| 昼過ぎのうららかな午後。はテクテクと散歩をしていた。 正月はちょっと食べ過ぎてしまう。 だから、ちゃんとカロリーを消費しなくてはならない。 「あれ?」 は首を傾げた。前を歩く人の背中に何となく見覚えがあったのだ。 ただ、着物を着ているから自信は無い。 不意に彼が振り返った。 「あ、やっぱり」 は少し駆け足で彼の元に向かった。 「わー、あけおめー」 「あけましておめでとう」 返された。 「あけましておめでとうございます」 も言い直す。 「今年もよろしく、君」 「あーまあ、こちらこそ程々によろしく」 が返す。 「てか、着物似合うねー。カッコイイ」 が目の前の赤司に向かってそういった。 「そうかな?」 少し照れたように赤司が返す。 「どうしたの?あいさつ回り?」 「まあね。年始くらいは付き合ってみようかと思って。普段、全く付き合っていないから」 苦笑して彼が言う。 「親孝行さんですねー」 「からかうな。君は?」 「カロリー消費のためのお散歩」 「そうか...」 赤司がそう返した。 「あいさつ回り、終わった?」 「ああ、終わったよ。両親は車で帰っているんだけど、少し独りになりたくてね」 赤司が言う。 「あら、お邪魔しました」 が慌てると 「君はいいよ。僕の妹だ。トクベツだからね」 といつもの自信に満ちた表情で言われた。 「あはははー」とは乾いた笑いを口にする。 「あいさつ回りってことは、色々ご馳走してもらったんだ?」 「いや、全部断った。全ての接待を平等に受けられるとは思えなかったからね」 赤司の言葉には納得した。 「食が細いもんね」 なにやら文句がありげに彼はを見たが、彼女はそれをさらりと流した。 「んじゃ、ちょっと歩くけど。ウチに来る?昨日のお蕎麦まだ残ってるの。お蕎麦なら食べやすいんじゃないの?」 の提案は非常に魅力的だったが、 「迷惑じゃないのか?」 と赤司が問う。 「あら、赤司くんに『迷惑』の概念があったのね」 が言うと赤司は半眼になって彼女を見る。 「あはははー」 またしても乾いた笑い。 「まあ、寧ろうちに帰ったら飲んだくれがいて、赤司くんに確実に絡んじゃうから、正直おススメできないんだけど」 そう言うに 「さっきまでとそう変わらないということだよ」 と赤司が返した。 「お邪魔するよ」 「では、ご案内いたしましょう」 「ただいまー」 「おかえりー。って、あら。征十郎君」 玄関先にいたの母親が彼を笑顔で迎えた。 「あけましておめでとうございます」 赤司が挨拶をすると彼女も挨拶を返す。 リビングに入ると、一升瓶が転がっていた。 「あーあー...」 呆れたようにがそれを片付ける。 「お父さんは?」 「シャワー浴びて、夜のお酒を買いに行くって」 「もう飲むな!」 は母親にそう言って赤司を見る。 「ごめん、ちょっと窓開けさせてね」 「いいよ」 赤司は苦笑して頷く。ここまで酷いとは思っていなかった。 部屋の中はアルコールの匂いが充満しているため、窓を開けて空気の入れ替えをする。留守番をさせられていたテツヤ2号は酒の匂いに中てられて、酔っ払って寝ているようだ。かわいそうなことをしてしまった。 「征十郎君、素敵な格好ねー」 「あいさつ回りがあったものですから」 赤司が返す。 「あら、もしかしていい所のお坊ちゃん?」 「さあ?」 適当にはぐらかす。 「ウチの旦那も昔はそうだったのよー。あいさつ回りで三が日がなくなってたって。んー、けど着物って疲れない?服貸してあげるよ?」 の母親は赤司と殆ど背丈が変わらない。 つまり、自分のスウェットか何か貸すと言っているのだ。 「あ、いえ」 「待っててねー」 そう言って彼女がいなくなった。 「君...」 人の話を聞かずにいなくなった彼女の母親に対する抗議を向けてみた。 「ん?んー、まあ。お蕎麦のつゆが散ったら、ね。お父さんが着付けできるから、脱いでも大丈夫だし」 苦笑してはそう応じた。 間もなく、の母親が戻ってきた。 彼女も持っているスウェットのデザインに絶句した赤司だったが、彼女の押しに逆らえずに着替える羽目に陥った。 とても、可愛らしい、世界的に有名な白い子猫のデザインのそれだったのだ。 「あー、うん。サイズぴったりだね」 は遠い目をしていう。 背の高さだけで言ったらの母親の方がちょっとだけ赤司よりも高い。 (縦は大丈夫なのは分かってたけど、横も大丈夫とか...) 「あれ?赤司」 シャワーを浴び終わった父親が顔を覗かせてきた。 「お邪魔しています」 そういった後に新年の挨拶をする。 父親もそれを返して、そして格好を見て「似合うなー」と苦笑した。 「まあ、着物は帰る前に着付けてやるから」 「そういうことまで得意なんですね」 感心して赤司が言うと 「昔取った杵柄だよ」 苦笑して彼が返す。 赤司の前に蕎麦が出てきた。 「はい、どうぞ」 「ありがとう」 蕎麦をすすって、手を止めた。 「美味しいな」 感動して思わず声が漏れる。 「おー、そうだろう?ほーら、塩加減はアレで丁度良かったんだって」 の父親が娘に向かって言う。 「えー、そうかな?もうちょっと控えめでも良かったよ。第一、赤司くんのは、おつゆで調整してるから丁度良いんだよ」 そんな会話を目の前でされた赤司はぽかんとした。 「あ、ウチは手打ち」 「はい?」 赤司が目を丸くした。 「旦那があの子との交流を持つのに、家で作れるものは一緒に作るって昔からやってたからね。その名残」 苦笑して彼女の母親が言った。 「旦那の実家って名家って呼ばれるような家なのよ。だから、あたしと結婚したいって言う旦那の話に大反対して。だったら家なんて要らないって自分で縁を切って出てきたの。弟妹に色々押し付けて。未だに文句言われてるわ」 「そうだったんですか...」 「実家が親子の関係が薄くて、絆っていうものがなかったから、作ってみたいってアレコレ試行錯誤で、今の関係。悪くないと思うけど、征十郎君的にはどうかしら?」 「...いいんじゃないでしょうか。楽しそうです、2人とも」 「だよね」と彼女が笑った。 |
桜風
13.1.1
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