僕たちの夏休み 2





バスの中で行われたマネージャーのミーティングが終了した途端、はこてりと隣に座っていた桃井に寄りかかる。

「ちょ!」

思わず声を上げた桃井に、他のマネージャーたちは「仲いいねー」と笑う。

「桃っち、羨ましいっス!」

そっと振り返ってその様子を目にした黄瀬が言う。

「黄瀬が隣にいたんじゃ、眠れるものも眠れないだろうな」

緑間が言うと

「かもなー」

と青峰が笑った。

黄瀬が彼らに文句を言っている間に目的地についた。


荷物を降ろして割り振られた部屋にそれらを置いて体育館に集合だ。

早速練習が始まり、選手達は汗だくになっていた。

マネージャーもそれぞれ忙しい。

1日目は半日と言うこともあり、あっという間に終わった。

2日目、3日目と過ぎていった。3日目は練習試合の日だった。

試合を見ながらはふと、違和感を感じた。

試合は、帝光中学バスケ部の圧勝だった。

ぴとりと頬に冷たいものを当てられて赤司は振り返る。

君」

彼女は手に持っていたペットボトルのスポーツドリンクを赤司に渡し、内緒話をするように自分の口元に手を当てる。

赤司は彼女の口元に耳を寄せた。

「もしかして夏バテ?」

そう問われて驚き、から離れる。

「なぜ?」

「なんか、ちょっと違うって言うか。夏は立ってるだけでも汗を掻いたりで体力がなくなるよね。あと、合宿中の赤司くんはご飯を食べる量が少ないし」

「...見てたのか?」

「見てるのよ?」

首を傾げて彼女は言う。

「だから、ちゃんと食べましょう」

にこりと微笑んで彼女は言う。

「...やだ」

「わー、びっくりした」

我侭だ。

「けど、体力なくなると困るでしょ。赤司くんも、チームも」

が言うと赤司はふうと溜息をつく。

「気付かせると思うか?」

「わたしは、気付いた。ということは、他の人だって気付く可能性はある」

一理ある。

赤司は黙った。

そしてちらと彼女を見た。

「あれが飲みたい」

「...あれ?ポカリ??」

は首を傾げる。

ドリンクサーバーの中に作っているのは別の製品だ。

「ちがう。前に、君が作ってきていた...」

「野菜ジュース?」

赤司はコクリと頷いた。以前、全日練習があったときに彼女は野菜ジュースを作ってきた。それを飲んだことがあるのだ。

「あれなら、効率的に水分とビタミンを補給できる」

作るのは全く苦ではない。簡単だ。材料を切ってミキサーにポンだから全く労力は要らない。

しかし、

「材料がないよ」

と言う。

ここの食事は、この施設を貸してくれている大学に勤めている調理師が食事の時間にやってきて作ってくれる。

材料は元々こちらで用意したもので、それはカロリー計算などがなされているものだからおいそれと勝手には使えない。

しかし、赤司は引く気が無いのか、じっとを見ていた。

「わかった。ちょっと..考えてみる」

のその言葉に赤司は頬を緩めた。

「けど、期待しないで」

「もうしているよ」

赤司の言葉には溜息を吐いた。


翌日も練習試合があった。

試合が終わると「あーかーしーくん」とがやってくる。

手には、ドリンクのボトル。

「ご期待いただきましたのでー」

そう言ってボトルを渡す。

赤司は眉を上げた。まさか、本当に実現させるとは...

取り敢えず、受け取ったボトルの中身を飲む。

「これは、この前と味が違う...?」

に問うと「あ。赤司くんは舌がいいんだね」と彼女は頷いた。

「この間のより、俺はこっちの方が好きだな」

「だろうね。夏仕様だし」

「夏仕様?」

「夏はたくさん汗を掻くからね。塩分も失われるし、勿論水分も。汗と共にカリウムがなくなるでしょ?」

それから汗のメカニズムについて話し始めた。

「よって、やっぱりそれに合わせなきゃ。ちなみに、砂糖は入れてません」

「では、何を...」

少し甘みも感じる。

「果物。あと、ちょっとハチミツ」

「凄いな...」

これなら、夏バテ気味の体でもすんなりと受け付けられる。

「材料は?」

「調理師さんと仲良くなってたから、今日のお昼ご飯を作りに来てもらうときに、買ってきてくれるようにお願いしておいたの」

(なるほど...)

料理をするもの同士、なにやら友情のようなものが芽生えているようだと桃井が零していたのを昨日あたりに聞いたような気がする。

君」

「はい?」

「コレを作るのは、かなりの手間か?」

「ううん。一番難しいのが、材料調達かな」

「...そうか」

「あれ、赤司っち。ちゃんと何をこそこそ話してるんスか?」

黄瀬が赤司に隠れていたを見つけてやってきた。

「秘密だ」

「え?何でっスか!」

まとわりつく黄瀬を適当にあしらい、赤司はどこかへいった。

「で、何を話してたんですか?」

「夏はとても汗を掻くよねって話?」

首を傾げて背後から突然現れた黒子に返す。

さんは、基本的に僕に驚かないですね」

「何処にいてもおかしくないって思ってるから?」

黒子の指摘にはそう返して仕事に戻った。たまに驚くこともあるけど、ちょっとかっこつけてみた。


その日の晩のミーティング後、は監督に呼ばれる。部屋の中には、コーチと赤司もいた。

(何やったっけ?)

偉い人に呼び出される、即ち、何かやっちゃったと思っているは此処最近の自分の行動を反芻した。

特に問題は無いと思う。

、今日赤司に渡したと言う野菜ジュースの材料は何だ?」

「はい?」

思わず問い返すが、質問を繰り返してもらえない。

「あ、えっと...」

材料を指折り数えながら口にする。

監督とコーチは顔を見合わせた。何か拙かっただろうか...

不安そうに同席している赤司を見ると彼は頷いた。

「明日から、それを作るようにしてくれ」

監督に言われた。

「はい?」

「いいな」

と言って監督が部屋を出ようとした。

「あの、材料がー...」

「明日から用意するように指示しておく」

そう言って監督とコーチは部屋を出て行った。

「なに、あれ...」

振り返って赤司に問う。

「俺が提案してみた。効率的だと思ったからな。そう手間でもないんだろう?」

「...まあ、うん」

「それに、今日のを飲んで少し俺の体調も良くなった気もしたし」

「それは、思い込みでしょ」

の指摘に赤司は喉の奥で笑う。

「人の体はある程度思い込みで何とでもなるんだよ。大丈夫、効果はある」

赤司が言うと本当にそんな気になる。

は苦笑して、「ま、皆には騙されてもらいましょう」と呟いた。









桜風
12.8.22


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