| 初雪のニュースを耳にする頃、は北に向かっていた。 先日、紫原から電話があり、文化祭をすると言われた。 秋田でも学校行事に文化祭があってもおかしくない。だから、そのこと自体には驚かないのだが、 「ちん来るでしょ?」 と彼が言うのだ。 それには驚いた。 「え...」 素で思わず零れた言葉に彼は盛大に拗ねた。 スケジュール的にはいけなくは無い。 何せ試験期間中だ。 「おお〜...」 (寒い...) 今年二度目の駅に降り立っては感動した。 思いのほか寒かった。 一度いったことのある場所には迷わず行ける。 よって、今回はお迎えなしで陽泉高校へと向かった。 ミッション系の学校だからそういう宗教色を見せるのかなと思ったが、入り口はとりあえず普通だった。 きょろきょろと周囲を興味深く見渡していると「さん?」と声を掛けられて振り返る。 「氷室さん、こんにちは」 (こ、これは...!) どんなコスプレだ。執事か?!コスプレ喫茶か?! 王子様風の服を着ている氷室が笑顔で近付いてきた。 物凄く背中に刺さる視線が痛い。 「どうしたの?」 「ああ、いえ。紫原くんのクラスって何処ですか?」 ついでだから教えてもらおうと聞いた。 「これから俺も行く予定だったから一緒に行こうか」 (...え?) この刺さるような視線は当分甘んじて受ける必要があるようだ。 「紫原くんのクラスって飲食系ですか?」 「飲食系と言うか...バザーみたいなものかな?」 「中学のときは、駄菓子屋..だったかな?」 「近いかも。アツシは店番が辛そうだって言ってたからね」 (なるほど...) まいう棒もあるのだろう。 「で、氷室さんは...なんでその格好ですか?というか、コンセプトは?」 「何に見える?」 「王子様」 間髪入れずにが返すと一瞬面食らったように氷室は眉を上げてすぐに苦笑する。 「そう見えるんだ?」 「はい。違うんですか?」 「一応、従者だよ」 (絶対、王様よりも目立ってる...) 「ちなみに、今は姫を守る近衛兵の気分だよ」 「へー...」 が相槌を打つと彼は再び苦笑した。 (自分のことだって気付いてないんだね) 彼女に何かあったら、紫原が大人しくしていない。 だから、彼女はちゃんと守らなくてはならないのだ。 暫く並んで歩いて「ここだよ」と彼が足を止めた。 そっと教室の入り口から中を覗く。 中々の盛況っぷりだ。少なくとも、閑古鳥は鳴いていない。 「あ!」 紫原が声を上げた。 「室ちん」 氷室は苦笑した。 「俺を見つけるよりも先に見つけないと」 「へ?あ!ちん!!」 氷室の隣に立つに気付いて紫原は嬉しそうな声を上げてこちらに向かってきた。 しかし、途中でピタリと足を止める。 どうしたのだろうとは氷室を見上げて氷室はを見下ろした。 お互い、自分は分からないと視線を交わす。 「わっ」 ひょいと紫原に抱え上げられた。 「ちん。一緒に文化祭回ろう」 「え、店番...氷室さん...」 氷室が態々この教室に足を向けたのは紫原が店番をしているからだろうし、店番と言うのは分担して時間を決めているはずだ。 「だって、ちんが来たんだもん」 「だめでしょ。ちゃんと当番しなきゃ。待ってるから」 「ここで?」 「アツシ。さんだって、遠くから来たんだしここでじっと待っててもらうのは退屈だよ」 氷室の言葉に、そうかもと思うと同時に面白くないとも思う。 「ひとりで回れる?」 「ひとり?まあ、大丈夫だけど...」 なぜ独りだろうとは首をかしげた。 「俺が案内しても良いけど...」 「室ちんはだめ!」 またしてもと氷室が不思議そうにアイコンタクトをしている。 (なんでわかんないの!) 先ほどから自分のヤキモチに気付かない2人に紫原はピリピリしている。 「まあ、いいや。いいよ、ここで待ってる。邪魔にならない?」 「さん?」 「紫原くんと一緒に回るのに、何処残しておけばいいかわからないですし」 がそういった。 「...そう。じゃあ、俺もそろそろクラスに戻るよ」 「ありがとうございました」 ここまで一緒に来てくれた氷室にお礼を言ったを紫原はそっと降ろす。 「ねえ、ちん」 「なに?」 「体の調子悪い?熱あるでしょ」 言い当てられて彼女は苦笑した。 「大丈夫」 「保健室行くよ」 クラスメイトに声をかけて紫原は再びを抱えて保健室へと向かった。 保健医が不在ではあったが、保健室は開いていた。 「ちょっと無用心ねぇ...」 がのんびり呟く。 「ちん、ベッドに寝て」 そういいながら紫原はベッドの上にを降ろした。 「大丈夫だよ」 「だめ!」 「じゃあ...」 あまり寝心地の良くないベッドに寝転んだ。 紫原が大切そうにに毛布を掛ける。 「寒くない?こっち、東京より少し寒いし」 「大丈夫。逆に室内は随分とあったかいよ」 「オレがここにいるから、寝て」 「大丈夫だって。それより抜けて来て良かったの?」 「大丈夫。片付け頑張るから。だから、ちん、寝て」 心配そうに言われては溜息を吐いた。 「ごめんね、一緒に回れなくて」 「いいよ。ちんが来てくれたの、嬉しかったし」 そう言って紫原はの頭を優しく撫でる。紫原の体温が心地よくて、の瞼はゆっくりと重くなっていった。 目を覚ますと、窓の外には夕暮れが広がっている。 首を動かすと目の前に紫原の顔があって驚いた。 彼は自分の腕を枕にして眠っていた。 はクスリと笑って紫原の頭をよしよしと撫でる。 「ちゅーは?」 不意に紫原が口を開いた。 「ありません」 「えー、おはようのちゅーしようよ」 「しません」 目を開けて紫原は「けち」という。 「起きてたの?」 「ううん、ちんの手が気持ちよくて起きちゃった」 「あら、失礼」 「いいよ」 「もう文化祭の終わる時間だよね」 時計を見て言うと「うん」と紫原が頷いた。 「ごめんね、一緒に回れなくて」 「ううん。ちんの可愛い寝顔見れたからいいよ」 にこりと微笑んで紫原が言う。 「じゃあ、わたしも帰ろうか」 そう言ってが体を起こそうとしたら「あ、まだだめ」と紫原が止める。 「え、どうして?」 「もっかい目を瞑って」 そういわれてが目を瞑ると唇に自分以外の体温が当たる。 目を明けると至近距離の紫原の顔。 「お姫様は王子様のキスで目が覚めるって決まってるし」 そんなことを言われてはきょとんとした。 「それはつまり、紫原くんは自分が王子様と言う...」 「違うし。ちんがお姫様だから、オレが王子様になるしかないだけだし」 が不思議そうに首をかしげた。 「ちんにキスして良いのはオレだけだし」 紫原の言葉には困ったように笑った。 「お姫様かー」 が起きるのを手伝った紫原は「駅まで送る」という。 「放課後は部活があるでしょ」 「さっき、室ちんに遅れるってメールした。体調が悪いちんをこのまま見送る方がどうかしてるよ。あとで自主練頑張るから、大丈夫」 は紫原を見上げた。 「では、王子様のエスコートに甘えましょう」 が言うと紫原は満足げに頷いた。 |
桜風
13.2.6
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