| 神社は、黄瀬の言ったとおり小ぢんまりしていたが、中々の盛況だった。 お祭りに『盛況』もないだろうが、少なくとも屋台の数や、人の数は小ぢんまりとした神社の割には多いと思った。 境内に入ると、青峰と紫原が早速屋台を冷やかし始める。 「緑間っち、勝負っスよ!」 黄瀬の言葉に緑間は冷ややかな視線を向けて応じるつもりが無いらしい。 「勝った方がちゃんと2人きりでお祭デートっス!」 「待て!」 が抗議の声を上げるが 「受けて立つのだよ」 と緑間が言う。 「おい!」 の制止も聞かず、彼らは何で勝負をするかと話をし始めた。 「君も中々大変そうだな」 クスクスと笑いながら赤司が言う。 「楽しんでるねー」 面倒くさそうにが言うと彼は「まあ、退屈ではないな」と返した。 金魚すくいで勝負をしている黄瀬たちを放っては赤司と境内を歩き始める。 「何か食べないのか?」 「わたしは、歩きながら何かを食べるのが好きじゃないから。せいぜい飴とかまでだね」 「へえ」 「赤司くんは?」 「あいつらを見ていたら胸やけを起こしてしまったようだ」 そう言って視線を向けた先には、青峰と紫原だった。 「ああ、わかるわー...」 苦笑してが言う。 結局、何だか自由行動になった。 「君は、携帯は持っていないんだったか?」 「うん。いつでも掴まるのはいやだから」 「とても、君が言いそうな言葉だ」 「今、実際言ったけどね」 の言葉に赤司は喉の奥で笑った。 「では、祭りの間は俺達の誰かと一緒に居なければ連絡がつかなくなるな。しかし、祭りに来たのに何も無いのは..ああ、アレなんかどうだ?」 赤司が指差した先は、型抜きだった。 「あ、超得意」 「では、俺たちも勝負と行こうか。君が負けたら...それは、後で決めよう。その方が面白そうだ」 赤司がそう言ってクスリと笑う。 は引きつった笑顔を浮かべ、赤司と共に型抜きに挑戦することとなった。 勿論、最も難しい繊細なデザインのものを赤司が注文し、それで勝負をすることとなったのだった。 「あれ、ちゃんがいないっス」 金魚すくいでは勝負がつかなかった。 同数の金魚を持って黄瀬と緑間が周囲を見渡す。 彼らは身長があるが、は中2女子の標準サイズだ。つまり、人ごみに入ってしまえば中々見つからない。 しかも、桃井みたいに目立つタイプでもないのだ。 「は携帯を持っていない..よな」 「持ってないっスねぇ...」 (何が悲しくて黄瀬と2人きりなのだよ...) (何が悲しくて緑間っちと2人きり...) 2人はとても気が合った。 黄瀬と緑間がてくてくと歩いていると型抜きの屋台の周囲に軽い人だかりが出来ていた。 「何なのだよ」 「行ってみるっスよ。何だか、ちゃんがいる気がするっス」 黄瀬の発言を疑いながら足を向けると本当に彼女が居た。 黄瀬の勘と言うか、嗅覚をちょっとだけ気持ち悪いと思った緑間だった。 「ちゃ..ぐぁっ」 「黙るのだよ」 の名を呼ぼうとした黄瀬のわき腹に肘を入れる。 「酷いっス...」 「どうやら、赤司と一騎打ちをしているようなのだよ」 「は?」 黄瀬は抜けた声をあげ、2人の手元を見た。 「何スか、あれ...」 「最も難易度の高い型なのだろうな」 周囲のざわめきが耳に入っていないのか、2人は物凄く地味で緻密な作業を真剣に続けている。 「さっきからあんな感じです」 「わっ!黒子っち」 「きーちゃん、みどりん。何、それ...」 黒子と桃井が声をかけてきた。 「金魚なのだよ」 「それより、『さっきから』ってどれくらいっスか?」 「えっと、人だかりが出来てるから何だろうってテツ君と話して覗いてみたのが...」 「10分くらい前です。僕たちが覗いたときにはもう随分と出来上がっていました。誰も声を掛けられないけど、目も離せずに...」 そんな会話をしていると「できた」と静かに赤司が言う。 「同じく」とも手を止めた。 店主に見せると、彼は肩を落とした。絶対に無理だと思っていたのに、と背中に書いてある。 型抜きを完成させたらその難易度に応じた小銭がもらえる。 と赤司はそれを受け取って立ち上がった。 「足が痺れた...」 よろよろと歩いていると赤司が手を伸ばす。 「じゃあ、俺の勝ちってことで良いな」 「ノンノン。だって、勝負は『型抜き』でしょ?そして、同じだけの..賞金を貰った。同じ評価ってことよ」 が言うと赤司は肩をすくめた。 「ちゃん!」 黄瀬が駆け寄ってきた。 「あ、勝負はどうだった?」 「ドローだったっス」 「そうなんだ?」 「の家は、金魚は飼えるか?」 「ううん、ウチは生き物無理」 が首を横に振る。 「店に返してくるっスか?」 黄瀬が問う。 「受け付けてくれるの?」 が問う。 「少し時間が経っているから、難しいかも知れないな...」 緑間も自分の持っている金魚を覗き込みながら言う。 「自分ちでは飼えないの?」 が2人に問うと 「たぶん、大丈夫っス」「問題ないだろう」 とそれぞれが返した。 ただ、長く生かすことが出来るか自信がなかっただけだと言う。 「意外とお祭の金魚ってしぶとかったりするみたいですよ」 黒子が言うと 「じゃあ、精一杯世話するっスよ」 黄瀬が笑った。 |
桜風
12.8.1
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