| シュート練習は毎日欠かさず行う。たとえ正月であっても。 それが人事を尽くすと言うことだ。 緑間は、ゴールのある公園に足を運び、シュート練習をしていた。 「わん!」 ちょうどボールがリングを通過した瞬間に犬の鳴き声が聞こえて振り返る。 「ナイシュー」 そう言って彼女は笑っていた。 「...」 驚いて緑間は呟く。 「どうしたのだよ、こんな時間に」 そこまで言ってはっと気付いた。 「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」 そう言って頭を下げる緑間に苦笑して「こちらこそ、今年もよろしくお願いします」とも挨拶を返す。 「それで、どうしたのだよ」 「うん、ロードワークついでにこの子の散歩」 「そうか...」 足元で尻尾を振って自分を見上げている犬を見下ろした。 黒子にそっくりで、誠凛高校バスケ部で飼っているこの犬、名をテツヤ2号というのだが、どうやら自分に懐いてしまったようだ。 数日前にと共に救出に向かったことで恩を感じているのかもしれない。 ただし、緑間はそんなつもりでと共にいたわけではないので、少々良心が痛むのだが... 緑間は自分の放ったボールを拾いにゴールの方へと足を向ける。 それを追いかけてテツヤ2号も走り始めた。 はベンチに腰を下ろした。 「もう走らないのか?」 緑間が問う。 「うん、あとは帰るだけ。けど、テツヤはまだ遊び足りないようだから」 (『2号』をつけてくれ...) 前にも思ったが、やはりあまり気持ちのいいものではない。 「わたしが手伝えたら手伝ったんだけどねー」 が苦笑して言った。 緑間はシュートを放ち、そのボールを回収しにゴール下まで足を向けている。 はボールとの相性が物凄く悪い。 青峰曰く、「呪い」だ。 まさしく呪われたように、ボールがまっすぐに飛ばないのだ。 よって、彼女は1年を通して成績がオール5となるのは3学期だけなのである。 3学期の体育は基本球技はせずに、只管走るだけのものとなる。 そのため、球技との相性が悪いは実技でも得点を稼ぐことが出来、最高評価を貰うことができる。 「いや、これも練習の一環なのだよ」 「あと、テツヤが足元でごめんねー。邪魔なら言って」 「...いや、大丈夫なのだよ」 (だから、せめて『2号』をつけてもらいたいのだよ) 心の中で言葉を足して緑間はシュートする。 暫くシュート練習をしていた緑間が手を止めた。 汗を拭い、ボールをバッグに収める。 「あら、お終い?」 「ああ。送っていこう」 「大丈夫よ。ここにナイトがいますから」 そう言ってテツヤ2号を見下ろした。 「わん!」 誇らしげに彼が声を上げる。 「送っていこう」 それを黙殺して緑間は繰り返した。 は苦笑して「では、お言葉に甘えて」と言う。 ふいに緑間がベンチに座っているの頬に触れた。 「やっぱり...」 溜息混じりにそう言う。 「なに?」 「冷え切っているのだよ」 「あー、まあ。緑間くんの手の温度がわかんない程度にはー」 苦笑してが言う。 「まったく...少し待っているのだよ」 そう言って緑間はいなくなった。 「どこ行ったのかな?」 足元のテツヤ2号に声をかけると、彼は首を傾げて「わん...」と元気なさそうに鳴いた。 少しして緑間が戻ってきた。 「これを」と言って渡したのは、おしるこの缶だった。 近くの自販機で購入したのかもしれない。 「ありがとう。ちょっと今持ち合わせがないのですがー...」 「いいのだよ」と緑間が言う。 「いやいや、そういうわけには...」 が言う。 「それなら、これから家まで送っていくからそのときで良いのだよ」 「では...」 そう言ってプルトップを上げようとして力が入らない。 「まずは頬に当てて、体を温めるのだよ」 そう言って彼はの手にある缶を手にして彼女の頬に当てた。 「おー...あ、段々感覚が戻ってきた」 は緑間によって頬に当てられている缶の温かさのお陰で随分と感覚が戻ってきた。 「どうだ?」 そう言って緑間が自分の手を彼女の頬に当てた。 「ひゃあ!」 「あ、す..すまない」 いつの間にか、緑間の手の方が冷たくなっていた。 「わー、こちらこそ。秀徳高校の皆様にド突かれてしまうわ」 缶を持っていた手、左手は暖かいままだろうが空いていた右手は冷たいだろう。 「大丈夫なのだよ。これから走るし」 そう言って緑間は自分が持っていたおしるこの缶をに渡した。 受け取ったはそれをジャージのポケットに突っ込み、「じゃあ、帰ろうか」と足元のテツヤ2号に声をかけた。 「わん!」 元気の良い返事を聞いては立ち上がる。 「走っても大丈夫?」 緑間を見上げると頷かれたので、は走り始めた。 荷物を持っているのに大丈夫なのかな、と思ったが、緑間は軽く走っている。 (さすが...) は感心し、そして安心してそのペースで走り、自宅を目指した。 |
桜風
13.1.1
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