| 黄瀬が携帯に表示された地図を頼りに先頭を歩き、何とか住宅街に入った。 結構な距離歩いた気がする。 チリンチリンと自転車のベルの音が聞こえて振り返ると、だった。 「意外とみんな速いね」 そう言って自転車を降りて押す。 今、自転車には、紫原が持っているのと同じくらいの量の買い物袋を乗せている。 「結構なところに住んでるのねー」 「そう?」 桃井の言葉にそう返してが先頭を歩く。 「ここ」と言ってが足を止めた。 家を見上げて、皆の口から溜息が漏れた。 「でけぇなー...」 青峰が呟く。 「ああ、天井が高いから」 そう言っては門を開けて玄関脇に自転車を置き、玄関の鍵を開けた。 「どうぞー」と先に入ってスリッパを出し、リビングに向かう。 「おじゃましまーす」 ちょっとおっかなびっくりに皆は家に足を踏み入れた。 「ちん。これ」 ずっと持っていた買い物袋を紫原がに渡す。 「ありがとう、重かったでしょ」 と言いながら彼女はそれを受け取り、冷蔵庫を開けて皆に麦茶を出した。 「ちゃんちって、本当に天井が高いっスね...」 此処最近、学校の教室のドアで頭をぶつけるようになった黄瀬が天井を見上げていった。 「ウチの父親が背が高いから」 そういいながら夕飯の下拵えを始める。 が背を向けている間に、青峰と黄瀬がリビングを出て行き、それを止めようとした緑間も居なくなった。 「紫原くん」 「んー、なにー?」 「青・黄・緑がわたしの部屋に入らないように止めて」 名前を一々言うのが面倒くさいらしく、苗字の一文字ずつを言う。 「えー、面倒くさい」 「成功報酬は、食後にこのボウル一杯のプリン」 「行ってくるし」 のそっと立ち上がって紫原はの自室があるという2階に向かった。 桃井は緊張していた。 今、リビングには桃井と黒子しか居ない。 つまり、二人きり。 の居るキッチンとリビングは繋がっているが、桃井にとっては二人きりの空間だ。 リビングで何かしているとキッチンに居るからは丸見えだが、それでもしつこいようだが、二人きりだ。 しかし、 「さん」 と黒子は自分以外の女を呼ぶ。 (何だか面白くない...) 「なに?」 「ここで試験勉強してもいいですか?」 「どーぞー。寧ろ、積極的にどーぞー」 適当に返すに「ありがとうございます」と言って黒子は通学鞄から先ほど桃井に貰ったノートのコピーを取り出した。 「ねえ、」 「なに?」 「の家ってマンガある?少女マンガ...」 今日、学校でクラスメイトの友人に言われたことを思い出したのだ。 少女マンガのような恋。 それはどんなものだろうか、と気になった。 「あー、雑誌しかないよ。わたし、単行本は買わないから。読みきりは..あったかな...」 調理の手を止めてがリビングにやってきた。 妙にエプロン姿の似合うに、桃井はこれまた少し嫉妬を覚える。 「あった。こんなとこかな?これが、全部読みきり系で、これは連載メインだけど、大体読みきりが2本くらい」 リビングの隅に積んでいた雑誌を漁ってが桃井の前に置いた。 「ありがとう」 「桃井って、普段少女マンガとか読まないの?」 「うん。何か、ちょっと手が伸びないって言うか...」 「へー、珍しい」 「僕は、さんが少女マンガを読んでいることが意外でした」 黒子が話に入る。 「そう?少年漫画も読むし、科学雑誌とかも好きだな」 「純文学とかはどうですか?」 黒子が問う。彼は本を読むのが好きらしい。 「読んだりするけど、大抵娯楽本かなー」 そう言ってはまたキッチンに戻っていった。 「桃井さん」 読む雑誌を物色していると、黒子が声をかけてきた。 「な、なに?!」 「えっと、教えてもらってもいいですか?」 桃井の邪魔をすることに気は引けたが、声を掛けてみた。 「うん!うん、いいよ。遠慮なんてしないで!!」 そう言って桃井は雑誌を脇に避けて黒子の正面に座る。 このシチュエーションは、図書館での勉強デートみたいだ。 たとえ、少し近いところから何かを炒める音が聞こえても、食欲を刺激するようなごま油の良い香りがしても。 ぐぅ、と目の前の黒子の腹の虫が鳴る。 ...黒子の腹の虫がなっても。 |
桜風
12.8.6
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