだよ。は何かあるのか?」

「ご飯食べて帰れない?」

が問う。

「俺は構わないが、は大丈夫なのか?」

「うん。お母さん、今日は残業するから、会社で何か食べるって言ってたし。せっかくだから、外で何か食べて帰ろうかなって」

の言葉を聞いて、ふと、2年くらい前のことを思い出した。

「それなら、付き合うのだよ」

そう返事した緑間に「ありがとう」と言ったはクスリと笑う。

「どうした?」

不思議そうにを見下ろした緑間に、「ちょっと思い出しただけ」とが言う。

「思い出した?」

「中学のときのこと」

おそらく、彼女も自分と同じことを思い出したのだろう。練習試合の帰りに誕生日を祝ってもらったことがある。

緑間は目を細めた。


「ところで、。手袋は嵌めないのか?」

ふと、先ほどから気になっていたことを聞いてみた。

寒いのは今朝からだ。学校に行くにしたって手袋をしていただろう。

しかし、彼女は先ほどからは手袋もせず、指先が赤くなっている。

雑貨屋を渡り歩いていたときは、店に入るたびに手袋を外すのが面倒くさいのだろうと思っていたが、用事の済んだ今、手袋は必須だろう。

「いやぁ、電車か駅で落としたみたい」

苦笑いを浮かべてが返した。

「それなら、これから買いに行くか?俺の用事は済んだし、も時間があるなら...」

緑間が提案したが、彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「家に帰ったら、まだいくつかあるからねー。買うのは勿体ない。心配してくれてありがとう」

確かに、勿体ないかもしれない。

しかし、彼女の手が寒そうで、かわいそうで...

、これを使うのだよ。随分と大きいが、ないよりマシだろう」

緑間は自分が嵌めている左手の手袋を渡した。

「え、でも..緑間くんこそ利き手じゃない。大切にしないと。冷やしたらダメでしょ」

が言うと彼はその手袋を半ば強引に彼女の左手に嵌め、そのままの彼女の随分と冷えた右手を取り、自分の左手と共にコートのポケットに突っ込んだ。

「これなら、冷やさずに済むのだよ」

「わお、合理的!」

が声を上げる。

(...まあ、いいか)

の零した感想に思うところはあったが、さすがに少し気恥ずかしくて視線を逸らしていた緑間は、隣で恥ずかしげにうつむいている彼女の表情を見ることは出来なかった。





610000hitのキリ番リクエストを頂きました。
リクエスト内容は、
『グラデーション主人公が緑間といい感じの雰囲気になるような話で、高校生設定』
でした。
季節、ガン無視ですみません...
momo様、リクエストありがとうございました!





桜風
12.9.18


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