| その日は学校の都合で練習がなかった。休日だと言うのに、やることがない。 紫原がフラフラと街中を歩いているとポンと背中を叩かれた。 振り返って見下ろすとバスケ部マネージャーが見上げていた。 「どこいくの、紫原くん」 彼女が言う。 「さあ?」 目的もなく出歩いていたのでそう答えた。 「ちんは?」 「わたしもなんとなくー」 彼女が笑う。 何となしに一緒に街中を歩く。 「紫原くんはよくおやつを食べてるよね」 「うん」 「美味しいの、それ」 彼女が『それ』と言ったのは『まいう棒』というものだ。紫原は袋一杯のまいう棒を抱えて先ほどから食べ歩いている。 「うん、おいしいよー」 「何味?」 「プレーン」 彼女が足を止める。 「...ん?」 紫原が振り返った。 「それって、何味?」 物凄く不思議そうな表情を浮かべて彼女が問う。 「プレーン」 「ひとつちょうだい?」 彼女が手を伸ばす。 「だーめー」 「...今度買ってみよう」 「期間限定、数量限定だからもうないよー」 「えー!凄く気になるのに...!!」 心から悔しそうな彼女に紫原は少し楽しくなった。 「じゃあ、最後の1本あげる」 「ホント?!ありがとう!」 パッと彼女の表情が明るくなる。 紫原はにやっと彼女に笑った。 そのまま一緒並んで歩く。 「たべないのー?」 「歩きながら食べるのは苦手なの」 彼女が答えると 「お嬢様みたーい」 と紫原はからかう。 「もう!」 と彼女は拗ねた。 「あ!」と隣を歩く彼女が声を漏らす。 見下ろすと彼女は空を見上げていた。 つられて紫原も視線を向けると、目の前を風船の紐が流れていった。 「取って!」 「えー?」 手を伸ばすとその紐はするりと手から逃げていった。 彼女のさらに足元では女の子が泣き始めた。 「紫原くん、ちょっと重いけど我慢できる?」 「んー?なにするのー?」 「跳ぶ!」 そういって彼女は紫原の肩に手を置いて跳んだ。 紫原の肩に載せた手にさらに力を込めてさらに跳ねる。 手を伸ばしてギリギリその紐を掴んだ。 「わっ!」 バランスを崩した彼女はそれでも紐を離さなかった。 「だいじょーぶー?」 紫原が彼女を受け止めた。ふわりと甘い香りが紫原の鼻腔を擽る。 「ありがとう」 彼女を下ろすと、彼女は女の子に風船を渡す。 「ありがとう、お姉ちゃん。お兄ちゃん」 彼女はそう言って駆けていった。 「紫原くん、大丈夫だった?一気に負荷を掛けちゃったから...」 「ねー、ちん、甘い匂いがする」 そういいながら紫原は彼女の首筋に顔を埋めた。 「はあ?紫原くん?!」 「うん、甘い匂いだー。おいしそー」 「今朝、お菓子焼いたからだろうね」 「えー、いいなー」 「今度、家庭科の実習で作ったらあげるよ。今日のお礼」 彼女の言葉に紫原は「やくそくねー」と頷いた。 数日後、彼女は約束どおり紫原にクッキーを渡した。 「わー、ありがとー」 「紫原っち!何でちゃんからクッキーをもらえるんスか!」 黄瀬が騒がしい。 「えー、やくそくしたしー。ねー、ちん」 彼女は「あれ?」と首を傾げつつも「うん、約束したね」と笑う。 「え、オレには?」 「ないよ。青峰くんが鬼のように食べたもん」 彼女が言う。 「何で青峰っちにもあげてるんスか!」 「同じクラスで、調理実習が同じ班だから」 「ちなみに、俺も食べたのだよ」 自慢げに緑間が言う。 「緑間っちもー?!ちゃん、オレにも作ってー!」 「クラスの女子が作ってくれるよ、よかったね。もしかしたら、ウチのクラスの女子が準備してるんじゃない?帰りの正門が楽しみね!」 そう言って彼女は逃げるようにその場を離れようとした。 「ねえ、ちん」 「なに?」 「やっぱり美味しそうな匂いがするー」 紫原がそういった。 「いただきます」 「はい?!」 まさかそんなことをされるなどと思うはずもなく、彼女は逃げそこなった。 カプリと噛まれた彼女は「痛いー」と声を上げる。 「ばっ!何やってるのだよ、紫原!!」 「ちゃん、大丈夫?!」 紫原から彼女を引き剥がして緑間と黄瀬が顔を覗きこんでくる。 「ビックリした...」 それはそうだ。 「美味しくなかったでしょ?」 彼女が問うと、紫原は少し考えて首を横に振る。 「んーんー。甘かった」 「ホントっスか?」 黄瀬が振り返り、彼女を見て、緑間もコクリと唾を飲む。 「いやだー!」 彼女はダッシュした。 その後、赤司に怒られた3人はひとまず諸々諦めることとなり、ひとまず彼女は彼らに怯えずに過ごすことができるようになったと言う。 |
桜風
12.7.16
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