家庭訪問 3





「さあ、いい加減にしようか」

部屋の入り口からの声がして、ギギッと油の切れたブリキみたいに4人は振り返る。

「え、えーと。ちゃん」

「まず、紫原くん」

まさか、自分が最初に名前を呼ばれるとは思って居なかった紫原は覗うようにを見た。

「ボウル一杯のプリンはなしね」

「えー、何でー」

「だって、言ったじゃない。『成功報酬』って」

今、一緒にの自室に入っている時点で、成功していないのは一目瞭然だ。

紫原は盛大に拗ねた。

「ほら、ごはん出来たから降りて。あったかいうちが美味しいから」

そう言っては彼らを追い立てた。

彼らが出て行った後の部屋の中をざっと見る。

「ま、変な荒らし方はしてないでしょ」

微妙な信頼を置いて部屋のドアを閉めてリビングに向かった。

とりあえず、自分ひとりだと少し広く感じているあの部屋も、彼ら4人が入れば窮屈に見えるものだな、という感想が一番大きかった。



「そういえば、何でみんな一緒に居たの?」

食事中、ふと思い出してが問う。

「あー、何だっけか?」

きっかけは忘れた。

何か、最初は一緒に帰っていて、途中で別れたのに、合流した感じだ。

「あ!」

と食事中であるにも拘らず桃井が立ち上がる。

「お手洗いなら、廊下に出て右手の突き当たり」

「ちがう!」

(何だ、違うのか...)

は肩を竦めた。

「忘れてた...」

立ち上がったかと思うと、すとんと座る桃井に「お替り?」とが問う。

「ちーがーうー。わざとでしょ!!」

指摘されて「うん」とは頷く。

「もう!違うの。今日、テツ君はまっすぐ家に帰らなきゃいけなかったのに...!!」

「何か用事でも?」

そう言っては黒子の右手首を見た。

黒子はの視線に驚き、思わず手首を隠した。

「赤司君に言われたの」

桃井がうな垂れて言う。

「まあ、凄く今更じゃない。公園にいたんだし。あの時間なら、その前にも色々と寄り道してたんでしょ?今更ウチで夕飯食べても状況は変わんないって」

が笑う。

「だけどー...」

「赤司くんが、黒子くんにまっすぐ帰るように言ったのって、その手が原因だろうし。けど、もうバスケしちゃったんでしょ?」

そう言ってが黒子を見ると、彼はバツが悪そうに頷いた。

「明日、みんなで大人しく怒られなさい」

そう言っては笑う。



食後のデザートは杏仁豆腐だった。

あの短時間で良くこんなに作れたものだと皆が感心した。

紫原は無いと思っていたデザートまで出てきて非常に上機嫌だった。

ちん。オレんちにくればいいよ」

「...どういう意味?」

「毎日ちんのご飯とおやつが食べたい」

「ダメっス!」

「却下だ!」

最近随分と見慣れた光景には溜息をつく。

「おいおい、モテモテだなー」

「全部青峰くんに譲るけど、どう?」

の言葉に

「いるかよ」

と青峰が笑う。


皆が帰ろうと話をしていると玄関の鍵が開く音がした。

「あらあ?」

ひょっこり顔を出したのはどこかに雰囲気が似ている人だった。

「よかったー。今日もお土産を買い込んでね、この子に怒られるところだったのよー。『どうやって消費するのか、計画を示していただけますか!』って。可愛くないわよね」

普通に皆の輪に入ってきた人物に何と言うか、困惑した。

「母親」

短くが紹介し、皆は自己紹介をした。

「お友達がこんなにいるのね」

どこか嬉しそうに彼女がいい、は少し照れたようにふいとそっぽを向いた。

(か、可愛いっス...!)

照れた様子のを見て、黄瀬はぎゅーってしたい気持ちを必死に抑える。

緑間は視線を外して眼鏡のブリッジを押し上げる。

(可愛いのだよ...)

大きな手がの頭をガシガシと若干乱暴に撫でた。

見上げると紫原だった。

ちんのお母さんはいい人だー」

「...おやつを持って帰ったからね」

が言うと紫原は「そー」とうなずく。

非常に分かりやすい。

帰り支度をしていた彼らはまた腰を落ち着けてしまった。

の母親のお土産を食して、今度こそ帰る支度を始める。

「車で送ってあげたいのは山々だけど、新幹線の中でビール飲んじゃったからねー...」

申し訳なさそうにする彼女に、黄瀬たちは「気持ちだけ」と言って苦笑した。

「あ、そうだ。

桃井がバッグから何やらを取り出した。

「なに?」

「これ、一枚あげる」

嬉しそうに差し出されたのは、プリクラだった。

「プリクラも撮ったの?」

そういいながらは素直に受け取った。

「そう!いいでしょ」

上機嫌で桃井が返し、彼女は玄関に向かった。

「いいなぁ...」

ポツリと呟くの傍には黒子が居た。

の呟きが耳に入った黒子は彼女に視線を向ける。

「あ、黒子くん。忘れ物はない?まあ、あっても明日学校に持ってくから」

そう言っても玄関に向かった。

「いや、みんな大きいわねー。靴もおっきい。旦那が帰って友達を連れて帰ったのかと思ったわー」

そういいながらの母親は靴を履いている彼らの様子を眺める。

「じゃあ、お邪魔しました」

丁寧にお辞儀をして黒子が玄関を後にする。

「また明日ね」

は彼らを見送るために玄関を出て、手を振って見送った。









桜風
12.8.6


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