| たまたま桃井がそこを通りかかると、二軍マネージャーたちがサボっていた。 キャッキャと楽しげに笑っている。 マネージャーは選手の休憩時間もかなり忙しいから、少し時間があるならサボるのは構わないと桃井は思っている。 (そういえば、ってずっと動いてるなー...) 桃井はそんなことを思っていた。 「知ってる?って」 丁度彼女たちもに関する話題を始めた。 桃井は思わず足を止める。 「あいつ、前の学校で苛められてたらしいよ。んで、逃げてきたんだってー」 ゲラゲラと品なく笑う彼女たちに嫌悪を覚えた。 というか、俄かに信じがたい。 あのマイペースなクセに他人のことに気を配っているが、誰かに、集団に嫌われるとか... (デマでしょ?) 「ああ、だからこっちに転校してきてすぐに赤司君とかの後ろに隠れてんだ?上手くやってるよねー。初マネのクセに、何で一軍マネなのかと思ったけど。なるほどねー」 やはり彼女たちは品なく笑う。 桃井は腹が立った。物凄く腹が立った。 のことは好敵手だと思っている。マネージャーとして、彼女は周囲を凄く助けている。 彼女の方法では自分はチームを助けられない。 だから、自分のできることでチームを助ける。これは桃井の誇りでもあった。 だから、彼女を貶められることは即ち、自分の誇りを貶められることにもなる。 一歩足を踏み出すと、ぽんと肩を叩かれた。 振り返って桃井は瞠目する。 「?」 彼女は苦笑して手招きをし、その場を去る。 桃井は仕方なく彼女に着いていった。 「あそこで出て行くのは賢くないって。間違いなくとばっちりが行くよ。桃井だって色々言われてるの、知ってるんでしょ?」 は苦笑した。 確かに、桃井は青峰の幼馴染だから贔屓されているとか何とか言われている。 だが、それだけではないと皆が認めてくれている。頼られているから、そんな風に陰口を叩かれても、気にしない。 「いつからいたの?」 「桃井が足を止めてから、かな?」 肩を竦めて言う彼女に桃井は躊躇った。 「まあ、前の学校のことは概ねホント」 彼女の躊躇いを察したがいう。 「本当に?がやられっぱなしってのは想像付かないんだけど...」 桃井が言うとは笑った。 「やられっぱだったよ?だって、相手にしてなかったもん。無駄に群れるの好きじゃないしね」 なるほど、そういう意味では、客観的に見れば苛められ続けたということになるんだろう。 「は、悔しくないの?」 少なくとも、自分は悔しいという思いもある。 「他人にそんなに興味ない。それに...」 そう言っては苦笑した。 「それに?」 「あれが原因で転校ってのも本当だし。けど、そのお陰で100%の味方がいるって、凄いことだって知ることが出来た」 「...どういうこと?」 桃井は首を傾げる。 「わたしね、友達がいなかったの。まあ、家庭の事情と他人にさほど興味を持たないこの性格のお陰で。だから、去年までのわたしって『助けて』って言う相手が両親以外にいなかったし、助けてくれそうな人って浮かばなかったの」 「うん」 の両親は今でこそ共働きをしているが、彼女が小学校を卒業するまでは父親が主夫として家にいたのだと聞いたことがある。 ありふれた家庭の形ではない。それについて同級生などにからかわれ、逆にはそれが当たり前の状況だったから何故からかわれるのかなどが分からなかったと言う。 そんな話を、以前彼女の家に行ったときに彼女の両親から聞いたことがある。 桃井は別にの父親が主夫だったことについてもおかしいと思わなかったし、「へー、お父さんの料理って美味しいんだ?」くらいが精一杯の感想だった。 「ちなみに、両親は忙しいから命にかかわること以外で『助けて』っていうつもりもなかったけどね」 「いや、それは早くに言った方がいいよ」 「あーうん。今はそれを約束させられたから、そうするけど。前の学校ではその必要性を感じなかったの」 「、そこは凄く変だと思う」 桃井がキッパリ言うとは苦笑した。 「ねえ、桃井。桃井が困ったとき、助けてっていったら助けてくれる人、浮かぶ?」 に問われてすぐに浮かんだのが、意地悪な幼馴染だ。 「...いる」 「それって、凄く、凄いことなんだよ」 が言った。 「は?」 「この学校で、できた」 そう言って幸せそうに笑った。 (あ...) 初めて見た笑顔だった。 彼女は笑わないわけではない。可笑しかったら笑うし、嬉しくても笑う。 けど、これまで見た笑顔と少し違うそれだった。 「それって...」 何だか分かった気がした。 「あー、ちんサボってるー」 「サボってないよ、休憩してるんだよ」 がそう返して「行こう」と桃井を促す。 「桃井、赤司が探していたのだよ」 「え、ホント?!」 桃井は慌てて体育館に向かう。 一度足を止めてを振り返った。 「なに?」 「...何でもない」 桃井は改めて体育館に駆けて行く。 ――それって、何人? 聞きたかった。けど、聞きたくなかった。 おそらく、彼女は「6人」と答えるだろう。 自分がカウントされないのは、やっぱり寂しい。 (...7人) 紫原と緑間と共に体育館に足を踏み入れ、は心の中で呟く。 これまで『0』だったのに、7人も助けを求めることが出来る相手が居るのだ。 「さん、どうかしたんですか?」 不意に黒子に声を掛けられては首を傾げる。 「どうかしたって?」 「...何だか、嬉しそうです」 「そうねー、嬉しいことを発見したからねー」 は笑った。 「それは良かったですね」 黒子に言われて彼女は頷く。 やっぱり、とても嬉しそうに。 |
桜風
12.9.1
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