| 恒例の肝試しは、おどかす役がいない。 だから、暗い夜道をテクテクと歩けばいい。 「で、紫原くん」 「なに?」 「重い、歩きにくい...」 紫原はを背後から抱きしめたまま歩いている。 たまにお互いの足が引っかかってつんのめる。 がつんのめるだけなら紫原は余裕だろうが、如何せん、紫原がつんのめるとがその全体重を支えなくてはならない。 実は結構腰に来る。 「あのさー、紫原くん」 「なに?」 たまに物音、おそらく他のチームの足音や話し声なのだろうが、それが聞こえるたびに彼はをぎゅっとする。 つまり、ビビッているのだ。 だが、これをストレートに指摘しても絶対に「違うし」って拗ねながら答えるに違いない。意外と厄介なことである。 「仮に、紫原くんがわたしを楯にしていたとしよう」 「してないし」 「あなたとわたしの身長差はどれくらいあるか知っているの?」 「1m」 「そんなにわたしはちっこくない!」 反射でが返す。 「...冗談だし」 プイと拗ねて紫原が呟く。 「つまりね、紫原くんはわたしの後ろに隠れようとしても絶対に隠れきらないのよ」 「ちん、ちっこすぎ」 「普通サイズ!」 反射でそう返す。 「あと、こうやって歩いていると歩くペースはどうしても遅くなるよ?」 「ちんの足が短いから」 「普通です。身長に対して、普通です」 「強がらなくてもいいよ、ちん」 さすがにちょっとムカついたのではするりと紫原の腕から抜けてスタスタと歩き出す。 「え、ちん。待って!」 「やだ」 「待って...!」 早歩きしていたが振り返ると2mの巨漢がドスドスと追いかけてくる。 「怖い怖い...!」 物凄く迫力がある。紫原なら大丈夫だろうが、それでもアレに掴まると考えるのは非常に恐怖心を煽られる。 「何で逃げるのー」 「ちょ、まって。紫原くん、止まって」 「ちんが逃げてるからじゃん」 「わかった。紫原くんが止まったら、そっちに行くから」 が返す。 「ホントにー?」 「ホント!」 「じゃあ、止まるし」 そう言って紫原が止まった。 も足を止める。 約束どおりは引き返して紫原の元に向かった。 「何で逃げたのー?」 「紫原くんが失礼なことを言うからです」 が言うと紫原は「んー...」と悩み、「ごめんねー」と思い当たるところはないらしいが、取り敢えず謝った。 が嘆息つき、それで許してもらえたと思った紫原はにこりと微笑む。 「あ、わかった」 「なに?」 「こーしよう」 そう言って紫原はを抱っこした。 お父さんが娘を抱っこするような抱き方だ。 「えっと?」 「これならちんの足が短くても大丈夫だし」 「チョップいいかしら?」 そう言ってかなり手加減をしたチョップを紫原の頭に落とす。 「なに、痛いよー」 「知りません」 「ちん。おーぼーだ」 ぶうぶうと文句を言うが紫原はそれでもを降ろそうとしない。 そしてゆっくりと歩き出す。 「わっわっ...」 慌てて紫原にしがみついた。よく持ち上げられるが、大抵すぐに降ろしてもらっているので景色が動くのは初めてだ。 「なに?」 自分より高いところから声がすることが新鮮な紫原はに問う。 「紫原くんの景色って、凄いね」 「凄い?」 「遠くまで見ることができるね」 「そーかも」 「凄いなー」 独り言を呟くに紫原は少しだけ照れた笑みを零していた。 |
桜風
12.8.25
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