かくれんぼ





ガサリと音がして紫原は見上げた。

ちん、どーしたの?」

目があった彼女は苦笑して「しー」と人差し指を口に当てる。

「なに?」

首を傾げて彼は問う。

「うん、ちょっと今..かくれんぼ中」

困ったようには笑った。

木の上に身を潜めている彼女はまさしく『かくれんぼ』をしているのだろう。

ふと、頭上。校舎の中から殺気らしきものが漂ってきている気がする。

「アレ?」

校舎を指差して紫原が問うとは困ったように頷く。

彼女はたまに黄瀬のファンに目をつけられて追いかけられる。

いつの間にか収まっているのは黄瀬が上手く収めているのだろうが、それでも追いかけられている間は非常に大変そうなのだ。

「今日の部活、ちょっと遅れるって赤司くんに伝えておいて」

が申し訳なさそうに言う。

ここに紫原が通りがかったから伝言を頼めるのだが、そうではなかったら無断欠席になる。

無断欠席の翌日は、赤司に静かに説教される。間違いない。

(紫原くんが通りがかってくれて良かったー...)

「やだ」

紫原が言う。

「へ?」

「やだ、って言ったし」

「いやいや、お願い。伝言してくれるだけで良いから。ね?」

が拝むと紫原はやはり「やだ」という。

(困ったなぁ...)

仕方ないので、無断欠席を選択することにした。


しかし、紫原が動かない。

「紫原くん、部活行かないと」

「...あんま好きじゃない」

「赤司くんに怒られるよ」

「...赤ちん怖いから行くけど」

そう言って紫原が腕を伸ばす。

「なに?」

木の上に居るを掴んでぐっと引き寄せた。

「わっ!」

驚いて声を上げただが、目の前に紫原の顔があることにまたも驚く。

「じゃあ、部活行くよ」

「え、ちょっと...!」

は驚いて声を上げた。

「いた!」

校舎の上のほうから声が聞こえる。

「うわっ」とは首を竦め、紫原は校舎の窓を見上げた。

「文句があるなら、黄瀬ちんに言うのが筋だし」

窓からを見下ろしている女子に向かってそういい、体育館に向かって歩き出す。

(紫原くんが、筋を説いた...!)

は変なところで感心していた。

紫原に抱っこされ、ちょっと恥ずかしいが、非常に移動が楽なのでは「降ろして」といわなかった。

それに、言ったとしてもきっと紫原は聞いてはくれない。


「ねえ、紫原くん」

「なに?」

「髪、弄っていい?」

目の前にあるのでちょっとウズウズしてきた。

「え、いーけど...」

は自分の髪を結っているゴムを解き、紫原が結っている髪ゴムも解く。

「ちょっと、暑いよ」

紫原が抗議の声を上げる。

「ちゃんと今から結ぶから」

そう言っては紫原の髪を結び始める。

彼女は髪を結ぶのに集中していて気付いていないが、紫原の首に抱きついている格好である。

(あつい...)

紫原はそう思ったが、の行動を止めようとはしなかった。

「はい、出来た」

「ねー、ちょっと。これ?」

紫原が不満を口にする。

「や、ちょっと!可愛い...!!」

が笑った。

「かわいいとか...」

文句はある。

(ツインテールとか...)

の髪ゴムを解いた時点で何となく想像はできたが、本当にするとは思わなかった。

だが、目の前のが楽しそうなので、文句の言葉は飲んだ。



体育館に足を踏み入れて、を降ろす。

「え、やだ。ムッ君可愛い!」

桃井がいち早く紫原を見つけて声を上げる。

ちんがやった」

そう言って体育館の中を探す。

「黄瀬ちん」

黄瀬に声を掛ける。

「何スか..ってどうしたんスか?!」

紫原の頭を見上げて黄瀬が声を上げる。

ちんにやってもらった。そんなことより」

少しだけ羨ましそうに見上げてくる黄瀬に溜息を吐き

「さっき、ちん追いかけられてたし」

と告げた。

黄瀬は申し訳なさそうに眉を寄せ、に視線を向ける。

「またっスか...」

彼女は桃井から髪ゴムを借りて結んでいるところだった。

「木の上に隠れてたし」

「へ?」

ちん、高い所好きみたい」

本人が居たら否定するかもしれないが、彼女は結構高いところが平気なのか、下を探すよりも上を探したほうが見つける可能性は高い。

だから、誰よりも背の高い自分がいちばん彼女を見つけられると思う。

「ところで、紫原っち」

「なにー?」

「その頭で今日の練習するんスか?」

「...そーするー」

ぴょこぴょこと左右で揺れる髪の感覚に少しだけ違和感を持っているが、いつもと違うのが楽しい。

しかし、練習が始まると

「紫原、結いなおせ」

と赤司に命じられ

ちん。赤ちんがダメだってー」

と彼女の元へ行き、髪を結びなおしてもらうことになったのだった。









桜風
12.10.5


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