年の初めに





大晦日、家族で団欒しているとの母親の携帯に着信がある。

「あら、あっくんからだ」

「「あっくん?!」」

は眉間に皺を寄せ、父親は青くなっている。

さん、『あっくん』て誰?!」

「さあ?初めて聞いた名前だね」

『あっくん』と母親は大層楽しげに会話をしている。何やらお菓子のことで盛り上がっていた。

(...まさかねー)

はその会話の内容から一瞬頭に浮かんだ人物が居た。

しかし、その彼がなぜ自分の母親と携帯番号を交換するのか意味が分からないのでその考えは打ち消した。

「はい、さん」

「あっくんさんからですかー」

そういいながら受け取り「もしもし?」と返す。

「あ、ちん」

「うん、あっくん。あなたのお陰で今我が家は大変なことになってるよ」

目の前では「『あっくん』て誰?!」と泣きそうに聞いている父親と「あたしの若いツバメ」と適当に返している母親の姿がある。

(訂正するのは面倒だから、放っておこう...)

酷い娘である。

「で、なに?」

「明日初詣行こー?」

「ん?うん。ちょっと待ってね」

そう言って通話口に手を置き、「ねえ」と両親に声をかける。

「なーにー?」

母親がみかんの皮を剥きながら返事をする。

「明日、初詣に行ってもいい?」

「どうぞ?」

「え、うん。いいよ。で、『あっくん』て誰??」

父親はそれどころではないらしい。

「いいって」

「じゃあ、明日10時に帝光最寄の駅でオレの下に集合」

懐かしい集合形態である。

「うん、わかった」

苦笑しながらは返す。

「お母さんに代わったほうが良い?」

「ううん。もういい。じゃーねー」

そう言ってあっくんこと、紫原は通話を切った。

「お母さん、終わった」

そう言って携帯を返す。

「あら、あっくんとデート?」

「というか、集合って言ってたから、皆じゃない?」

はそう返して部屋に帰ろうとした。

さん!」

「はい?」

父親に腕をつかまれる。

「あっくんて誰?」

「紫原敦くん。どうして番号の交換をしたのかわかんないけど、紫原くんとお母さんは友達になったみたいね」

の返答を聞き、彼は安堵したように息を吐いた。


翌日、は電車に乗って帝光中学最寄駅に向かった。

さすがに人が多い。電車のダイヤも少ないので不便ではあったが、ちゃんと時間前にはつくことが出来た。

駅を出てすぐに待ち合わせ場所を見つけた。

「紫原くん」

「あ、ちん」

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

が律儀に返すと「うん、今年もたくさんちんのお菓子食べたい」と言った。

(...や、だからベンチが違う)

もう口に出して突っ込むのは疲れた。

「じゃあ、行こうか」

そう言って紫原が歩き出す。

「あれ?皆は?」

がそう言うと

「みんな?」

と紫原が首を傾げる。

「だって、紫原くんの下に集合でしょ?」

「うん。オレとちんが、オレの下で集合」

(紫原くんはどうやって紫原くんの下に集合するのか...)

密かに突っ込み、

「つまり、2人で初詣ってこと?」

と確認した。

「そー。ダメだった?」

「ううん、皆とだと思ってたから。そっか。じゃあ、行こうか」

が納得したのを確認して紫原は安心したように頷き、昔夏祭りに行ったことがある神社に足を向けた。


ちん、大丈夫?」

意外にも人が多かった。

「地元の小さな神社だからそんなでもないと思っていたのに...」

「まあ、でも。夏祭りのときも結構盛況だったからねー」

紫原の呟きには苦笑した。

そして「よし!」と気合を入れる。

「ねー、ちん」

「ん?何??」

ちんはちっこいから、消えたら探せないよ」

「ちっこくない。大丈夫、はぐれたらわたしが紫原くんを見つければ良いんでしょ?」

「というわけで。よいしょ」

そう言って紫原がを抱っこした。

「へ?」

「これなら大丈夫」

「え、せめて手を繋ぐとか...」

「これなら大丈夫」

もう一度同じ言葉を繰り返した。もう降ろす気がないということだ。

「え、ちょっと。正月早々恥ずかしい」

「さー、行こう」

紫原が歩き出す。

「わ、ちょっと...!」

慌てては紫原にしがみつく。

「歩きにくい」

「降ろしてー」

「だめー」

紫原に抱えられたまま神社の境内を進み、そのまま賽銭箱の前にやってきた。

「降ろして」

「んー、わかった」

さすがにここでを持ち上げておくのは礼儀等に反するのかな、とちょっとだけ察した紫原は大人しく彼女を降ろす。

2人並んで手を合わせた。

「よいしょ」

「え、また?!」

お参りが終わって、紫原はまたを抱っこした。

もう解放されるだろうと思っていたは逃げ遅れた。


「ねー、ちん。お腹空いたね」

「んー、まだ大丈夫だけど。でも、お正月だから何処も開いてないんじゃないの?コンビニで何か買う??」

「大丈夫。今は色んなところが開いてるし」

そんな会話をしている間に神社を後にした。

紫原は迷わず足を進めている。

「ほら」

暫くしてファミレスの看板が見えてきた。くるくる回っている。

「あ、ホントだ。開いてるみたい。人多くない?」

「たぶん大丈夫だし」

そういった紫原は「何食べようかなー」と少し弾んだ声で呟いた。









桜風
13.1.1


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